第192話
「ありすちゃん頑張れぇ〜」
久しぶりの、慣れ親しんだ味のお酒にすっかり酔っ払ってしまったサツキさん。
ふにゃふにゃとした呑気な声がリビングに響くけど、可愛いからよし。困ってるのはそれを止められないジェイクさんの方かも。
「がんばりまーす! では、やりますよ、圭人くん」
「おう、頼む!」
いつか見た星鉱石。星が入った綺麗な宝石。
あれが聖剣の材料だと、勇者がスキルで作った剣を魔を払う破邪の道具にするにはあれが必要だと教えられた。
私の手の中にある石は夕彦くんが凝縮してくれたもの。私はこれを磨く。
圭人くんの剣に相応しい形に、全ての魔を祓いこの世界に安寧をもらたすものになるように。
石をテーブルに置いてから柔らかい布で包んで、軽く擦りながらイメージを送る。
私の思うものに変質させるのは違うから、この石が持っているエネルギーを感じて輝いてもらう。
「ありす……」
「しーっ。集中してるから、黙っててあげよう」
この時、私の手の中の石が眩しく光って、風もないのに髪や服がふわふわと靡いていたそうなんだけど、私は全く気が付かなかった。
優しい魔力が手の中から溢れてくるのを、外に溢れて行かないように包み込んでまとめている感じだったのだけど。
私を心配していた光里ちゃんを止めた上条さんだけど、実は一番ハラハラしてて椅子に座らないでうろうろしていたそうです。
杉原さんの石を作った実績があるからそれを伝えたいけど、伝えちゃうとそれが杉原さんの石になっちゃったり、違うものになるのが怖くて言えなかったんだって。
「ねえ、お願い」
ポツリと呟いた言葉は、手の中の石に向けてのもの。
「力を貸して、悪いものを倒したいの」
私の言葉に呼応してなのか、手の中の石が仄かに熱をもつ。その熱が私の魔力を使って、中心に向かって渦巻いていく感覚がした。
巻き込まれる。ぐるぐると。
「ありがとう、力を貸してくれるのね。きやっ! 熱……っ」
触っていられないほどの熱を感じて手を離してしまった。その弾みで包んでいた布も外れてしまうけれど、石の変化は進む。
手のひらより少し大きかった石が、縮んでいく。
「ああ、うまくいったようだ」
上条さんが私の隣に座りながら嬉しそうに微笑んだ。
徐々に小さくなる石。前に見た星鉱石は青かったと思うんだけど、これはルビーのように赤い。
いいのかな、ちょっと心配になって上条さんを見たんだけど何も言わないでニコニコしてるから大丈夫みたい。
「綺麗だな、この石」
変化が止まったみたい。ころんとテーブルに転がった石を圭人くんが摘んだ瞬間、まるで石が喜んでいるかのように二回瞬いた。
「圭人のことを呼んでいる様ですね」
「うん」
「うーん、なんだか私だけ聖剣に関われないの寂しいわ! 圭人、ちょっとその石貸して」
「何するつもりだ、光里」
圭人くんが光里ちゃんの手に石を置く。大きさは親指と人差し指で作った輪っかくらいまで小さくなった。色はルビー色で中心に十字の光彩があるのだけど、石の中心あたりを光里ちゃんはじっと見つめている。
「光里ちゃん?」
「付与できそうな魔法を探していたんだけど、石が教えてくれたわ」
ふ、と最高にかっこよくて綺麗に微笑むと、光里ちゃんは右手の人差し指に魔力を込めて石に注ぎ込んだ。虹のような光がぽわっと光里ちゃんと石を包み込んだ。
あ、これやばいやつって思ったのは私だけじゃないと思うんだ。
無詠唱だからジェイクさんとサツキさんは気が付かなかったと思うけど、何かが見えちゃったっぽい上条さんと杉原さんも慌ててた。
光里ちゃんが石に込めたのは、蘇生魔法。
いざとなったら圭人くんが生き返られる様にする保険だね。
うん、これで剣を失わなければ圭人くんは安心だね。
「石もできたことだし、明日のために寝るか」
「そうだな、そうしよう」
杉原さんと上条さんの声にみんな頷く。
サツキさんはジェイクさんに凭れてすでにスースーと寝息を立てていた。
お姫様抱っこで運ばれていくサツキさんをいいなぁと思わなかったのは何故だろう。
将来飲める様になってもお酒の量は控えようと思いました。
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