第212話
アスコットの放った魔法でできた氷の蔦に絡まれて光里ちゃんが捕まっているので、こちらからは誰も攻撃ができない。
まあ元々このホールでは魔法攻撃が使えないし、物理も聖女の結界が働いているから相手を傷つけることが不可能なんだけど。
どうやってアスコットを行動できないようにすればいいのかと考えるけど、圭人くんと杉原さんはアスコットの正面で剣を構えたまま固まったように動けない。
幅三十センチ、長さ一メートルくらいの黒光りする大剣を持ったジェイクさんはホールの右側、ジェイクさんの影になるように忍者のサツキさんも自作の短刀を構えている。
長杖を持った夕彦くんと上条さんは私の前で、ここでは攻撃魔法がうまく使えないから防御や強化という補助魔法を使っている。
私はといえば、こっそりと魔道具を創造中。光里ちゃんを取り返さないとね。
「竜の鍵をよこせ、この女と交換だ。それとそこの女、お前が俺に解除を使ったんだよな」
そこの女と言いながら私をしっかりと見据えている、ステータスを見るために解除を使ったこと覚えてたのね。どさくさに紛れてたから忘れてると思ったのに!
少年の姿をしているけど、実際は違う。
この人は不老不死で、邪竜に力を与えて魔王にしようとした私たちの敵。
「竜の鍵は俺が持っている。だが聞かせろ、どうしてこれを欲しがる」
杉原さんが手のひらを上に向け、ストレージから黄金に輝く鍵を出してみせた。まるで恋焦がれてやまないものを見るようにアスコットの目の色が変わる。
「それがあれば不老不死が解除できる。この忌々しいスキルがなくなるんだ」
「忌々しい? 自らそれを望んだのではないのか?」
よほど疑問に思ったのか、上条さんがアスコットの方に進みながら問いかける。
ゆっくりした動きと、上条さんが賢者で、攻撃魔法が使えないからと油断をしているのかな。アスコットに止められることはない。
「この、アスコットとして生まれるまでに何回転生したかわからない。でも賢者だった記憶はうっすらとしかなかったから平和だったんだ。人として普通に生まれて普通に死んでいったはずだ。でも、今回は、生まれてすぐに賢者としての記憶が蘇ってしまった」
そう言いながら何かを思い出したのか、アスコットは光里ちゃんに絡まる氷の蔦をキリッと締め上げた。
「痛っ。賢者の記憶が蘇ったんなら、その時の家族のためにいいことに使えばよかったんじゃない」
「俺は、っ! 聖女になった莉亜、俺と一緒に生きてくれなかった莉亜を取り戻したかったんだ」
アスコットは振り向き、水晶のうえに半透明で浮かぶ始まりの聖女クリアレスを見る。繊細な装飾を施された台座は魔法で攻撃されたことが嘘のように、何事もなかったかのように銀色に輝いている。
「アキラ、私はもう人ではないのよ?」
かつての恋人を諭す、聖女クリアレスの悲しそうな表情。彼女にこんな顔をさせて、それでもまだ自分を突き通すつもりなのかな、この人。
こっちの方でもなんだか許せなくなってきたぞ。
「その水晶を割れば、お前だって転生できるんだろう? でもその前に俺は、不老不死を解除して成長したいんだ」
できた。
創造で作った魔法無効のアイテム。小さな箱型で、中から霧状のミストが噴き出すの。氷の蔦を絡め取って、光里ちゃんを救うためのアイテム。
ここが聖女の結界で何もできないなら私も結界を利用してアスコットの魔法を無効にしようと考えてみたの。
うまく作動するといいけど。
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