第153話
柔らかいシーツは最高級のロイヤルコットン。スプリングもちょうど良くてオシムくんとマルコットさんのこだわりで作られたベッド。
それなのに借りたベッドは自分のものという気がしないからか、それとも昼間の興奮からなのかもしれないけど、昨日とは違って今日はなんだか眠りが浅くて、余計なことばかり考えてしまい中途半端に覚醒してはぐるぐると頭の中で何かが巡る。
生きていると色々な別れがあるものよと、母に言われたことがある。
その時はよくわからなかったけど、小さな別れは小学校、中学校と進学するたびに変わるクラスメイトの顔。高校では中学と全く違う顔ぶれで、新しい出会いにワクワクするよりも違う環境に対する不安の方が大きかった。
それでもうまくやれたのは幼馴染の三人がいつもそばにいてくれたから。私はいつも守られていた。
そう光里ちゃんに言ったら、私だってありすの存在が頑張る力になってるんだって。
これを依存だっていう人もいるかもしれないけど、頼れる人がいるなら頼った方がいい。
もう二度と母に会えない、父にも妹にも他にも大事な人たち私たちは四人でこの世界に来てしまって、お互いを支えて頼ってそして旅をしながら生きるんだろうな。
きっとこの後も、この世界で出会っては別れを繰り返すんだろうな。
こんなことを考えているのは、すぐに別れが来ることを理解しているからだろう。
モゾモゾとベッドで身じろぐと、隣のベッドからスゥっと息を吸う音が聞こえた。
光里ちゃんの横顔が月明かりに照らされて、私の視線から形のいい鼻筋が見えている。
強くて綺麗な彼女は、寝てる時も姿勢が良い。寝つきも寝起きもいいのは昔からだね。
このままだと光里ちゃんを起こしちゃうかな。
そう思ってなるべく音を立てないように気にしながらベッドから抜け出した。寝巻きのままだと肌寒いので、ストレージから買ってあったカーディガンを出して着込んだ。
誰もいない廊下だけど夜光灯が点いていて動くことに支障はない。
せっかく起きたしとお手洗いに寄ってから、誰もいないはずのリビングに向かう。
お水でも飲んだら落ち着くかしら。
そう思ってたのに、そこには人影。
ソファに深く腰掛けて、手にはガラスのゴブレット。注がれた液体は薄いブルーなんだけど、何を飲んでいるのかな。
「こんな時間にどうしたの? ありす」
「マルコットさんこそ、眠れないんですか?」
「話がうまく進んだから祝杯をあげていたんです。ほら、オシムの前だとお酒が飲めないからね」
そう言いながらゴブレットに口をつける姿はとてもかっこいい。女性だってわかってるのに、イケメンなのよね。そんな失礼なことを考えていたら、マルコットさんがくすくす笑ってる。
「ありすは私の顔好きでしょう?」
「えっ、あ、」
「たまに見惚れてるの知ってます。それに、前世の基準からするとイケメンの部類ですよね客観的に見て。男だったら人生勝ち組だっただろうな。残念」
戯けたように言うマルコットさんは全然残念そうじゃない。
「揶揄ってますね、まあ、正直に言いますとマルコットさんのお顔は大変好みです。芸能人だったら推しちゃいます」
「ありがとう。それでありすに提案なんだけど、このままこの村に留まらない?」
いきなり何を言われたのか、理解できなかった。
ここに? この村にこのまま住むっていうことかしら。
固まってしまった私にマルコットさんの話は続く。
「ありすは非戦闘要員でしょう? だからこの先はこの村で魔道具を作って、必要に応じて彼らに転移で届ければいい。光里と私がいたらそれは可能だよ」
「だめ、無理です! そんな、本当に必要な時すぐに作れないし。私みんなと離れるのは嫌」
「やっぱりそうだろうね、急にびっくりさせてしまってごめんね。でもありす、覚えててほしい。貴女の能力は自分で思っているより強い。それを狙う人間はこれから増えるよ。私のように」
私の返事なんてわかってたんだろう、マルコットさんはくすくすと笑った。
「マルコットさん」
「さあ、朝まで時間があるからもう少し寝なさい。こんな酔っぱらいの戯言は忘れて」
私の言葉を遮るように、マルコットさんに部屋に戻るように促され、ベッドに入ったらいつのまにか眠りに落ちていたみたい。
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