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あっけらかんという日葵に、私は一度ため息を吐き「もう。いいよ」と呆れながら言った。
楽しそうに鼻歌を唄いながら、アイスを選んだ少女は、やましたのおばあちゃんから買って戻ってくると、私の隣りに座った。お互いの身体が接しそうなくらいに近かったので、私は少し距離を空けた。
「はい」
購入してきたアイスを二つに割り、少し悩んでから日葵は大きい方を私に差し出した。持ち手の棒が二つ付いており、半分に分けて食べるように作られているアイス。
二人で分けるのに慣れた手付き。そういえば、祖母からもらったお守りにも『お姉ちゃんと仲直りできます』って書いてあったから、日葵には姉が居て、よく分け合って食べるのだろうか。
「ありがと。こっちで良いよ」
差し出された方ではなく、小さな方のアイスを受け取る。夏の青空の色に似た色のアイス。口に入れると炭酸ジュースと相まって甘すぎるけれど、口内から身体中が冷却されてゆくようで気持ちがいい。あまりの冷たさに少し頭がきぃんと痛むけど。
屋外で、二人並んでアイスを食べるなんて、いつ以来だろう。
いつかのデパート、紗奈と二人でアイスクリームを食べながら買い物をしているお母さんを待っていた記憶がある。私はバニラで、紗奈はストロベリー。途中で交換したなあ。一体、何歳の記憶なんだろう。
「ね、日葵のお姉さんってどんな人?」
「ううんとねえ」
アイスを食べ終えた私が尋ねると、日葵は溶け落ちそうなアイスを口に放り込んでから、小首をかしげて、言葉を探すように考えた。
「あたしの大好きな人」
屈託なく嬉しそうに少女は答えた。
「あたしより三歳年上でね、あたしと違ってお淑やかで大人っぽいの。勉強もできてね、運動も得意で、みんなに優しくて、
少女はニシシと照れたように笑った。その顔は今の私には眩しすぎて、真っ直ぐに見られなかった。
私とは違い、本当に妹に慕われている少女の姉が羨ましくなった。いや、昔は私も妹と仲が良かったんだ。
学校の成績が良くてもね、それだけで出来た人間かどうかなんて分からないんだよ。学校の成績だけが個人を測る物差しじゃないんだから。そう口に出しそうになって、口を噤んだ。暗い感情を底に押し込んだ。
「お姉さんには、お姉ちゃんか妹がいるの? それとも兄弟?」
「えっ……。妹が一人」
「そうなんだ。あたしとおんなじ姉妹なんだ。どんな子なの?」
「……紗奈は私と違って明るい性格で可愛くて、人に好かれるのが上手いの。それでいて、何でも器用にこなせてね。ああ、この子は私より恵まれた人生を歩むんだろうなって、思うんだ」
話すにつれて私の心は重く、暗くなってゆく。妹に対する妬みなんて、年下の女の子に話すべきではないのに、もっと明るく紹介するべきなのに、私の口から出た言葉は壊れた水道のように止まらなかった。
小学生の頃になまじ勉強ができて、紗奈に慕われていたせいで、姉としての変なプライドを持っていたのかもしれない。紗奈が私を慕ってくれるのが、いつしか重しになった。私は紗奈の頼れる姉でいるために、自分の等身大以上の背伸びをした。勉強も人一倍したつもりだ。
私が勉強をしている横で、紗奈はよく友達と楽しそうに電話をしていた。
昔からそうだった。一人で大変そうにしている私をよそに、紗奈は辛いことなんてこの世に存在しないといった顔で楽しそうにしていた。
勉強も運動もクラスで平均以下だったけど人懐っこい性格に、次女なりの器用さを持ち合わせていた紗奈は、よく他人に助けられていた。
紗奈の周りにはいつも誰かが居た。
一人で卒なくある程度のことはこなそうとする私と違い、紗奈はすぐに誰かを頼って、そんな紗奈を誰かが支えていた。
幼い頃は紗奈をそばで助けるのは私だったのだが、いつからか、その役割は私の知らない、クラスメイトや同じ部活動の子、他人になっていた。
本当は優秀じゃなかった私は、私一人を支えることで精一杯になっていたのだ。
そうして、余裕のなくなった私は紗奈に当たってしまった。
『邪魔だから何処かに行って! どうせ、バカみたいに辛そうにしてる私を嘲笑ってるんでしょ! しかたないでしょ、私は紗奈と違って不器用なんだから! 顔も見たくない!』
自分の中に溜まった怒りを、妬みをぶつけた。八つ当たり。最悪だ。
そこから私と紗奈の間に亀裂が出来て、徐々に広がったそれは、今ではもう飛び越えられないくらいの大きさになっている。
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