041 ジュピター皇国⑨
※過激な表現、残酷な描写が含まれていますので閲覧する際は、注意をお願い致します。
僕達は今、ジュピター皇国攻略の為、合流地点である“オリュンポス山”を目指していた。
『オリュンポス山』
ミズガルズ世界最大の標高を誇る山。
ジュピター皇国の本拠地。
ジュピター城が山の頂上にある事や、そもそもの山の標高の高さを合わせて、天空城と比喩されている。
オリュンポス山は、ユーピテル皇と魔科学者メティスの手によって改造、整備されており、山間エレベータ、山中水道設備など、生活に必要な設備が充実していた。
山の麓には町や畑、畜産が広がっているのが特徴だ。
オリュンポス山を目指しているのは、ジュピター皇国のミズガルズ同時侵攻作戦を見事に防衛した三班。
プリモシウィタスを防衛した、メティスにヘカトンケイル班。
亜人共和国ポセイドンを防衛した。ゼウスにキュクロプス班。
ハデス帝国を防衛した、僕とニンフ班。
この三班が、別々のルートからオリュンポス山を目指していた。
その内のメティス班は、ヘカトンケイルの肩に乗りながら歩いて合流地点を目指している。
ゼウス班は、亜人共和国ポセイドンが誇る最新鋭の巨大ガレオン船で、ポセイドン皇、マーク、ジェレミー、ルカ、ポセイダル兵、ゼウスが船に乗って海路を進み、キュクロプスを鉄の鎖で船に結び付けて運んでいる。
そして、僕達はと言うと。
「ルシフェル!お腹空いたわ!」
ニンフが僕の周りを飛び回り、お腹が減った事で駄々をこねている。
(...さっき干し肉を食べたばっかりじゃないか)
「ルシフェル様。ようやく二人でいれますね」
エキドナが僕の腕を掴んで身体を摺り寄せている。
(二人でって、皆も一緒なんだけどな...なんでこんなに近いんだろう?)
「「...」」
オルグにオクタウィアヌスは終始無言だ。
オルグは自分の世界に入り瞑想をしている。
オクタウィアヌスに至っては、僕の影に入って姿そのものを隠している。
(...二人は喋らないから気まずいんだよな)
「風になびくプレリュード。精霊と戯れるロンド。星空のワルツ」
ヴァイアードは飛行しながら訳の解らない事をずっと口ずさんでいる。
(ヴァイアードに至っては、もう何言っているのか解らないよ...)
「ルシフェルよ!この戦いが終わったら私ともう一度勝負だ!」
デュナメスは会ってからこれしか言わない。
(はあ...100回以上同じ事を聞いたな...)
五冥将、キャラ濃過ぎじゃないか?
胸焼けが起きているよ。
その所為か、さっきから僕は溜息しか出ていない。
気持ちが、ずっと上の空なのだ。
(五冥将との移動が始まってから、ずっと疲れている感じがするよ...はぁー...)
今は、ハデス帝国が誇る、最強戦力である五冥将と一緒に合流地点を目指しているところ。
この旅路の中、心身の内、心である精神が異様に消費している事が解る。
身の方に関しても疲れはあるが、現状とても楽に移動が出来ている為、身体を休める事が出来ていた。
(えっ、楽に移動ってどういう事?)
僕達は一人を除いて、その場に座るだけで移動をしているのだ。
何もしなくても勝手に進んでくれている。
(その場に座るだけってどう言う事?)
乗り物に乗っていると言う事。
だが、それは通常では乗る事が出来無いものに座っているのだ。
そして、これは五冥将と一緒だから乗れているものだ。
(何故、会話形式の質疑応答をしているかだって?)
それは五冥将の濃いメンバーに囲まれて、僕の精神状態が可笑しな事になっているからさ。
少しでもふざけないとやっていられないのだよ。
...とまあ、冗談はこれくらいにして。
正解は、デュナメスが変身をしたケンタウロスに騎乗をしていた。
身体の大きいオルグは、デュナメスが牽引する荷台に乗せて、馬車のように運んでいる。
「これが普通の観光だったら楽しかったんだけどな...」
道中、周囲には多数の魔物がいたのだが、流石は五冥将と言ったところか。
何の苦も無く魔物を倒してしまった。
進行上に遭遇する魔物は、基本デュナメスがその巨体と速度を活かして、体当たりや、踏み潰して(本人は気付いていないが)倒している。
横から襲って来る魔物は、ヴァイアードやエキドナが知らずの内に魔法で処理をしている。
ヴァイアードは詩?を口ずさみながらで、エキドナは僕との時間を邪魔されないように、自動で魔物を迎撃する魔念体を作ってだ。
まあ、他の二人は何もしていないけどね。
「...ああ、早くオリュンポス山に着かないかな?」
磨り減って行く精神。
この状況を打破する為にも、早く目的地へと辿り着きたかったのだ。
その頃、ジュピター城では。
「ではこれより、真のミズガルズ同時侵攻作戦を開始する」
天空王ユーピテルから、ミズガルズ同時侵攻作戦の指揮を任されたアトラス。
身長は175cm。
赤髪黄眼の美青年。
軍服をきっちりと着用をし、その佇まいから冗談が通じそうにない生真面目な男性。
彼は、天空皇ユーピテルを神の如く崇拝している。
魔科学者の第一人者として有数の発明を残して来た、生きる偉人として。
人々の暮らしを助ける生活用品。
魔物を楽に退治する為の武器。
国と戦う為、防衛する為の兵器。
全てを魔科学で補い、皇国を豊かにして来た人物だから。
アトラス自身が魔科学を専攻してた事もあり、天空皇ユーピテルの凄さ(能力差)をその身をもって体感しているのだ。
アトラスにとって天空皇ユーピテルが言った事は、白だとしても黒になる絶大なる皇者。
そんな自分が崇拝している人物の下で研究が出来る事は、部下として働ける喜びは至高にして至上。
そして、今。
ユーピテル皇に頼まれた真のミズガルズ同時進行作戦が始まろうとしていた。
「標準の誤差は許さん!!全砲身オリュンポス平原へ!!“魔人”搭載下降砲弾。発射!!!」
オリュンポス山の頂上から、その麓のオリュンポス平原へと巨大なカプセル状の砲弾が多数放たれた。
山頂から放物線を描き、一気に地表へと到着した。
地面に突き刺さった巨大なカプセル状の砲弾は、「プシュー!」と音を鳴らしながらカプセルが開いて行く。
その中には、ガラス容器の内側に培養液(魔力が凝縮された成長促進液)に浸かった巨人が収納されていた。
その巨人の数、実に100体。
キュクロプス、ヘカトンケイル級の巨人が、そこに100体居るのだ。
ガラス容器から培養液が噴出されると、その中にいる巨人が目覚める。
巨人は、自身が入っていたガラス容器を力で破り、外へと出て行く。
それを見届けたアトラス。
天空皇ユーピテルの望む世界に近付いた事を両手を広げて祝った。
「これで、世界はリセットされる!!」
目覚めたばかりの巨人達には、善悪の区別がある訳では無い。
そして、勿論。
理性がある訳では無いので、その本能のまま忠実に動いてしまう。
すると、起きたばかりの巨人の咆哮が、周囲へと響き渡った。
「グオオオオ!!!」
丁度、その巨人達が動き始めた頃。
オリュンポス山の麓には、ジュピター皇国の町が広がっていた。
その場所に住まう町の住民が、周囲の建物よりも遥かに巨大なものが動き回る事を目撃する。
生きて来た中で、一度も見た事が無い圧倒的巨大なものをだ。
「おい!あれは、なんだ!?」
目撃をした住民達が一斉に慌て始めた。
あの巨大な物体が、町を目指して動いている事を知って。
「なあ...なんだか、こっちに来てないか?」
巨人は、どうやらまだ動く事に慣れていない様子。
それでもゆっくりだが、町へと確実に迫って来ているのだ。
住民には、その巨大なものが何なのかさえ検討もついていない。
だが、このまま町にいては危険な事になると感じ取っていた。
「おい、逃げた方が良くないか!?」
「当たり前だろ!!あんなのが町に来たらどうなる!?滅茶苦茶になるに決まっているだろ!?」
住民は、今行っている作業を放置し、急いで町から逃げ出す。
だが、町を出ては更なる事実に驚愕をしてしまった。
あの圧倒的巨大な生物が複数居る事を知って。
「ああ...これが世界の終わりなのか?」と嘆く。
そうして町に辿り着いた巨人。
まるで、子供が玩具で遊ぶ感じのまま簡単に町を破壊して行った。
町に住んでいる住民も、然も人形遊びをされているかのように、巨人の手の上で踊っていた。
それは普通の人形遊びと違って悲鳴や、痛みを伴ってのものだが。
腕や、足が簡単に捥げてしまう人。
巨人の膂力によれば、人は簡単に潰れてしまい、まるで粘土のように形を変えて行く。
簡単に壊れる町並みに、触ると音を鳴らす矮小なもの。
巨人はそう認識し、それで遊ぶ事がとても楽しいようだ。
「グォオオオ!!!」
ゼウス班が合流地点であるオリュンポス山の手前の地点、オリュンポス平原へと辿り着いた頃。
丁度、悲劇とも呼べる惨劇が始まっていた。
ゼウスは目の前に広がる、その悲惨な光景を見て、突如、声を荒げた。
堪らずに、アマルティアに教わって来た丁寧な言葉遣いを忘れる程に。
「くそ!!間に合わなかったか!!」
本来なら、目の前に広がる巨人達が放たれる前に、父親である天空皇ユーピテルと決着を着ける手筈だった。
それが間に合わず、既に巨人が開放された状態で皇国の民が犠牲になっていたのだ。
ゼウスの母親レアーが、「人こそが財産であり、人こそが国なのです」と言っていた事に反する事態が、目の前で起きていた。
「皇国の民が...」
ゼウスの生きて来た生涯で、人が死んで行く様子を、人が殺される様子を、初めて目撃した。
それは、人形が壊されるように、人が簡単に死んで(殺されて)行く。
それを受け止めきれないゼウス。
心が痛くてしょうがないようだ。
悲しみ、嘆き、苦しみ、怒り。
「人が死んで行く...殺されて行く...」
ゼウスは、皇国民と直接関わりがあった訳では無い。
全くの赤の他人である。
「もっと早く着いていれば...多くの民を救えていた」
関わりの無い他人から見たら、偽善に見える行動。
それでもゼウスは、自身の持ち得る正義感を信じ、目の前の惨劇を見過ごせ無い。
偽“善”だろうが、“善”は善なのだと。
アマルティアに育てられた、人としての心のあり方。
母親であるレアーの言葉で、人に対しての心遣い。
そして、自らが体験し、実感した皇族としての信念の芽生え。
全てが絡み合い、今のゼウスを形成していた。
国である人が、財産である人が、目の前で血を流しているのだ。
ゼウスは歯を食い縛り、力を込め過ぎた所為で口から血が垂れていた。
「くっ!急いで巨人を止めなければ!!皆さん!力を貸してくれませんか?」
ゼウス達と一緒に来た、亜人共和国ポセイドンの面々に尋ねる。
ポセイドン皇、マーク、ジェレミー、ルカ、ポセイダル兵。
すると、ポセイドン皇が代表をして、皆と顔を合わせて答える。
「ゼウス殿!我が国を助けて頂いたご恩を返す時。それに、一緒に同じメシを食べた仲。我々一同は、最初からそのつもりだ!」
ポセイドン軍の面々が武器を手に持ち構えると巨人達に向き合った。
ゼウスはその言葉を受け取る。
自分以外の人から仲間と言われた事がとても嬉しかったのだ。
「皆さん...ありがとうございます!!」
ゼウスが皆に一礼をした後、キュクロプスにも協力を仰ぐ。
「キュクロプス!巨人を止めるのを手伝ってくれ!」
キュクロプスに表情が無いが、咆哮を上げて返事をする。
「グォオオオオオ!!!」
周りにいた巨人達は叫び声に反応し、一斉にこちらを見た。
ゼウス達も、その叫び声を合図に巨人達へと立ち向かう。
「行くぞ!!全ての巨人を止めるんだ!!」
キュクロプスは、巨人達のいる町の群れの中へと走り出し、その勢いのままに巨人を薙ぎ倒す。
キュクロプスの後に続き、ポセイドン皇、マーク、ルカ、ポセイダル兵が隊列を組みながら巨人へと立ち向う。
残りのゼウス、ジェレミー、ポセイダル兵救護班は、その戦闘能力の低さから直接戦闘には参加せず、人命救助を優先する。
「こちらは、住民の救助優先でお願いします!」
ゼウスが率先して、怪我を負った住民を救出して行く。
ポセイダル兵救護班も、それぞれの場所に散ばり、人命救助へと駆け出した。
「傷付いた住民は広場に集めて!!治療は私達に任せて!!」
ジェレミー達は町の広場を陣取り、傷付いた住民を癒して行く。
だが、全員を助けられる訳では無い。
死者を生き返らす事も出来無い。
ジェレミー達の救護能力では、完全に傷を癒す事も出来無い。
此処からは時間との勝負になる。
「重傷者を優先して!!傷の浅い者は回復薬で!」
ジェレミー達が奮闘している中、討伐班も奮闘をしている。
ポセイドン軍とキュクロプスが協力をして、町から巨人を追い出して行く。
「アァアアアア!!!!」
巨人の悲鳴が鳴り響く。
巨人達は生まれたての赤児のようだ。
知性は無く、本能のままに行動をしている。
特筆すべきはその身体能力と耐久力。
手を振るえば風が巻き起こり、走れば大地が揺れる。
殴れば大地は陥没し、蹴れば大地が割れる。
魔法は使えないようだが、全部の攻撃に魔力が乗っている。
どの攻撃も一撃でも貰えば致命傷だ。
「これ以上、巨人に好き勝手をさせるな!!そして絶対に、この平原から移動をさせるな!!」
ポセイドン皇が叫んだ。
巨人達が、オリュンポス山を拠点に、世界各地へと広がろうとしているから。
そこには指揮も無く、命令も無い野放しの状態だが、巨人が一体でも平原を越えれば、町や国を壊滅出来る力を持っている。
それを阻止する為に、ポセイドン軍全勢力を持って防ごうとしているのだ。
「くそ!こちらの攻撃が効かない!」
ポセイダル兵が必死に攻撃を加えるが、巨人はびくともしない。
「良いか!こちらは必ず数であたり巨人の足を止めるんだ!もし一体でも討ち漏らしたら世界が滅びるぞ!」
マークがポセイドン軍の指揮を執る。
基本、巨人一体に対して、ポセイダル兵20人の隊列で対応する。
マーク、ルカは、一人で20人分の働きをしている。
流石なのはポセイドン皇とキュクロプス。
ポセイドン皇は魔纏武闘気を身に纏い、三叉槍を振るって何人もの巨人を足止めしていた。
水の無い平原に、巨大な津波を起こして巨人を呑み込んでいた。
「流石はレオ!俺も負けてられない!」
ポセイドン皇の勇姿を見て、マーク達ポセイドン軍が奮闘する。
「グオオオオ!!!」
キュクロプスは、他の巨人より知性がある為、同じ巨人でも、その動きに歴然の差があった。
流石のキュクロプスでも、巨人全員を倒す事は出来無いのだが、何人もの巨人を力で捻じ伏せている。
「やはり数が多いな...それに何か違和感が?」
ポセイドン皇は、巨人と一人で戦っている。
そして、一人で戦っているからこそ巨人に感じる違和感。
現時点では、ポセイドン軍が全力を出す事で、何とか巨人達をオリュンポス平原に封じ込めている状態。
だが、その違和感の正体が掴めない。
このままでは巨人を倒す事が出来無い上に、ポセイドン軍だけが消耗して行く。
「このままだと不味いな...徐々に隊形を維持出来なくなって来ている」
この時点で、まだ余裕があるのは、ポセイドン皇、マーク、ルカ、キュクロプスのみだ。
それ以外のポセイダル兵は負傷や疲弊が重なり、徐々に巨人を押さえ込めなくなって来ている。
倒せない事でポセイダル兵に焦りが生まれ、悲壮感が漂う。
時間にして、まだ10分程しか経っていないのに、既に何時間も戦っている疲労感に襲われていた。
「こちらの兵だけ消耗してしまう...」
すると、この状況を打破出来る救世主が現れた。
メティス班にルシフェル班の面々だ。
「やはり、完成していましたか...」
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