いらっしゃいませお前は帰れ
この旧大阪市は無駄に広く、地下まで含めると探索しきれていないところも多いが概ね
・工業地区
・商業地区
・居住区
の3つに区画が分けられている。バームクーヘンのように一番真ん中が居住区で最外郭が工業地区という分け方になっており、それらの中心に中核となる塔が立っていて町全体の統括をしていた。というわけで今から向かうのは商業区である。
「君が巨大ロボットに熱をあげているという話は久々に聞いた気がするよ」
「ロボットゲー自体があまり出ないからなぁ。SRPGとかインディーズならそこそこ出るんだけど」
「ロボのアニメとかはどう?」
「アニメは好き嫌い激しいからなぁ。なんかあるじゃん、画面の前に30分張り付かされることの苦痛というか自分のペースで見させてくれない感」
「倍速すればいいんじゃないかな。私の場合は映画だけど、興味はわかないけど話題になってる系の作品はそうしてる」
「間とか音とかいろんな演出ダメになるから嫌なんだよな」
「確かにそれはそうだね。でも一方で内容が濃縮されるから逆に面白くなったりするのもある。例えば今度エロアニメ倍速にしてみてよ、急に過激になると思うから」
「それは確かに凄まじいことになりそうだな、って俺で試そうとするんじゃねぇ自分でやれよ」
「だってそんなことをしたら清楚な女の子像が壊れるじゃん?」
「お前は清楚というより……なんだろう、言葉にしにくいな。脱力?無関心?と面白ければオッケー主義が混ざって変な事になっているというか」
「……ということは?」
「Not清楚、あ、やめろ!首を絞めるな!ログイン制限反対!」
「ということは?」
「……清楚です」
たわいもない話をしながら商業区へレイナと俺は足を進める。周囲にはあまり人影はない。この街がかなり広いのに対してNPCが少ないのが一因だろう。プレイヤーが一体何人いる想定で作られたのかわからない空間である。
辛うじて動いているエレベーターに乗り駅だったと思われる所の広間にたどり着く。地震にでもあったのか2階に存在した広間は半分が抜け落ち至る所に銃痕が残っている。ここまでくると流石にプレイヤーも増えてきていた。
階段に座っていた能力者らしいプレイヤーはまずレイナに目を奪われた後隣にいる俺に不機嫌そうな視線を向け……顎が外れんばかりの様子になる。オレンジ配信、人気だったもんなぁ。そりゃそうなるか。修理の為にもう一度野生のプロコメントが欲しいけどBANされたのが痛手である。
しかしここに来てもNPCがいない。不思議そうな顔をしている俺にレイナが答える。
「ここら辺のNPCは皆プレイヤーに殺されちゃってるね」
「獣人って心読む能力あったっけ?」
「ないけど視線でわかるかな。プレイヤーでも建造物でもない何かを探してたから」
「怖っ。ということはもしかしてお前がかがんで胸が見えてた時の俺の視線も」
「それは言われなきゃわからなかったかもね」
「墓穴!」
「不潔!まあ知ってたけど。見えなくても視線だけなら感じることができるよ」
「できるか馬鹿。第六感の存在を俺は信じてない」
「早撃ち」
「ぐっっ……」
早撃ち50連敗の屈辱が頭に浮かぶ。俺があいつを見つけて引き金を引こうとした瞬間にはさっきまで背中を向けていたレイナが銃撃を終えているというホラー。あのせいで直ぐに遊ぶのをやめようと思ってた過疎ゲーにのめり込むことになったのである。
それはさておき。レイナの話によるとこのあたりのNPCは一日目に殺されたという話であるがそこにはプレイヤーの欲望があったのだ。そう、R18G設定。それを試すべくその辺りにいるNPCを襲う人間が絶えなかった結果がこれらしい。ただ1日目以降警備隊に入隊したプレイヤーが多数いることで結果的に減少傾向にあるとのことだ。
駅だったものの中を通りすぎると再び崩壊したビル群の前にたどり着く。昔大阪に行った時より見慣れない建物が並んでいるが大体は覚えがある。ヨドハシカメラ、縦に真っ二つになってない!?何があった。
「ほらこっちこっち」
大通り。比較的破損していないその区域には店が立ち並んでいる。かつてショップがあったところをそのまま流用したところも多く、明らかにアイス屋だったところに武器屋ができていた。
手近な店を見ると料理店……らしいがレーション系と質の悪そうな野菜や米しかない。上を見上げるとガラスが割れたままだったりどこの店も武装していたりと崩壊してる感はあれどこのゲームで文明の光を感じ少し安心する。
「レーションは実際に食べるんじゃなくてコマンドで消費するのがコツ。不味いからね」
「肉はないのかここ」
「酸素減って真っ先に死んだのは動物だったからね。お金持ちなら鶏肉はたべれるらしいよ」
「合成肉ならあってもおかしくないと思うんだが」
「機材が壊れてるって話は聞いたね。あと人肉なら融通が利くってさ」
「絶対嫌だ……」
そう話をしていると一番大きな店にたどり着く。本来の外観を何かの部品を張り付け近寄りがたい雰囲気を出しているその店は、『RE社大阪市支部』とあった。
店内には多くのプレイヤーとNPCが出入りしている。俺も入ろうとウキウキしたところでブー、と間抜けな音が天井からした。警備員が足早に向かってくるのがこちらから見える。
レイナを見ると笑いをこらえられない様子で、あ、噴き出したぞこいつ。周囲の注目が集まる中アサルトライフルを持った中年の警備員二人がこちらに近づく。そして何やらタブレットを操作し俺の顔と見比べた。
「すいません、オレンジ文書による機密情報流出に過去関わっていらっしゃいますよね?いやでも年齢的には今40近いはず……まあとにかくうちのブラックリストに入っていますのでお引き取り下さい」
……うん?
◇
「最悪だ……」
「ひーっ、面白い、ひーっ」
少し離れたところで俺は頭を抱える。あれからいくつか口答えをしてみたもののまともに相手にされず追い払われてしまった。ただ画像アップロードしただけでこの街最大の武器屋出禁とかペナルティ大きすぎないか???
「いやー、でもそりゃそうだよ。RE社の絶望っぷりわかってないでしょキミ」
「だから画像アップロードしただけなんだって!」
「はいはい君にとってはそうですね。ひーっ、期待が一瞬で絶望に変わるの、ひーっ」
……なんか腹が立ってきた。涙を浮かべながら笑っているレイナに軽く蹴りをいれるとひらりと躱される。腹を抱えるなテンション上がって声高くなるな、人の不幸は蜜の味というけどさ。
これがコイツの性格その2、良くわからないツボ+笑い上戸である。変な所にツボったら最後しばらく笑い続けて止まらない。いや楽しそうならいいけど、でも俺の不幸を笑ってるので今回はアウト。
「さてここからどうするか。こうなると修理パーツはおろかパワードスーツの購入も難しいぞ……」
「ふぅ……アプデを忘れたのかい?」
「あ、そっかAPの種類増えたってことは店も」
「そう、独占がないから他の会社もAP関係に参入しててその支部が武器屋として残ってるんだ。3つ他に昨日下見してきたから回ってみよう」
なるほど、その手があったか。普通のゲームならショップは一か所に機能がまとめられているがこのリアリティだけ完璧なゲームならそういったこともあるのか。……ということはRE社の店に行った理由、この光景を見るためなのか?
「……ぷく、ひーっ」
「いやそろそろ笑うのやめろよ」
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