第150話
光里ちゃんに押さえ込まれて踠いているのは、茶色いローブを着ているラステリー。すぐそばに落ちている長杖はいかにも魔法使いって感じのゴツゴツしたもの。
隙を見て逃げ出そうとするけど、本気になった光里ちゃんの体術から逃れることはできないから踠くだけ無駄なのよね。
押さえ込まれたら圭人くんでさえ抜け出せないんだから。
「早く魔獣たちを撤退させなさい!」
「う、うるさい! 暴れろ! もっと暴れて村を壊せ!」
「無駄です、結界は張り直したし。魔道具の補助もあるから数十万の魔獣が来ても村は無事だ」
オシムくんがラステリーを見下ろしながら言う。
バタバタと見苦しかった手足が大人しくなったのは、光里ちゃんがストレージからロングソードを出してラステリーの首元にそっと添えたからだと思うけど。
「ラステリー、死にたい?」
「ひっ、やめろ! やめてくれ! わ、わかった。魔獣を退却させる」
本気だと感じ取ったのか、声がだんだん小さくなっていく。
光里ちゃんがわざと手を緩めるとラステリーは手を伸ばし、落ちている杖を握った。
そして何事かを唱える。
それは魔法のような歌のような不思議な響きだった。
この人、この力をもっといいことに使えばここまで落ちぶれることなかったんじゃないのかな。なんて、いま考えてもしょうがないことを思ってしまった。
「これで、魔獣は村を襲わない。もういいだろう、俺を解放しろ!」
「解放なんてできるわけないでしょう! オシムくん、村は大丈夫かしら」
「ちょっと待ってください。……ええ、魔獣たちが急に方向を変えバラバラに森の方へ逃げていっているそうです」
それを聞いてラステリーはまた暴れ出した。俺を離せとか逃してくれとか勝手なことを言っている。
この人を野放しにしてはいけないわね、レイモンドさんにきっちり監視してもらわないとダメじゃない?
「光里ちゃん、レイモンドさんに報告しよう」
「そうね」
「なんだと! やめろ、俺はガルデンには戻らん!」
「オシムくん、マルコットさんたちもガルデンに行くように伝えて」
「はい」
光里ちゃんの転移でガルデンの街にある領主の館前に行くと、そこにはすでに圭人くんたち四人と領主のレイモンドさんが揃っていた。
ラステリーは私が作ったロープで拘束してあって簡単には抜け出せない。
「ラステリー! なんてことをしてくれたんだ!」
「う、うるさい! ……痛っ!」
レイモンドさんの叱責に身を捩ったせいで、ロープが体に食い込んだのだろう。痩躯を締め付けるロープをレイモンドさんが痛々しそうに見ている。
「すまないが、ロープを外してやってくれないか」
「ですが、逃げようとしますよ」
オシムくんがロープの端を握りながら言う。
「この人数がいるんだ。それにラステリーだってこの状況で逃げようとは思わないだろう?」
俯いて答えないことはどうでもいいのかしら、この場では領主の言うことに逆らうことはできない。オシムくんがロープをゆっくりと外す。
ぐっと腕を掴まれ、引っ張られた。
「お前が一番弱そうだ。結界の魔道具なんて厄介なもの作りやがって。そうだ、お前を連れて行けば」
「きゃぁ! ひ、ぐっ!」
私の首に、ラステリーの手が食い込む。苦しい。
グイグイと締め付けが強くなって、もしかしてこれって、気絶させようとしている?
「ありすに手を出すんじゃねえ!」
叫んだ圭人くんが、その一瞬後。
私を左手で縦抱きしながら剣をラステリーの眉間スレスレに掲げる。
これ、どちらかが少しでも動いたら額を切って怪我をしてしまう。
「ちっ」
この時なぜか、いつかの路地裏の女の人を思い出した。
みんなと引き離されて襲われた後、あの人はこの国に対する不満だけを告げて消えてしまった。ラステリーもあの人と同じ目をしている。
「逃がさない!」
創造で投網を作ってラステリーを捉える。これで逃げられないはず。
「はっ、小賢しい真似を! 本当にお前は厄介だ!」
ボンと爆発音。え、まさか!
「や、いや」
ラステリーが自爆した? 見たくない、怖い。
「大丈夫だありす、奴には逃げられたが」
「転移したようですね。転移スキルを持っていたとは思えないので魔道具でも隠していたんでしょう」
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