第151話

「今回のこと、本当にすまなかった」


 事態の収集と経過の説明をするため領主館の応接室に招かれた途端、真っ赤な顔で悲痛な声を絞り出したレイモンドさんは、オシムくんを中心とした私たちに頭を下げた。

 オシムくんとマルコットさんはそれを冷ややかな瞳で見ている。

 魔獣を操って村を襲ったのはラステリーさんなのに、どうしてレイモンドさんが謝るのだろう。もういい歳をした大人なのに。

 首を傾げた私に、レイモンドさんは苦笑している。何を考えているかわかったのかな。


「あいつを止められなかった私の責任は大きい」

「襲撃は突然のことだったので、レイモンドさんが止められなかったのは仕方ないのでは?」


 光里ちゃんがそう言うとレイモンドさんはさらに顔を歪めた。

 テーブルの上に置かれた、レイモンドさんの逞しい節くれ立った大きな手が少し震えてる。

 それはラステリーへの怒りだろうか、それとも失望?


「あいつが夜中に家を出た後、部屋を調べたんです。思い詰めたような表情をしていたので何かあるのかと。領主の仕事を手伝ってもらう代わりに、あいつにはかなりの権限を与え不満が出ないように注視していたんです。昔からキレると何をしでかすかわからないやつだったので」

「部屋には何かあったのか?」


 杉原さんが腕を組みながら自分の肘を指先でトントンと叩いている。

 そして、レイモンドさんに聞いた。


「ええ、これがありました」


 ペラリと机の上に出されたのは少し厚い紙にびっしりと文言が書かれたもの。代表して杉原さんが読み上げてくれた。


「シャバル村の綿花と売上をウィスタリスに運ぶために転移陣を設置。ガルデンの住民を王都に五百人移住させて労働力とする。ラステリーについてもあるな、新しい区画の区長として取り立てるガルデン地区創設とある。ずいぶん好き勝手書いてあるな」

「ウィスタリス? どこですかそれは」


 夕彦くんがマップを出して探しているみたい。

 私たちが使えるマップ機能は行ったことのない場所はグレーの表示で、大まかな形はわかるけど国の名前なんかはそれを知るまでは出ない。でも森や川、湖、山の起伏など覚えのある等高線ではなくもっと精密な画面。


「西の森の向こうにある国の一つだ。静流が潜入しているところだな」

「いい噂を聞いたことがない国です。セントリオで神隠しが起こると、ウィスタリスで見つかると言われているほど」

「マルコットさん、それって誘拐ですか?」

「ええ、ありすや光里は希少スキルもちで二人とも美しいから気をつけて。決して一人で行動してはいけませんよ」

「上条さんなら潜入捜査も上手くこなしそうだな」


 私とマルコットさんが話していると、圭人くんがポツリと呟いた。上条さんを少しでも知ってるとなんでもできるかもって思っちゃうよね。

 杉原さんと上条さんはPTを組んでいる状態なので、お互いの居場所がマップでわかる。そして杉原さんは世界中を回っているので、行ったことがない場所はない。

 私たちとは違うものが見えていてもおかしくないなんて考える。それを見せてくれる気はないみたいだけど。


 それにしても、西の国って諸悪の権現かもしれないとこじゃないですか!

 だって上条さんが潜入してるってことは邪竜に力を注いで魔王化しようとしてる国でしょう?

 潜入といってもセントリオの正式な使者として訪れているはずだから堂々としていると思うんだけど。


「あの馬鹿め……、ラステリーは騙されたのです。西の国が失敗した人間を生かしておくほど優しいわけはない。もう意地を張っても仕方ないですね。オシム村長、村に自治権を認めよう。税金も半分でいいので街道の整備を頼む」

「ありがとうございます領主様。後で書面にまとめましょう」

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