第222話

 私は岡島ありす、普通の女子高校生だった錬金術師。

 朝の登校途中だったところを暴走する車に跳ねられそうになって、幼馴染三人と一緒にこの世界の神様に召喚された。


 そして今、悪い魔法使いに殺されて幽霊になってしまったみたい。


 ブラックアウトして何かに飲み込まれるように冷たくなる意識を、誰かにぎゅっと握られて引き寄せられる感覚。

 あれ、どうしてこんなに意識がはっきりしているんだろうと思うけど、それとは関係なくふわふわと浮かぶ体。


 痛くて熱くて怖かったのは嘘だったかのように心が軽い。


 ここはどこかしらとあたりを見回すけれど、何もない白い空間。

 でも私はここがどこか知っている。

 この世界に召喚された時に最初に訪れたところ。

ふわふわ漂いながら、時々地面に足をつけて歩いたりして気がついたら見覚えのあるテーブルセットがあって、椅子に全身白い人が腰掛けていた。


「ありすちゃん、久しぶり。もっと違う形で会いたかったな」


 ほんの少し怒っているかのような口調の、創造神エアー。

 この空間、この世界を作ったカミサマ。

 そんな姿と言われて自分自身を確認すると、サグリットの魔法でボロボロにされた服は修復されていたけど私ってば半透明。誰がどう見ても幽霊ってやつですね。


「私も会いたかったですよ、聞きたいこといっぱいあるし」


 色々と聞きたいこと、知りたいことが多すぎる。

 エアーが全部答えてくれるとは限らないけどいくつか聞いてみたい。


「聞きたいこと、ね」


ふぅとため息をついて苦笑するエアーはとても人間に近い。

エアーは私の心を読めるから何が言いたいかわかるはず。


「神様、色々黙っていたことがあるでしょう。魔王がいるとか、この世界が思ったより大変な状況だとか。どこがのんびり旅をしてですか、のんびりなんてほとんどしてないです」


旅をしていて街と村との貧富の差や国と国との違い。産業も進んでいなかったし、それよりも更に深刻だと思ったのは子どもの少なさ。


「あー、ごめん。突然魔王を倒すのだなんて言ったら怯えちゃうだろう? 君らは子供だし」

「それはもうどうでも良いです。それよりもう少しだけ、世界に力を貸してあげて。あなたの子でしょう? エアーが創り出したんだから」

「そうだね、うん、僕の子だ。しっかり見ることにする」


 神様に忠告なんて、今の状態だからできることよね。

 ああ、まだ圭人くんたちは戦ってるよね、少しでも有利にしてあげたい。エアーの力を借りることってできないのかな。


「教えて欲しいことがあるんですけど、サグリットって何者? 今、私の仲間たちが戦っているから助けてあげたいんです」

「サグリット? うーん、ピンポイントで地上を探すのは難しいんだけど、君の仲間たち……、ああ、杉原と上条も一緒だね。よし、補足した。で、戦ってる相手だっけ」


 エアーの前のテーブルに水晶がフォンと音を立てて出現した。その中の映像がくるくると変わる。最初は森、平原、そして家、今度は湖と私たちが進んだ軌跡を辿るように目まぐるしく。

 そして、セントリオ王城の謁見の間が映し出され、私の仲間たちが戦っているところが見えた。私の体がどこにもないんだけど、どうしてかしら。

 対峙しているのは長杖を振りかぶりながら、炎の球を出して襲いかかってくるサグリット。


「おじいさんなんだけど、鑑定しても何も見えないし、やたら強い魔法使ってくるし」

「ああ、あれは人間じゃないね」

「人間じゃない」

「うん、魔素の澱みを吸い込んで魂ごと変質している」

「それって、まさか」

「そうだね、あれが君たちに倒してほしい、今代の魔王」


 邪竜は、私たちが召喚された時まだ魔王になっていなかった。そしてそのまま討伐した。もし魔素を吸い続けたとしても、邪竜はそのままだったのかもしれない。


 だってもう魔王はいるのだから。


 私は、幽霊なのに青ざめるなんて器用なことをしてしまった。

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