第154話
「君たちに、忠告と頼みがあるのですが」
朝食の席でマルコットさんが杉原さんに向かって言うのは、これからの道のこと。
「忠告はありがたい。頼みは聞けることなら聞くぞ? 今更遠慮してもしょうがないだろう?」
ずるずると麺を啜りながら杉原さんが言う。
締まらない姿だけどこの場は身内ばかりという意識なのでいいのです。オシムくんたちもすっかり慣れているのはやっぱり前世持ちだからかな。
まだ出会ってそんなに経ってないのにね。
朝食は私が作ったたぬきうどん。出汁は飛び魚っぽい魔物の骨から取ってるんだけどとても美味しい。
天かすは王都の宿で頂いたもの。
前世の味だってオシムくんたちが感動してたから、追加で二食分多めに作ってストレージに入れておいてと渡した。
「ガルデンから北の国ノイチラスまでは山道が続いて、細い崖などもあるんです。なので馬車には向かない。お願いというのはファルとシオンをイプスの街に戻す役目を引き受けますから、イプスの領主との橋渡しを頼みたいのです」
「今後この村が自治権を持てるようになったということは、こちらで販路を開いてもいいということですからね。高名なイプスの領主様と繋がりが欲しいのです」
正直な二人には好感が持てます。
それはみんな同じ考えだったようだし、確かに崖道を馬車は危険だなってことでファルとシオンをイプスに連れて行ってもらい、領主への接見が叶うように杉原さんが一筆認めることになりました。
「イプスに行ったことは?」
光里ちゃんの質問にマルコットさんが少しだけ困った表情。
「ないので観光がてらオシムと二人旅をします」
「少しは外の様子を見ないとね。その間村はコリーさんにお願いできます。幸い今は農閑期だし、事業も順調なので。結界はバッチリなので魔獣の襲撃があっても大丈夫。村の中のいざこざは僕よりコリーさんの方が上手くあしらえますし」
そういえば、彼らにとって血のつながった叔母さんだと言ってたね。あの豪快な武器屋のコリーさんは確かに村の人たちに何かあったらすぐに仲裁してくれそう。
残った汁を最後まで飲み干して完食。
やっぱり和食って美味しいなぁ。
この村で鰹節は作ってないのかな。
私がそんなことをぼーっと考えている間に、話は進んでいた。
「ありす、聞いてなかっただろ」
圭人くんに言われてはっとする。全員に見られてて真っ赤になった。
「うう、ごめんなさい」
「これからの予定な。これから食材や必要なものを買って、昼頃にはガルデンに転移しようってことになったんだ」
「結界の魔道具、オシムくんが買ってくれるっていうからここで出しちゃって」
「北の国で商売をするためにロイヤルコットンのタオルも仕入れておきましょう」
次々と予定を言われて、少し混乱。え、私どれだけぼーっとしてたの?
「りょ、了解です!」
「あ、それ、ロイヤルコットンって王都の商人が勝手に付けた名前なんです。確かに王家の人たちが愛用してくださっているのですが」
マルコットさんが眉間に皺を寄せて、むーって表情。
オシムくんがなんだか怖いくらい、にっこりしてる。
「僕が言ったわけじゃないけど、この国ではそれで流通してしまってるんですよ。なので北の国で取引するときはぜひシャバルコットンと言ってください。シャバルってつけないと産地がわからないじゃないですか」
「わかりました。もしいい取引ができたらすぐにお知らせしますね」
夕彦くんが商人の目になってるよ。
交渉スキルがあるものね。
そういえば、最近ステータス見てないわね、ここを出発する前にスキルを含めて確認しておきたい。
この先は歩きだから、エリックと一緒に旅できそうね。あの子のこともちゃんと知っておきたいな。
性格はなんとなくわかったような、わかってないような。
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