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 鈴と僕は家が近いこともあり小さい頃からよく一緒にいた。僕のが年上なので遊んでやっている立場だったはずだが勢力的にはなんか対等と言うか、傍若無人という意味においては鈴のが権力を握っているという妙な関係だった。

 小学校高学年、中学と上がるにつれて僕は友達と遊ぶことが増えて必然的に二人で遊ぶことは減ったが、時々部屋に踏み込んできて行きたい所があるだのしたい事があるだの言うのでそれに付き合ってきた。

 夏休みは時間がたっぷりあるため、鈴の探究心だか好奇心だかはパワフルに加速した。スイカの種飛ばしを練習して世界記録に挑んだり、入道雲の下が本当に雨降りなのかを確かめに走ったり、川沿いをくだって川の水が海に流れ込むところを見届けに行ったり、巨大な虹を発生させる装置の設計をしてプレゼンの練習をしたり、夏の間だけやってくる蝶を追いかけて渡りのルートをマーキング調査したり、自転車で坂道を猛スピードで下って飛べるかもしれない可能性を算出したり。

 僕としては仕方なく付き合っているみたいな立ち位置のつもりでいるのだけど、なんやかんややっているうちに不思議とある種の達成感を得る展開になって、最終的にはまぁ楽しかったな、みたいな気分になって夏を終えるのだった。


 今年もそのエネルギーは変わらず鈴を突き動かしているようで、鈴の漕ぐ自転車のペダルはくるくると軽快だ。


「こら涼太郎! 遅れるんじゃない!」


 振り返って叫ぶ鈴。まだ午前とはいえすでに気温は高く、僕は汗だくだった。空は知らん顔で晴れ渡っている。

 到着したのはこぢんまりとしたひまわり畑だった。


「夏休みその一! ひまわり畑にて、ワンピース姿の女の子と追いかけっこをする!」


 あぁなるほど。いわゆる「夏休みっぽいこと」をやっていこうというわけか。そのための似合わないワンピースとでかすぎる麦わら帽子だったのか。


 夏休みの情景から連想されるひまわり畑ほどには密度が高くなく、若干心もとないその中心に立つと、鈴が唐突に「よーいドン!」と叫んで突進してきた。追いかけられるのは僕の方らしい。

 ひまわりの間を縫って走るが雑草が多くて走りにくい上に暑さで余計に疲れて息切ればかりがひどい。でも振り返って見る鈴の揺れるワンピースの白とひまわりの黄色は、確かに映像的には切り取って飾っておけるくらいに夏休みっぽくはあった。が、五分で終了。暑すぎた。


「これ、死ぬぞ……はぁはぁ……まじで」

「水分補給だ! しっかり飲め!」


 鈴から水筒を渡される。鈴はごくごくぷはぁっ!と飲んで一瞬にして回復した様子だったが、夏休みが始まって以来ずっと部屋にこもって勉強していた僕の方は久々の直射日光に頭がくらくらしていた。しかし冷たい水はうまかった。

 鈴は鞄からまたあのノートを取り出すと、しゃがんだ膝の上でぺらりと開いた。一体どんな過酷なスケジュールが書かれているのかと覗こうとすると、


「見るな! お楽しみたっぷりだから!」


 とますますぞっとすることを言う。それからボールペンをカチリと鳴らして、「ひまわり畑、ワンピース、麦わら帽子、追いかけっこ」と言いながらなにやらチェックを付け、「完了!」と言って満足気な顔をこちらに向ける。


「それ、あと何項目あるんだ……」

「涼太郎は夏休みを満喫してればいいんだ。段取りは私に任せろ」


 いやもう不安しかない。でもこの激流のような鈴のパワーには到底抗えなくてもう一度水を飲む。鈴は横からじっとそれを見た後「水分補給で生き返る、完了!」とまた新たな項目にチェックを入れた。


「さぁ、次行くぞ!」

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