013 魔獣諸国連邦ポセイドン⑤
「次は皇都から脱出しないとだな...レオンハルトは...やはり、目覚める気配が無いか」
三獣士の一人を倒し、革命軍リーダーのレオンハルトを無事に救出したところ。
だが、この場所は敵地のど真ん中。
憔悴しきったリーダーを休養させる為にも、改めてポセイダル城に攻め込む為にも、一度撤退をして準備をする必要があった。
「三獣士との戦いは、見事にフラグが立っていた訳だけど...でも、想像以上の強さだったな...そんな相手に勝つ事が出来たんだから...本当に最高だよ!!」
皇都へと侵入する前、三獣士の話題があれだけ出ていたのだ。
そうなれば戦闘になる事は必然であり、倒せなければ先に進めない事は予想が出来ていたもの。
だが、相手の強さは想像以上のものだった。
初のBOSS戦と言う事で、難無く倒せるような相手かと思っていたが、見事なまでに期待を裏切られる結果となった。
僕からすれば、戦闘をする上で自身の能力を最大限に活かせなければ勝てない相手は、とても喜ばしい事なのだが、他のプレイヤーにとっては、多分そうはならないだろう。
ゲーム的な感覚で強い技を繰り出していれば勝てるのでは無く、実践的な感覚に近く、相手を観察しながら情報修正をし、その都度対応を変えて戦わなければならないのだから。
まあ、だからこそ余計にリアルを感じる事が出来て、この世界に生きている実感を得る事が出来るのだが。
「この後は、マーク達と合流すれば良いんだんよね」
レオンハルト救出後はマーク達と合流し、革命軍の本拠地へと向かう予定。
だが、三獣士エアホークとの戦闘が終わると同時。
ポセイダル軍の兵士達が、続々と広場に集まろうとしていた。
しかし、僕自身のダメージ量や疲労などを考慮すると、これ以上の戦闘をする余裕が無かった。
「先ずは、広場から離れなくちゃ...となると...担ぐしか無いか...」
広場で囲まれた場合、気を失っているレオンハルトと居ては、逃げる手段が無い。
この状況に手が負えなくなる前に、広場から撤退する必要がある。
僕は、無理矢理にでもレオンハルトを背負った。
「ぐ、お、重っ!」
レオンハルトは身体が大きく、身長が250cmを余裕で超えていた。
しかも、かなりの筋肉質で体重も150kgを超える人物だ。
自分よりも大きい相手を背中に担ぐ。
それは、僕の身体が隠れる程の大きさだった。
この行為は、魂位によるステータスの補正が無ければ、レオンハルトを持ち上げる事など出来なかった事だろう。
だが、能力が上昇している今では、レオンハルトの重さを感じる事はあるが、その重さを苦も無く持つ事が出来ていた。
「さすがに、レオンハルトを担いだまま戦闘するのは無理だな...」
背負ったままのこの状態では、戦闘をする事など出来無い。
両手は塞がり、足腰はレオンハルトを支える事で精一杯なのだから。
もしも、戦闘になれば、僕は逃げる事しか出来無いのに、相手は攻撃をし放題だ。
そうなれば、格好の的になるだけで、待っているのは死(ゲームオーバー)。
「とりあえずは、敵の居ない方に移動をしてと...」
レオンハルトを背負いながら移動を始めた。
だが、正直、何処へ向かえば良いのか解らない。
また地下水路に戻れば良いのか?
僕が、そんな風にどうしたものかと考えていると...
「時間が掛かっているから心配で見に来てみれば、まさかエアホークを一人で倒すとはな!これは凄い事なのだよ!」
「もう、無茶をして...でも、あなたが無事で良かったわ」
陽動をしてくれていた革命軍のメンバー、マークとジェレミーが僕の下に来てくれたのだ。
予想以上の結果に興奮をしているマーク。
何故だか解らないが、僕を見る目が優しいジェレミー。
「革命軍に参加してくれたのが君で良かった。ルシフェル、ありがとう!」
「ええ、本当に嬉しいわ!リーダーを無事に救出してくれてありがとうね」
マーク達は、頭を深く下げて心からの感謝を述べた。
二人は、リーダーが助かった事でようやく安心が出来たのか、この時に初めて二人の笑顔を見る事が出来た。
(あっ ...二人は、こんな風に笑うんだね)
それは、見ている僕も釣られて嬉しくなるような、相手の感情が直に伝わる笑顔。
しかも、こんな時に思う事では無いのかも知れないが、初めてマークに名前を呼ばれた事が嬉しかった。
ようやく、僕と言う人間が二人に認められたのだと思う事が出来た瞬間だ。
「では、ここから急いで脱出するぞ!」
「ええ。これ以上の長居は無用よ」
「俺が先陣をきる!だが、敵軍の射撃に、魔法攻撃には、くれぐれも気をつけてくれ!」
「私は、あなた達の後ろから付いて行くわ。出来る限り魔法で結界を張り続けるけど、その結界には頼りすぎないでね!」
「では、行くぞ!」
皇都から脱出する為、進入時に使用した地下水路へと戻って行く。
その戻る最中、僕達の行き先を阻むように兵士達が集まって来ていた。
「邪魔をする者は、蹴散らす!」
だが、多少のポセイダル兵が集まって来たところで、マークには関係が無かった。
見た目通りの戦闘スタイル。
だが、そのスピードは段違いのものだった。
相手が集まるよりもマークの動きの方が早く、通路を防ごうと動く敵を瞬時に切り伏せて行った。
「なるほど。マークが進むべき道を作ってくれるから、僕達はその後を付いて行けばいいのか!」
僕達はマークの後ろを付いて行く形で、通路の障害物や敵の攻撃を避けて行く。
左右から、又は上空からの弓矢での攻撃や魔法での攻撃が飛んで来た。
ちなみに僕は、レオンハルトを背負っている状態の為、攻撃も反撃をする事が出来無い。
「背負いながらだと行動が制限されてしまうんだな...人を担いだ状態が、こんなにも大変だなんて」
敵からの攻撃は、ジェレミーが張ってくれる結界で防ぐ事が出来る。
だが、結界は一撃で決壊してしまうものだ。
ジェレミーが、再度結界を張り直すまでの時間は決まっており、その間、30秒程は無防備な状態となってしまう。
もしも、無防備な状態で攻撃を受け過ぎるとHPは無くなり、死(ゲームオーバー)を迎える。
「何だか...立体スクロールゲームみたいだな」
感覚的には、自分からは攻撃が出来無い、味方の援護攻撃のみで攻略をしなければならない立体シューティングゲーム。
画面一杯に広がる敵の弾幕を、此処だと言うタイミングで避けなければならない。
しかも、特定の場所で無ければ避ける事が出来ず、その見極めが重要となるのだ。
とても繊細な身体操作が必要となる。
その上、正しい手順を踏まなければ解く事が出来無い知恵の輪を、時間が限られた中で難易度が違うものを幾つも解かなければならない。
そんな思考感覚が必要となる。
一つもミスが出来無い極限状態の中、繊細さと速さの両方が必要だった。
「前方の敵は、俺に任せろ!」
「結界を過信し過ぎないで!なるべく攻撃は避けてね!」
敵方も、最初は単体での攻撃だった。
だが、道を進むに連れて攻撃のバリエーションが徐々に増えて行った。
正面から来る攻撃を右へ左と横の動きだけで避けていたものが、加速や減速と言った真横からの攻撃に対応したり、ジャンプをしたり、腰を落としたりで、上下の攻撃にも対応して行かなければならない。
注意点としては、浮遊などの空を飛ぶスキルが一切使え無い事だった。
純粋な、僕だけの身体能力で対応しなければならない。
それなのに、道を進むにつれて敵の攻撃の弾幕は増えて行き、難易度が急激に跳ね上がって行くのだから、困ったものだ。
「残りは僅かだ!最後まで気を抜くな!」
終盤に差し掛かったところで、マークが叫んだ。
勿論、気を抜くつもりは最初から持ち合わせていない。
だが、レオンハルトを背負いながらの移動は、上下左右動き回る運動は、かなりしんどいもの。
僕の心肺機能を、否応無しに圧迫した。
身体(全身)の筋肉はパンパンに張った状態。
疲労が蓄積されて、僕の限界も近くなっていた。
(これはしんどいな...特に、終盤になってからの攻撃は、避ける場所が限定され過ぎているよ...)
此処まで来ると「そこしかない」と言うような絶妙なタイミングでアクションを起こさなければ、敵方の攻撃を避ける事が出来なかった。
少しのズレが致命傷となる攻撃。
まるで、緻密に組み立てられた設計図のように。
こうなってしまうと、ダメージ覚悟で死なない事だけに注意するしか無い。
だが、それすらも凌駕する攻撃の弾幕が襲い掛かって来た。
(!?)
この攻撃を避けるには、僕自身の限界を超えなければならなかった。
極限の疲労の中、自身の最高のパフォーマンスを披露しなければならないのだ。
マラソンを走りきった直後に、再度全力で100m走を走るようなもの。
しかも、自己ベストを更新する事が必須条件なのだ。
我武者羅に身体を動かす。
そして、苦しさの奥の扉を開いて行くのだ。
何故なら、僕にとって、死ぬ事よりも苦しい事は無いのだから。
「一っ!二のっ!三っ!!」
掛け声と共に、必死に身体を動かした。
限界を振り絞り、疲労の奥の一滴の可能性を捻り出す。
僕は攻撃の弾幕を避ける為、壁を使った三角跳びの要領で攻撃を避けながら反対の壁へと跳んだ。
そこから更に壁を蹴り上げ、弾幕の無い場所へとピンポイントに二段跳びをして行く。
だが、その最後の一踏ん張りが利かない。
既に身体の感覚が可笑しかった。
踏ん張ると言った行為、力を込めると言った行為が出来無いのだ。
(く!!)
僕は、最初からダメージを受ける事を覚悟していた。
そのまま何もせず死ぬ気など毛頭に無いのだから。
それに、まだ結界が残っている。
敵の極大の一撃だろうと、ある程度の威力を結界が身代わりしてくれるのだ。
ならば、覚悟を決めて全力で身を固めれば良いだけ。
そうして、ダメージを最小限に抑える事が出来たのだ。
「ふーっ。何とか...切り抜ける事が...出来た」
空間全体に広がる弾幕のような攻撃をかいくぐり、やっとの思いで地下水路の入り口へと辿り着く事が出来た。
だが、これ以上の戦闘も、身体を動かす事も避けたいのが本心。
既にもう、身体は満身創痍の状態なのだから。
「地下水路に来たと言っても、ここはまだ敵の本拠地...」
まだ安心は出来無い状況。
その為、急いで此処から離れる必要があった。
どうやら、水路を使って一気に移動するらしい。
地下水路に待機していた残りの革命軍のメンバーが、水路用の小型の船を用意してくれていた。
僕は、疲れた身体を無理矢理動かし、船に乗った。
先程まで背負っていたレオンハルトは、革命軍のメンバーが代わりに運んでくれた。
(あと...すこし...)
僕の意識は薄れ始めていた。
何とか船に乗り込むのだが、溜まっていた疲れがどっと噴き出してしまい、その場で脱力するように倒れてしまった。
だが、自分の力でやり遂げたのだ。
その気持ちは、とても満足行くもの。
大の字になりながらも、天を仰ぎ呟いた。
「救...出...完...りょ、う。あぁ...疲...れ、た」
もう、一ミリも身体を動かす事が出来そうに無い。
それに意識を保つ事も出来そうに無かった。
だが、心に残る達成感と充実感。
今の僕は、一体どんな表情をしているのだろうか?
そのまま気を失っていた。
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