お金がなければ、魔法で増やせばいいじゃない!
Phantom Cat
1
お金がない……
どうしよう……
今大人気のゲーム、「ひやかせ けいべつの盛り」(通称「ひやもり」)。
どうしても欲しくて、誕生日プレゼントも待てなくて、貯めてたおこづかいをほとんど全部使って買っちゃった。
だって、「ひやもり」が今回からネット対応になって、友だちがみんな一緒にやってるのに、ぼくだけできないなんて……いやだもの。
だけど、おかげでぼくの今の全財産は、たったの100円。
いつも買ってるお菓子やジュースも……何も買えないよ……
ゲームは楽しいけど、他に何も買えないのはつらすぎる……
というわけで、ぼくは公園の近くにあるジュースの自動販売機にやってきた。取り忘れたお釣りや、落ちて自販機の下にもぐったお金がないかなあ、と思ったのだ。
まずはお釣りの受け取り口に手を突っ込んで……だめだ、何もない。
それじゃ、自販機の下は……と、かがんでのぞきこんだ、その時。
「きみ、何やってるの?」
「!」
驚いた。心臓が口から飛び出るかと思った……
あわてて声の方に振り返ると、メガネを少し赤らんだ鼻にかけ、青々としたひげ剃りあとがやけに目立つ、変なかっこうをしたおじさんがいた。
「べ、別に……なんでもないです。あなたこそ、なんなんですか? 変なおじさん」
「そうです。私が、変なおじさんです」
そう言って、おじさんは変な歌と踊りを始めた。だけど、ぼくが何の反応もせず冷ややかに見つめていると、やがておじさんは恥ずかしそうな顔になって歌と踊りをやめた。
「やっぱ、今の子にはわかんないか……」なんて言いながらおじさんは頭をかくが、すぐにぼくに向き直る。「それはともかく、きみ、きみがやっていることはね、拾得物横領罪と言って、立派な犯罪なんだよ?」
「しゅうとくぶつおうりょうざい……?」
なにそれ。聞いたことないなあ。
「そうだよ。きみみたいな未来ある子供が、たとえ軽微といえども犯罪に手を染めるなんて……おじさんは、悲しいよ」
「うう……ごめんなさい……」ぼくは頭を下げる。なんだかぼくも悲しくなってきた。
「うむ。素直でよろしい」おじさんは笑顔になる。「しかし……どうしてきみはこんなコソ泥みたいなマネをしようとしたんだい? 見たところ身なりも悪くないし、お金に困っているようには見えないけど」
「いや、それが、お金に困っているんです」
ぼくは事情を話した。
「なるほど……『ひやもり』を自分のお金で買っちゃったのか……そりゃ小学生にはかなりきついわな……」
「そうなんです。でも、次のおこづかいの日まで、一週間以上あるんです……」
「そうか……小学生じゃ、アルバイトしてお金を稼ぐわけにもいかないしなぁ……」
「ええ」
「でもさ、お金がなければ、魔法で増やせばいいじゃない」
……それ、なんてマリー・アントワネット?
「おじさんが、お金を増やす魔法を教えてあげるよ」
「……」
あからさまにうさんくそさうな眼差しを向けたぼくに、おじさんは少し顔をしかめてみせる。
「あー、疑ってるな? 魔法なんてあるもんか、って思ってんだろ? ちっちっち」言いながらおじさんは顔の前で右手の人差し指を立てて左右に振ってみせる。「あるんだよ。魔法のようにお金を増やせる方法がね」
「本当ですか……?」それでもぼくは疑いの目のままだった。
「本当だよ。それじゃあね、見せてあげよう」
言いながら、おじさんは持っていたショルダーバックの中からノートパソコンを取り出して開く。
「ほら、きみの全財産の100円、貸してごらん。すぐに倍にしてみせるから」
「えー! 嫌ですよ!」ぼくは首を横に振った。
「ったくもう。しょうがないなあ。それじゃ、とりあえず僕が100円立て替えておくよ」
そう言って、おじさんはパソコンで何やら操作する。
「ほら、この画面を見てごらん。今、100円入金されたね」
……確かに、100円って数字が表示されている。
「今からこれを、倍にしてみせるよ。魔法の呪文はね……ポジションゲット。きみも言ってごらん」
「……ポジションゲット!」思わず言ってしまった。
「ようし。それじゃ、ちょっと待っててね」
言うなり、おじさんはものすごい速さでパソコンをタイピングし始めた。そして……
「……はい、終わり」
おじさんがパソコンの画面をぼくに向ける。そこには……200円と表示されていた……
うそ……本当に2倍になってる……
「え……どうやって、2倍にしたんですか?」
「ドル円相場を使ったのさ。この100円で買えるだけドルを買った。そして、ドルが上がってちょうど元の2倍の金額になった瞬間に決済したんだよ」
「……」
何を言ってるのか、ぜんぜんわかんない……
「簡単だから、きみにもできるよ。やり方を教えてあげよう。あ、その前に、100円もらえるかな?」
「……はい」
ぼくはポケットから100円玉を取り出した。
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