1-1章『Ver1.07』変わる世界、換わる未来
白犬レイナ
「『オレンジ恐慌』と呼ばれるパワードスーツメーカーのRE社株が急降下した事件について回りくどい喋りでお馴染み
「オレンジ文書に製造方法まで書かれてしまっていたのが一番の問題かな。あれ2055年に向けて量産型を大量生産するために米軍向けに配られた本なんだよ。短期間で既存の設備を用いて安価な
「その
「量産型APは『洪鱗現象』で車が使いにくい環境の中でパワードスーツじゃあ持ち運べないサイズのものを運搬するのに最適だったんだよね。例えば小型の核とかね」
「……えっと、APとパワードスーツの関連について運用面ではなく技術面について伺いたいのですが」
「ごめんごめん。量産型APは巨大なパワードスーツと思ってくれたらいい。技術はほぼそのままで人工筋肉とか神経共有とかの技術も一緒。だから現行で取得されている特許が第三世代の合成筋肉繊維なのに対して簡易に作れる第七世代の製造法が唐突に全世界に共有されたらRE社としては困るわけだ」
3月2日、眠い目をこすりネット番組を適当に垂れ流しながら遅い朝飯を食べる。結局昨日はAPの右半身を修理しただけで終わってしまった。なんか配信がアカウントごとBANされるし『HAO』はアップデートが入るしで散々だったのだ。昨日の配信で巨大ロボットの魅力が伝わったかなと思いながらスレッドを開くと既に大盛り上がりであった。
【オレンジ実況】HAO攻略本スレpart102【RE社の株価がヤバい】
92 名無しのプレイヤー
アプデ情報
・APが4種類
・都市追加
・2050年と2055年? これがゲーム全体のグランドクエスト的な奴?
93 名無しのプレイヤー
サービス1日でマップ2つアプデとか初めから入れとけや
94 名無しのプレイヤー
>>93 恐らく条件がAP周りについての情報共有だと思われる。この調子だと運営は時期ごとにアプデするんじゃなくて既に大量のパッチを用意していてゲームの進行に合わせて開放してゆく感じかと
95 名無しのプレイヤー
>>94 何もゲーム内では進行してないから言ってんだよ。リアルではRE社がかわいそうな目に合うという進行があったけど
96 名無しのプレイヤー
昨日のオレンジ配信どうなったの?仕事で見れなかったから解説ヨロ
97 名無しのプレイヤー
オレンジとコメント欄全員で協力してAPの修理をするだけの配信だったぞ。ただRE社による強制垢BANとかいうクソイベントがあったけど。
あとオレンジが意外とかわいくて笑った。
98 名無しのプレイヤー
新規情報はあれかな
・パワードスーツとAPの素材は互換性あり
・整備マニュアルはかなりかっちりしてるけど全部手動でやらなきゃいけない
・急に能力者と旧人選んだ奴が息苦しくなってゲームオーバーになる現象は酸素不足だと判明。大気の酸素が異常に少ないらしい
99 名無しのプレイヤー
>>98 酸素の話は海外で既出。あと今回の配信の録画データがThe Orange Live って呼ばれて共有されてる。機械系の板の盛り上がり凄いし機密情報ってのはマジなのかもな
100 名無しのプレイヤー
あのオレンジ文書に書かれてる内容って本当に意味あんのか?ゲームのデータになに騒いでんだよ
101 名無しのプレイヤー
>>100 うちの教授に見せたんだけど「いける」って言ったあと教授室から出てこなくなった。卒論の相談したいのに困る……。
102 名無しのプレイヤー
>>100 うちの開発部が大騒ぎだわ。未登録技術ばら撒かれたわけだから今すぐ特許を申請すれば権利全取りできるかもしれんので。成功してボーナス増えてくれ。あと配信の録画データ欲しいんで持ってる人下さい(土下座)
103 名無しのプレイヤー
なんか運営きな臭いよな。会社名『Hereafter』で検索したら酸素プラントの製造事業とかいう意味わからんの出てきた。何に使うんだよこれ
104 名無しのプレイヤー
>>103 破滅後の酸素減少に備えてでしょ(適当)
ネットではオレンジの名が踊っておりRE社の炎上商法が成功しているな、と思う。株価を意図的に下げて儲けていたりするのだろうか。株価の買い支えを名目に株の保有率を上げるという行為を格安でやるとか方法はありそうである。
まあそんな事を考えていても仕方がない。春休みのこの時期だ、ゲームを遊びつくすしかない。そのためには
「まずジョブの取得だよなぁ」
そう、『HAO』ではジョブが存在する……はずなのだ。掲示板を見ると『警備員』と『運び屋』、『娼婦』、『盗賊』は確認されているらしい。しかし事前情報として出ていた100種以上のジョブはいったいどこに行ったのかという状態であるわけだ。
その答えが恐らく街にある。特に生産系の職業ならば工場のような場所を探して弟子入りイベントのようなものをこなせば良い可能性が高い。スキル頼りでAPを操縦できないかと考えていたがまずは修理のために遠回りをする必要がありそうである。
時間は既に12時となりそろそろログインするか、と伸びをしたところでピンポンと玄関のインターホンが鳴る。誰かが来るなんて話は全く聞いていない。ノンアポで来る奴なんてあいつしかいないか、と思いながら扉を開けると想像通りの人物が立っていた。
「やあオレンジ君」
「なんで知ってんだよそれ……」
「そりゃ私も『HAO』始めたからさ」
白犬レイナ。近所に住んでるゲーム仲間である。年齢は同じ18だが高校に行っていないらしく大学に行くのかも知らない。白銀の長い髪に碧の目、人工物かと思うほどの整った顔立ちと女性にしては高い、俺と同じくらいの身長。だが手足が俺とは違い圧倒的に長く腰回りもすらっとした、いわゆるモデル体型である。服はちょっと大きめのTシャツとジーパンという飾り気のない格好、頭にはキャップを被っていて俺はこの帽子を外している姿を見たことがない。
彼女との出会いは西部劇のVRFPSで、俺のアバターの見た目がそのまま過ぎて街で声をかけられたというものである。因みに早打ちでは勝てたためしがない。レイナの反射神経が異常すぎてアクション要素の強いゲームでは簡単に世界一位を取ってしまうのだ。そんなわけで毎回他プレイヤーが爆殺と毒殺を試みる事態になっており本人曰く「リアルなら耐えられる」とのことだが……生身で爆弾耐えられるわけねーだろアホか。
「昨日の配信見たけど本当にとんでもないことしてるね。急に市場破壊とトレーダー虐めに目覚めたのかい?」
「んなわけねーよ、むしろRE社の炎上商法に付き合ってやったんだから感謝して欲しいくらい」
許可を取らず靴を脱いで当然のように俺の部屋に入りベッドに腰掛ける。昨日の件についての問いに俺が当然のように答えると彼女はしばらくフリーズし、ややぎごちなくうなずいた。
「……そうだね、君はそういうタイプだ。マイペースだから自分の世界で物事を見がち、それでこの結果か。RE社がかわいそうになってくるよ」
「???、まあいいや。それはそうと『HAO』やるんだろ、一緒に遊ぼうぜ?」
「うんいいよ。私は一先ずジョブには就けたからある程度までは誘導できるかな」
思ったより進めているようで何故言いよどんでいるのかという疑問が頭からすっ飛ぶ。レイナの協力があるならば生産職の最速到達も可能かもしれない。ワクワクして振り向く俺を他所に足元のゴミをレイナは片付け始める。散らかしてから半月に一回大掃除をする、という俺のスタイルに対して不定期に訪れる彼女は天敵なのだ。まあ事前連絡無しで躊躇なく入室してくるからパンツを部屋干ししたまんまだったりするのだが、レイナも慣れたもので周囲の気になる部分を整えてからコテンと首を傾げる。
「やっぱりエロ用の端末がないね……」
「何探してるんだ!?」
「検索履歴で趣味がバレないようにするために最近の子はわざわざ端末を普段使いとエロ用に分けると聞いてね。是非何を見ているのか調べたいところだが」
「しねぇよシークレットタブっていう機能があってそれ使えば十分だろ」
「私は分けているよ」
「聞きたくなかったその情報」
……まあ割と見た目の割にはフランクでとっつきやすい奴なのである。
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