027 ハデス帝国⑨
※過激な表現、残酷な描写が含まれていますので閲覧する際は、注意をお願い致します。
『試練の塔・五階』
とうとう最上階まで辿り着く事が出来た。
これが最後の試練となり、これから相対する人物は五冥将最後にして最強の人物だ。
「ようやく...ここまで来る事が出来た。あとは、ここを乗り越えるだけだ」
部屋の中央には、これまで同様にローブで姿を隠す人物が立っていた。
ただ、これまでの人物と違うのは、僕を確認すると同時にローブを勢い良く脱ぎ捨てた事。
「お決まりのやりとりなんてしゃらくせえ!!」とばかりの態度だ。
「!?」
中から姿を現したその人物。
一目見て解る、凶悪な強さを持っていると言う事を。
暗黒の全身鎧を身に纏い、禍々しい魔力を周囲に放出していた。
但し、頭と胴体が切り離れていた。
この人物は、俗に言うデュラハンと言う種族。
身長は、頭が無い状態で、350cm程。
頭有りの状態で、390cm程だ。
「流石は、プルート様が見込まれた御方だ。私が最終試練を勤めさせて貰うデュナメスである」
熟練の騎士のような佇まいに、少しだけ偉そうな雰囲気のデュナメス。
僕が此処まで試練を達成してきた事に驚きながらも、最初から此処まで来る事を予想していた様子。
何故なら、冥府皇プルートが直々に五冥将を指名して、僕と戦わせる程の試練だからだ。
「私の試練では、其方が今までの試練で勝ち得た力を駆使して挑んで貰う。其方の出せる全ての力を私に見せるのだ」
デュナメスの禍々しい魔力が増幅された。
僕を無意識に威嚇しているようだ。
これから戦える事の楽しさが、待ちきれないと言った様子なのかも知れないが。
その気持ち解るよ。
さっきから僕も、ずっとワクワクした状態なのだから。
「これまでの其方の歩みを、魂に刻んで来たその集大成を、全てを解き放つのだ!!くれぐれも、出し惜しみはするなよ?」
僕から距離を取るように離れて行った。
そして、適当な場所に止まる。
その場所で、デュナメスは両手を広げて、何も無い空間を掴むように構えると、周囲から黒い粒子が集まり出した。
黒い粒子は形を変化させて行き、一瞬で剣と楯を生成した。
「準備は宜しいか?」
[YES/NO]
(これで最後なんだ!あとは、やりきれば良いだけ!!)
[YES]
「では。尋常に勝負!!」
デュナメスを中心に部屋全体へとバトルフィールドが広がった。
この時、僕は何が来ても直ぐに対応出来るように身構えていた。
だが、デュナメスは戦闘が始まると同時に、僕との距離を一瞬で詰めて来たのだ。
僕からすれば、突然、目の前に現れたデュナメス。
此処までの距離を駆けて来た訳では無く、文字通り一瞬で距離を詰めたのだ。
「なっ、いきなり瞬間移動だって!?」
気が付けば、僕の目の前に居るデュナメス。
相手が振るう斬撃が僕に襲い掛かって来る。
物理的な移動に備えていた僕としては、その一瞬の出来事に遅れを取ってしまった。
何とか手を出して防がなければ、一瞬で死(ゲームオーバー)を迎える攻撃だ。
そんな事は、是が非でも避けなければならない。
僕からすれば、何も出来ていないのだから。
それを防ぐ為。
デュナメスの斬撃を刃渡りの短いナイフで必死に受けるが、その強大な攻撃を受け流す事は出来ず、身体ごと後方に吹き飛ばされてしまった。
「がはっ!!」
攻撃を受けた方の手や腕が、あまりの衝撃で痺れてしまう。
だが、怪我の功名では無いが、これで相手との距離を取る事が出来た。
「くっ!瞬間移動だけでも厄介だというのに、一撃が重すぎる!」
離れていても一瞬にして距離を詰めて来る相手だ。
しかも、オルグの時のような雑な大振りでは無く、剣術を巧みに操った鋭く振るう一撃。
それが途轍もなく重い一撃なのだ。
片方だけでも手に負えないと言うのに、そのどちらも厄介なものだった。
僕は腕が痺れたままだが、無理矢理次の攻撃に警戒して構え直した。
「くっ、次はどう動く!?」
すると、デュナメスはその場で剣を十字に振るい、離れた距離から斬撃を飛ばして来た。
その飛んで来る斬撃は、黒い魔力で出来ていて周囲の空間を揺らしていた。
ふと受ける、不吉な予感。
「空間が歪んでいる!?...この攻撃に触れては危険だ!」
僕は、斬撃の軌道を大きく避けて攻撃そのものから離れる。
黒い魔力で出来た斬撃の禍々しさ。
空間を揺らす歪な攻撃。
僕が今まで見て来た攻撃の中で断トツに凶悪に感じたからだ。
だが、デュナメスの攻撃はそれだけで終わらない。
斬撃を飛ばした後、直ぐに移動を開始していた。
僕に向かって真っ直ぐ駆け寄って来る。
「なっ!?先読みをされていたのか!?でも!瞬間移動で無いのなら!!」
デュナメスが移動しながら右手に持つ剣。
その周囲には黒い粒子が集まり収束を始めていた。
先程と同じように受ける危険。
どんな攻撃になるのか解らないが、右手から放たれる攻撃に危険を感じ、デュナメスの正面から外れるように行動を開始していた。
丁度、腕の痺れも無くなり、自由が戻って来た頃だ。
「これなら反撃だって出来る!」
デュナメスとの距離が1mまで近付いた所で、その黒剣が上段から振り降ろされた。
僕は相手の身体の動きからも、その構えからも、上段から来る攻撃だと予測が出来ていた。
それを、余裕を持って避ける。
だが、もの凄い剣圧が「ブオン!」と横を通って行った。
剣速により巻き起こる突風。
そして、僕が攻撃を避けた場所には、地面もろとも大きく縦に裂かれていた。
「なっ!剣が通った空間が削り取られているだと!?これでは、デュナメスの攻撃全部が致命傷じゃないか?」
ある意味、予想した通りと言うか、僕がその禍々しさから受け取った直感は合っていたようだ。
一撃でも受けてしまえば、致命傷となりえる攻撃だ。
そうして、デュナメスの攻撃が危険な事を念頭に置き、瞬時に装備を弓矢に切り替えて離れる。
「これ以上、近寄るのは危険だ!ダメージは期待出来ないけど、確実に行く!」
その際、相手の隙を伺って離れながら攻撃をした。
相手の様子から結界を張っていないのだろうが、素のままの防御力が高そうな為、黒の指輪の効力で攻撃に貫通効果を付与させた。
すると、相手の防御を貫通し、ダメージを与える事が出来た。
だが、その与えるダメージは微々たるものだったが。
「やはり、持久戦になるよな...だけど、こっちは一撃でも貰えば即死なんだ...だったらやる事は一つしか無い」
今まで以上の集中力を求められる。
それは一つの間違いが命取りとなる為、危険区域で核実験を行っている科学者のようだ。
物事に没頭する事は得意だが、流石に、最後まで集中が持つかは解らない。
だが、しくじり=即死に繋がるのだ。
泣き言なんて言っている場合では無い。
もう、やるしかないのだ。
「余計な事は考えるな!目の前の事だけを考えるんだ!」
デュナメスは、僕の攻撃は痛くも痒くも無いようだ。
攻撃を受けても、すぐさま反撃をして来るのがその証拠。
相手に怯む様子は一切無い。
すると、突然。
攻撃パターンを変えて、独楽のように身体を回転させながら剣を振り回して近付いて来た。
回転しながら僕に向かって来るのだが、その周囲には、黒い魔力がかまいたちのように複数伸びていた。
「くっ!また厄介な攻撃を!」
僕は無様にも、地面を転がりながら攻撃を避ける。
だが、直ぐに立ち上がれるようにと、その終着点だけは気にして。
戦闘中に停止する事が無いように、必ず流動的に動いて、自分の逃げ場を失わない為にだ。
「次は...この時は...」
常に、デュナメスの攻撃の先を取るように思考をめぐらせる。
決して、僕からは近寄らずに一定の距離を保って。
そして、距離が空いて安全圏に入った時だけ、必ず弓矢で攻撃をする。
「身体は常に動かして、狙いを絞らせない!」
ただ、未だに瞬間移動をして来る時が解らない。
もしかしたら、発動するには特定の条件があるのではと考える。
一つ、相手との距離感。
一つ、再度発動するまでのチャージ時間。
一つ、他に特別な条件がある事。
「もしかして、瞬間移動に...条件があるのか?」
最初に戦闘が始まった時。
デュナメスとの距離が20m以上あった事(戦闘が始まる前にデュナメスから距離を取った為)。
その事からも、現時点で相手との距離を保つ場合は20m以上離れない事を意識し、余裕を持てる範囲の10m前後で行動をしている。
但し、浮遊のような安易な行動は取れない。
宙を浮かべると言っても、飛行のように動ける訳では無い。
移動速度が遅いのだ。
一度使用してしまえば、仮定の条件内の距離が保て無くなる事。
宙に浮かぶ事で逃げ場が無くなる事。
動きの遅い的になる事を見越して、使う事が出来なかった。
「まさか、一度使用したら、もう使えないのか?それとも、時間制なのか?」
チャージ時間については憶測となる。
デュナメスが瞬間移動を連続で使用をしなかった事を含め、今も一定の距離がある中で使用して来ないからだ。
最後の特殊条件に関しては、全く思い当たる事が無い。
だが、「何か特別な条件があるのでは無いのか?」と考えて戦闘を続ける。
「瞬間移動がいつ来ても大丈夫なように覚悟はしておこう。その時は頼むよ、タリスマン」
デュナメスは、近、中、遠距離と、全ての距離をそつなく攻撃して来る。
これは、最初にデュナメスが言っていた事だ。
「其方が今までの試練で勝ち得た力を駆使して挑んで貰う」と。
これ迄に得た戦闘経験。
相手への観察。
持久戦。
武器の切り替え。
アイテムの使用。
これら全てを総動員して、ようやく相対する事が出来るのだ。
この内の一つでも無くなれば、たちまちデュナメスに殺されてしまうだろう。
ただ、相手の動きに関しては、素早さが僕の方に分がある。
今のままなら、何とか対応出来るものだ。
「やはり、脳の負担が大きいな...」
身体よりも絶えず思考している脳の方が疲れる。
だが、思考を止める事は、即、死に繋がる為、止める事など出来無い。
僕は瞬間移動に注意しながらも、デュナメスの隙を突いて攻撃を与えて行く。
「いちいち攻撃パターンが多過ぎるんだよ!!」
半ば、八つ当たりのようなものだ。
多彩な攻撃を繰り出して来るデュナメス。
その為、安易に攻撃パターンが絞れないのだ。
その一瞬の攻撃を見て、その瞬間に判断(対応)をしなければならない。
精神の疲弊が酷くなると言うものだ。
「ちっ!また違うパターンの攻撃かよ!?」
デュナメスは、攻撃をした後に一部分を闇に擬態させて来た。
黒のオーブを使用して闇を吸い取らなければならないのだが、その攻撃の切れ目を見つけるタイミングが難しい。
だが、攻撃をする機会を逃したとしても、「生命大事に!」を優先で動く。
「慎重に。時間を掛けてでも...」
この試練を行うに当たって、時間制限が無い事だけが救いだった。
僕の攻撃を当てられる時だけに攻撃をして、基本は避ける事に集中する。
時間は掛かるが、堅実で最も確実な行動を取る。
「生命が守れるなら、時間なんて幾らでも掛けてやる!!」
すると、少しずつだが、デュナメスの動きに目が慣れて余裕が出て来る。
だが、油断には繋がらないものだ。
常に不測の事態を考えているので僕に油断は無い。
もしも失敗をする時は、その事態を超えて対処が出来無いだけだ。
「一に回避行動...二に距離間...三に攻撃...」
無意識に優先行動を口ずさんでいた。
確実にダメージを重ねて行くのだ。
そして、デュナメスのHPが半分切った時。
変化が起きた。
突然、その動きを止めたのだ。
「ふははは!!!流石だ!!流石ここまで来ただけはある!!」
デュナメスがそう言うと、その身体に変化が起き始めた。
黒い粒子が下半身へと集まり、その姿を変えて行く。
すると、下半身が馬のように変化し、四足歩行へと変化をした。
「えっ!?ケンタウロス!?」
「この姿になるのはプルート様以来二度目だぞ!!さあ!続きを楽しもうぞ!!」
ケンタウロス形態に変化をしたデュナメス。
これまで相対して来たどの五冥将よりも大きかった。
デュナメスはその場で駆け上がるように動き、馬部分(下半身)の前足を宙に浮かせた。
そして、その浮かせた前足を、勢い良く地面に叩き付ける。
「ドガーン!!」と轟音が鳴り響く。
すると、叩き付けられた地面は広範囲に地割れを起こし、地面が隆起しながら僕の方へと向かって来た。
それは、叩き付けられた地面から音階を上り下りする譜面のような、それぞれが不規則な高さで隆起し至る所を突き刺すような、そんな刺々しい波が出来上がっていた。
「くっ、何なんだよ、この攻撃は!?魔法か!?」
地割れで隆起する攻撃を、僕は右往左往に跳び回り、その地割れを登りながら攻撃を避けて行く。
だが、デュナメスは地割れで隆起した部分を真っ直ぐ登りながらこちらに駆けて来た。
僕が、右、左と跳び回っているのに対して、デュナメスは文字通りに真っ直ぐと。
「ちっ!そんなのデタラメ過ぎるだろ!!」
気付いた時には、デュナメスの手持ちの武器がいつの間にか変化をしていた。
剣タイプだった物がハルバートタイプに変わっていたのだ。
ハルバートをその頭上で、両手を使って扇風機のように回している。
「えっ!?武器が変化しているだって!?しかも、リーチも伸びているのかよ!?」
ハルバートに変更された事で、剣の時よりも、間合いの取り方を注意しなければならない。
デュナメスはその場から飛んで、上空からハルバートを勢い良く振り下ろした。
僕は回避する為に移動を繰り返していたが、デュナメスの機動力が上がった事で、ついに捉えられてしまった。
頭上から落ちて来る巨体が、圧倒的な質量で迫りながらだ。
「くっ!...タリスマンに魔力を込めるしか無いぞ!!」
紙一重の所でハルバートの振り下ろされる瞬間を狙って、黒のタリスマンに魔力を流して結界を張る。
(使用中は動けなくなるから、出来れば使いたく無かったけど...)
結界でデュナメスの攻撃をギリギリ防ぐが、一撃で結界は壊れてしまう為、その衝撃まで消す事が出来なかった。
強力な振り下ろしの衝撃で、僕は地面まで沈んで行く。
「重!?」
隆起する事で出来上がっていた壁に身体をぶつける事で、幸いにも地中に埋まる事は無かった。
だが、身体は勢い良く地面に叩き付けられた。
「ぐはっ!!」
地面の硬さが衝撃を跳ね返し、僕の身体へと内臓へとそのまま衝撃が伝わる。
身体の中の内臓が、落とした豆腐のようにぐちゃぐちゃになったような、ミキサーにかけられてドロドロになったような、そんな感覚を得る。
口からは血が吹き出す。
肺が潰れて息苦しい。
(結界張ってこれかよ...)
デュナメスはハルバートを振るいながら、障害物(地割れして隆起した部分)を壊してこちらに進んで来る。
その力づくで進む姿は、除雪機で雪を掻き分けているようだ。
それを視界に捉えながらアイテムバックから急いでハイポーションを取り出す。
無理矢理口に入れて行く。
「ごくっ、ごく。ん、はっ、はー!」
ハイポーションを飲むと身体の傷が塞がり、身体に受けたダメージが少しばかり回復した。
なんとか動けるようになった時。
酸素を瞬時に肺に取り入れて、この場から離れた。
(今のは防ぎようが無かったな...それに、ハイポーションのストックは...残り二個か)
身体のダメージは少しばかり回復したが、傷は治った訳では無い。
それは瘡蓋が出来たように、生傷に蓋をされたような状態だ。
「今の内に魔力も回復させておこう」
移動しながらアイテムを取り出し、黒の指輪で使用した魔力をマナポーションを飲んで回復させる。
「これで、“まだ半分”なのか...いや。“もう半分”だ!!」
先は長いが残りは半分。
疲れも回復する事が出来たので、集中をし直す。
残り半分。
此処まで来たのだ。
なので、終わった後の事など考えず、全力を出すだけだ。
「全力で行く!!」
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