シイ

エリー.ファー

シイ

 愛を知りたかった。

 私の手には生まれた時からなかった。

 寂しさに浸って生きることが、自分をまともにさせてくれると信じていた。

 本当は、繋がってなどいなかったのだ。

 探偵になった。

 名探偵と呼ばれるようになった。

 連続殺人鬼も、怪人も、強盗も、怪盗も。

 皆、捕まえた。

 世界は平和になった。

 感謝されたことで自信もついた。きっと、ある程度のことはできるようになったと思う。それが勘違いではないことを祈るばかりだ。

 私は珈琲豆を買った。良い香りである。

「あの、探偵さんですか」

 私は振り返る。

 そこには少女がいた。

 ナイフを持っていた。

「何かな」

「どうしてあたしのお父さんを捕まえたのですか」

 私は少し長めに息を吐いた。

「君のお父さんは犯罪者だったということかな」

「はい」

「そうか」

「お父さんは、あたしのことを可愛がってくれました。なのに、どうして捕まえたんですか」

「君のお父さんが君を可愛がっていたという事実については、素晴らしいと思う。しかし、私は犯罪者を捕まえるのが仕事なのだ」

「見逃してくれてもよかったと思います」

「すまない、駄目なんだ」

「どうしてですか」

「私が探偵だからだ」

「あたしは、探偵さんを刺します」

「君の言う探偵さんというのは、私のことかな」

「はい」

「そのナイフで私を刺すと」

「はい」

「やめた方がいい。私はそれを避けて、逆に君を取り押さえることだろう」

「あたしは探偵さんのことを刺します」

「無理だ。君を捕まえる。諦めなさい」

「でも、刺します」

「やめなさい」

「やめられません」

「何故だ」

「あたしが、娘だからです」

 雨が降って来た。とても臭い。土砂降りになるだろう。

 不思議な気分である。このままゆっくりと眠ってしまいたい気持ちになる。

 ナイフの先が光る。しかし、少女は動かない。

 あぁ、もう何度も何度も刺されている。体中が血だらけになっているような気がする。

 私は自分の体を触る。

 無傷だ。

 それが信じられなかった。

 少女は一切、動かない。

「私は探偵だ。そして、犯罪者よりも罪深い」

「どういう意味ですか」

「そのままの意味だよ」

「あたしは、あたしのことを大切にしています」

「だったら、こんなことはするべきではない」

「探偵さんは、本当に探偵さんですか」

「あぁ。本当に探偵だ」

「嘘ですね」

 その瞬間。

 背中に何かが当たった。

 黒いフードを被った誰かが、私の体にナイフを刺しこんでいる最中だった。

 諦めた。

 無理だ。

 私はそのまま倒れる。

 黒いフードを被った誰かはそのまま走り去っていった。

 少女がナイフを持ったまま私に近づく。

「あたしが誰の娘か分かりますか」

「分かるよ」

「嘘だ」

「すまない。嘘をついた」

「だと思った」

「プライドが高いんだ。知ったかぶりをしてしまった。すまない、助けてくれないか」

「なんで、あたしが助けなきゃいけないんですか」

「私は、私の命を大切にしているんだ」

「皆、そうですよ」

「それが、そんなことはないんだな」

「そうですか」

「長く生きていれば、そういうことにも気づくようになるさ」

 少女がナイフを地面に落として空を見上げる。

「あの黒いフードの男の人に、頼まれたんです。ナイフをもって、近づいてくれって」

「なるほど。その男に、誰かの娘だと言いながら近づけと指図されたのか」

「何を言うかは、自分でとっさに考えました」

 私は鼻で笑う。

「君。頭、いいなあ」

 じゃあ、しょうがないか。

 ここで死んでもしょうがないな。

「助けを呼んで欲しいですか」

「あぁ。できれば」

「あたしを、探偵さんの助手にしてくれるなら」

「もちろんだとも」

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シイ エリー.ファー @eri-far-

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