《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~
西沢東
プロローグ『Ver1.06』オレンジ恐慌
The Orange Books
VRMMOなんてものは夢物語であった。勿論今までのゲームをVR化する、程度の事はできておりVRMMOと銘打って発売された作品は無数にある。だがそのどれもが皆が夢想したものとは程遠い出来だった。
物に触れられない。
戦闘は手を縦に振り回すだけ。
コントローラーで操作したほうが遊びやすい。
等々、技術的な問題と金銭的な問題が重なりこれらの問題を解決したゲームなんて出るわけがない、と誰もが思っていた。
「すっげえ、砂を掴めるし触覚も完璧……一粒一粒演算してるのかこれ!」
手に取った土を投げ捨て初期装備であるハンドガンを引き抜く。大抵のゲームでは武器は引き抜けない、装備するものである。コマンドを入力すると操作系統が銃のものになるだけ。だが『HAO(
『崩壊した世界から未来を救う鍵を探し出せ!』とキャッチコピーにある通りこのゲームは近未来を舞台にしている。2050年、今から10年後に世界が滅んだという設定だ。今いる場所、チュートリアルの空間を見渡すと砕け散ったマンションの破片や何かの機械が散乱してることからまあロクな世界ではないことがわかる。
そしてこのゲームでは何をやってもOKだ。まさかのR-18Gで発表されたこの作品は性的なシーンやグロ描写も全面解禁、公式が最初に出したプレイスタイルが娼婦と殺人鬼の時点でその度合いが知れるだろう。他にも運び屋として各地の生き残りたちに荷物を届けたり盗賊として荷を奪ったり、警備隊として彼らを取り締まる事もできる。
自由度はプレイスタイルだけではなく戦闘方法や金の稼ぎ方もだ。銃器を持ち出しても良いしパワードスーツを身に纏いナイフを振り回してもOK。道具を作って売ってもいいし人身売買をしてもOK。
―――そしてSF世界であるが故に巨大ロボットに乗ることもできるようなのだ。PVに一瞬映っていた巨大ロボットに乗るキャラクター。これだけ自由度が高いのならば夢を叶えることも可能なはずだ!
人間なら一度でも巨大ロボットのアニメを見て自分も作ってみたい、操縦してみたいと思うだろう。俺、
というわけで俺は事前ダウンロードを済ませ、サービス開始と共に即ログインしたのである。プレイヤーネームは未島勘次の未と勘を合わせてミカンなのでOrange、顔はリアルのとほとんど変えずにOKを押す。
『キャラクターメイキングを開始します。種族を選択してください』
表示がホログラムとして宙に浮かぶ。選べる種族は旧人、能力者、改造人間、獣人だ。それぞれ能力としては以下のようになっている。
旧人……特筆すべき能力はない。スキル割り振りにボーナス。
能力者……スキルツリー《超能力》が開放される。ステータスは低め。
改造人間……機械化された人間で右手に特殊装備を付けられる。
獣人……遺伝子改造された人間。高いステータスを持つ。
このゲームにはレベルアップという概念はない。スキルとアイテムやイベントの効果でしかステータスは上がらない……と公式の説明にあった。だがそんな事は気にしない。《操縦》と《生産》のスキルツリーを取得しなければならないからだ。
迷わず旧人を選択し、フリーポイントを《DEX》に全振りする。ポップアップが出現しスキルの一覧が浮かび上がってきた。チュートリアルの空間を埋め尽くさんばかりの文字列。その中の《操縦》と《生産》を選ぶといくつかの表示が出てきてその中にお目当てのものはあった。
「《
公式ホームページには巨大ロボットの名はApollyonだと公開されていたからこれで正解のようだ。機械系のスキルツリーの先に巨大ロボット制作のスキルはあり取得は先になりそうであるがそれより目を引くのは《Apollyon操作》の方だった。
《Apollyon操作》―――《Apollyon操作取り扱い説明書》
「いやそれだけかよっ!!!」
まさかの操作スキルすらない。他の操縦系のスキルだと機動力向上やバランス性能向上みたいなプレイヤーの操縦テクニックを補助するスキルが存在するようだ。にもかかわらず説明書のみ。しかもよく見れば生産スキルの方にも《Apollyon構造解説書》なんてものがある。いやなんで設定資料集みたいなもんがスキルにあるんだよ。しかも旧人で初期ポイント200に増えてるのにこの二つ取るだけでスキルポイント100も食っちまうじゃねえか!
『《Apollyon操作取り扱い説明書》《Apollyon構造解説書》を取得しました』
まあ取得するんですが。あと一つは《初期装備:
『『HAO』へようこそ!未来への鍵を掴むのは君だ!』
そんな表示と共に空間が不安定になり今までいた雑踏の先に人影が一気に増える。チュートリアルはもう終わりらしい、あとは自分でやれという事だろう。不親切なゲームだがまず周囲やら何やらを確認する前に俺にはやるべきことがあった。
背後を振り向く。そこには初期装備で取得した憧れの巨大ロボットが……ボロボロだった。情報ウィンドウを表示させてみると『2055年の作戦は失敗した。その残骸の中には再利用できるものがある。例えばこの量産型
その
何はともあれ夢見た巨大ロボットである。ワクワクしながらコクピットによじ登り、操縦席に入り込む。内部には数多のスイッチと操縦桿があり、椅子は何かのシミが残っていた。適当に隙間を弄ってみると油が漏れている箱の下敷きに使われている異様に古い新聞が出てくる。2040年3月1日、今が2月29日なので明日の新聞である。
『2040年3月1日午前3時21分頃、インドネシア沖でマグニチュード6.3の地震が発生。この地震によりインドネシアでは――』
新聞の中心は油汚れで読めなくなっており辛うじてその部分だけ読める。どうしてこんな未来に最近というか明日の新聞が、と思うがそもそも新聞という文化が滅びそうになっている今だ。新聞を出したい、でもリアリティが欲しいとなるとギリギリ刊行され続けている最近の年代を設定するしかないのだろう。しかしそれにしてもわざわざ新聞の内容まで設定するとは製作者は凝り性のようだ。
新聞を放り捨てる。当然コクピットに乗っているだけでは操縦できないわけで、適当にスイッチを押してみるがまともに動かない。仕方がないのでため息を吐きながら俺はスキルを使った。
『《Apollyon操作取り扱い説明書》《Apollyon構造解説書》!』
宣言すると俺の手元に二冊の異様に分厚い本が現れる。いや確かに説明書ってスキルだけど本当に本を出すやつがあるか、というか分厚すぎるだろ!大体こういうのは操縦の成功率とかにボーナスがかかるだけのスキルのはずなのに……。
古臭い本で表紙にはパワードスーツで有名なRE社のロゴが書かれてある。会社のロゴって権利の諸々があるはずだけれど許可をきちんと取ったのだろうか、そう思いながら一冊当たり1000ページ以上あるその冊子を開くと。
「……いや英語じゃん。これ日本のゲームじゃねえのか?」
そう、英語だったのである。……いや製作者はアホなのか?やっぱアホだ!そしてこのゲームはクソゲーだ!と勝手に頭の中で叫ぶ。実際今の時点で
・操縦可能な機体のはずなのに操作できない
・スキルポイントを大量に費やした結果得たものが読ませる気のない本
という事態である。何でもできる自由度が売りという癖に自由にさせる気がない。この運営のスタイルに俺はキレた。折角巨大ロボットを操縦できると思った矢先にこの仕打ちかよ、ふざけんじゃねえと。
「絶対こいつを操縦してやる!」
『HAO』からログアウトした俺は早速ゲーム内で撮ったスクショを纏め『HAO』攻略掲示板にアクセスする。
【不親切】HAO攻略本スレPart12【クソゲ―】
452 名無しのプレイヤー
現在のまとめ
・まともなチュートリアル無し
・死亡したらしばらくログイン停止
・犯罪行為すると射殺される
・食料なくて餓死してもログイン停止
・リアルさは神。グラフィック最高
・R-18Gはガチ。グロシーンは動画サイトにアップロード済み、また性行為に成功したプレイヤーは既にいる模様
453 名無しのプレイヤー
クソゲー過ぎるだろこれ。PKにあったんだけどログイン停止喰らった。しかも装備全部はぎ取られたっぽい
454 名無しのプレイヤー
警備隊に入隊すると戦闘訓練させてもらえると聞いたんだけどガチめな適性検査喰らった挙句落とされたんだけどナニコレ?
455 名無しのプレイヤー
>>454 それリアルのやつと一緒だぞ。SPI試験の参考書と性格検査の乗り越え方の本買っとけ
456 名無しのプレイヤー
>>455 クソじゃん警備隊やめます、入れなかったけど
それはそうと初日だから攻略は全然進んでないな。皆戸惑ってる
457 名無しのプレイヤー
海外スレ見ると警備隊と運び屋についての情報はあるな。他はデータが少なすぎて何もわからん。街の外に機械生命体みたいなモンスターもいるらしいがハンドガン一丁だと即死やって
458 名無しのプレイヤー
獣人だけでナイフ持って10人がかりで狩ったらいけたらしい。一匹でも倒すと冒険者ギルドに紹介されるとか
459 名無しのプレイヤー
http■■■■■■■■■■■■■
《Apollyon操作取り扱い説明書》《Apollyon構造解説書》のデータです。計2000ページ全てスクリーンショット撮りました。海外の掲示板にも張りましたが僕が日本人で英語苦手なので一緒に解読してくれると嬉しいです
460 名無しのプレイヤー
>>459 データ量イカレてて草。あとスクショにプレイヤー名出てるぞオレンジ君w
461 名無しのプレイヤー
>>459 なんだこれ、マジの解説書だぞ。大学の授業で見たことある単語滅茶苦茶出てきて笑う
462 名無しのプレイヤー
>>459 このオレンジ文書、翻訳かけてみてるけど面白いな。取り敢えず右上の赤いスイッチが起動ボタン、足元の箱を開けると予備の発電機みたい。んで操作プログラムを起動できればアシストがあるとかなんとか
463 名無しのプレイヤー
>>462 有能。俺もオレンジ文書の製作の方見た。世界観設定がっつり乗ってて整備方法まで細かく書かれてる。これ実際にやらされるかもしれないのか、ご愁傷様
464 名無しのプレイヤー
>>459 初日からとんでもない情報出てるな。オレンジ文書俺も読んでみる
……これでよしと。俺が一枚ずつスクショを取ってアップロードした《Apollyon操作取り扱い説明書》《Apollyon構造解説書》のデータはオレンジ文書という名前で完全に統一されてしまっていた。何なら海外掲示板でもThe Orange Books とか呼ばれ始めているようである。プレイヤー名がスクショに載ってしまう仕様を知らなかったため完全に事故であった。
一先ずやれることはやった。外を見ると明るみ始めていて、春休みだから良かったものの普段ならば遅刻確定だ。寝て明日、というかもう今日だが起きてから翻訳ソフトと格闘しようと思い布団に入る。
『2040年3月1日午前3時21分頃、インドネシア沖でマグニチュード6.3の地震が発生。この地震によりインドネシアでは――』
とただでさえ明るくなってしまった部屋をさらに照らすスマホの通知を無視しながら俺は眠りについた。熟睡だ。このアップロードが俺の人生を大きく変えることになるとはこの時は露ほども思っていなかったのである。
『続いて本日のニュースです。早朝に投稿されたThe Orange Books と呼ばれるファイルにて米最大のパワードスーツメーカーであるRE社の機密が流出していることが判明しました。このThe Orange Books とは昨日サービス開始した『HAO』のスクリーンショット集です。このスクリーンショットの内容に多くの機密情報が含まれていたとRE社は主張しています。投稿者は掲示板の書き込みから日本人であるとわかっていてプレイヤー名はOrange、であるとのことです』
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