第251話 『現実世界』 共命者






『一つだけ……成功するかも分からぬ方法ではあるが無い事はない』

「ほ、本当か!? 我に出来る事があるのか!?」


 希望を見出したと言わんばかりに、グラファルトは【白銀の暴食者】へと詰め寄る。

 その口元に笑みを浮かべるグラファルトとは違い、【白銀の暴食者】は真剣な顔を崩すことなくグラファルトへと話し掛けるのだった。


『……元々お前に強くなって貰おうと考えたのも、成功する確率を上げる為だったのだ。まぁ、今となってはそれも正しかったかどうか分からぬがな』

「それで、その方法とは!?」

「教えてくれ、【白銀の暴食者】!!」


 【白銀の暴食者】の言葉にグラファルトだけではなくファンカレアも先を急かす様に声を上げる。二人を落ち着かせる様に手を上げて制しながら、【白銀の暴食者】は話し続けた。


『なに、簡単な話だ……制空藍との共命が断たれるのと同時に我が主が手にした特殊スキル――【神装武具】を使い、新たなる神器を生み出すのだ』

われが……【神装武具】を?」

『我が主の中にある【神装武具】は、言わば情報の抜き取られた複製品だ。全てが初期化された状態であるこのスキルを使えば、もしかしたら制空藍を救う神器を生み出すことが出来る可能性がある』


 その言葉にグラファルト達は安堵の表情を浮かべるが、【白銀の暴食者】はまだ安堵するには早いと言う様に『しかし』と続けた。


『それには強い想いが必要だ。【神装武具】とは、使用者が心の奥底から望む力を武具として具現化し使用者へと授ける……願いの神器。これに関しては閃光の魔女なら理解できるであろう?』


 全員の視線がライナへと向けられる。

 その視線に答える様にライナは一度だけ大きく頷いて口を開いた。


「そうだね……確かに【神装武具】を使えば藍の助けになる手段を手にする事が出来るかもしれないけど、【神装武具】はいま願っている事を武具として具現化する訳じゃない。使用者が心の奥底で願っている事を具現化するスキルなんだ。だから、グラファルトに迷いが生じたり、願いが不明瞭なまま【神装武具】を使ったとしても、正しくスキルが発動するかは分からない」

『だからこそ、あくまで可能性があると言うだけで必ず成功する訳では無い。失敗したら二度と藍の助けになることは出来ないだろう。少なくとも、我はこの方法以外に思いつかなかった』


 そこで一度話を区切ると、【白銀の暴食者】はその視線をグラファルトへと向ける。


『――ここまでの話を聞いた上で問おう。お前は失敗を恐れることなく、【神装武具】の力を掌握することが出来るか?』

「ッ……我、は……」

『その場の勢いではなく、よく考えてから決断を下せ。自身の心と向き合い、本当に望んでいることは何なのか……その答えを見つけるのだ』


 【白銀の暴食者】の話を聞いた後、グラファルトは深呼吸を一度して、その精神を落ち着かせる。

 そうして心の中で、自分の想いについて深く考え始めた。



























――最初の頃は、純粋な好意だった。


 我の事を救ってくれた、漆黒を纏う優しき青年。

 眷属でもなく、同胞でもない。

 小さき人の子であるその青年に、我は恋をしたのだ。


 嬉しかった。


 楽しかった。


 もっと、もっと触れていたいと強く思った。


 その初めての感情に困惑し、混乱し、激しい胸の痛みに苛まれた。


 でも、それは決して苦痛ではなかった。

 締め付ける様な痛みが嬉しいなんて……恋をしなければ経験する事はないだろう。


 そうして、青年との楽しい日々が続いていき――ある日、我に変化が起きた。

 今までとは比べ物にならないくらいの激しい動悸。

 青年を見ているだけで……体が熱くなる感覚。

 今すぐにでも襲い掛かりそうになる原因不明の症状に、当時の我は唯々怯えていたのを覚えている。


 そんな症状が長いこと続いたある日、我は一つの結論に至ったのだ。


 嗚呼……我は本当に――心から青年を愛してしまったのだなと。


 アグマァルの話を聞いていたからこそ確証を得る事が出来た自身の想い。

 青年を愛するからこそ、その全てを欲しいと思う強欲な感情。

 そんな醜い我を見て欲しくなくて、我は必死に暴れようとする感情を抑え込むことにした。


 でも、それはとても難しい事だった。

 青年の事を思えば思う程に動悸は激しくなっていき、体の熱が上がっていく。

 そうして、真面に食事を摂る事も出来ず、弱虫な我は逃げることしか出来なかった。


 しかし、そんな我のことを案じていた友人によって、遂に青年に我の秘密がバレてしまう。


 怖かった……。


 軽蔑されると思った。


 嫌われて、距離を置かれる……そう思うだけで、涙が溢れてきそうだった。


 でも、そんな杞憂は青年の言葉によって掻き消される。



「嫌いになんてならない。俺はグラファルトを愛しているから」



 その一言だけで、我は救われたのだ。

 それと同時に、青年への愛情が込み上げてくるのが分かった。


 そうして、思いの丈を青年へとぶつけて……我と青年はより深く繋がりを得たのだ。






――お前は失敗を恐れることなく、【神装武具】の力を掌握することが出来るか?



 そんなの無理だ。

 我は弱虫で、もしもの事を考えてしまう性格だから。


 だが、それでも我は手を伸ばし続けるだろう……。


 失いたくない青年の為に、失敗を恐れながらも我は前へと進むのだ。



――自身の心と向き合い、本当に望んでいることは何なのか……その答えを見つけるのだ。



 答えなら、きっともう見つけていたのだ。


 忘れない様に、少しずつ……少しずつ溜めていた青年への想い。



 我はな……藍。

 お前の全てを受け止めて、お前に全てを捧げたいのだ。



 その想いを再確認して、我は閉じていた瞼を開く。



 そして、我はその場に居る全員に向かって笑顔を見せる。



「覚悟は決まった。我は――【神装武具】を使うぞ」



 約束したからな……。


――”お前が道を誤ったなら、我が手を取り道を示してやる”と。


――”お前が強大な敵に一人で立ち向かうというのなら、その隣に我は立とう”と。



 だから一人で抱え込むな、優しき漆黒の略奪者よ。


 これからは……いや、これからも、われが共にその全てを背負おう。


 我はお前の――共命者なのだから。






 そうして、皆が見守る中で我は【神装武具】を発動した。















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             【作者からのお願い】


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