主人公になりたい 〜とっても可愛い嫁候補たちがいるリア充イケメンな俺はただ一人の女を振り向かせて見せる!〜
KID
第1話 物語は始まる。
あれは……いつだっただろうか。
父の本で見た……かっこよく人を助けてたくさんの謎を解明して、巨大な敵を倒して、美少女とイチャイチャする主人公。
色々目白押しだけど、そんな色々できる主人公に俺は憧れた。
誰だって思うことがあっただろう。
仮面ライダーやプリキュア、戦隊とか小さい頃憧れただろ?
そんな感じだ。
俺は色々できてかっこいい父の本に出てくる主人公に憧れた。
主人公は物語には欠かせない。
父の本でもそうだ。
俺はそんな物語になくてはならない人間になりたいと思った。
そのために俺は人よりも努力して、頑張って、何があっても前を向いてカッコよく生きてやる。
いつか見た主人公のように。
そしてそう決意した小学5年生の頃から現在。
俺は高校一年生になっていた。
イケメンで成績優秀、そしてスポーツ万能。
身体は程よく引き締まっており、道を歩けば誰もが振り向く。
そんな少女漫画に出てくるような最強イケメンキャラがこの俺、
そんな俺は今、いつものようにたくさんの視線を集めている。
いや、いつもよりも多いかな。
えーと、一つの私立高校の全校生徒の視線。
うーん、いつもより多いね。
なんでそんな視線集めているかって?
理由なんて分かりきっている。
俺が誰もが羨むイケメンだからだ!
と言うのは半分冗談で、注目を集めている本当の理由は俺が高校の入学式で新入生代表の挨拶をしているからだ。
この私立興南高校は毎年その年の入試で一位の点数を取った生徒が新入生代表の挨拶をすることになっている。
部活、勉強ともにここら辺じゃトップクラスのうちの高校には勉強推薦とスポーツ推薦、それと勉強、スポーツともに優秀で学校から招待される特別推薦が毎年ある。
今年の特別推薦は五人選ばれた。
そしてそのうちの一人はこの俺!
さすが俺。
おっとそろそろ事前に決めていた挨拶が終わりそうだ。
「以上を持ちまして新入生代表の挨拶とさせていただきます。新入生代表、黒咲 空」
パチパチパチパチ。
ほら終わった。
聞いてると長いと思う挨拶もやってる側からすれば案外短いもんだな。
そんな風に思っていると舞台袖から声をかけられた。
「おい、そんなんで主人公になれんのかー?」
とっても楽しそうな顔をしているドS女王のような美人先生。
「ちょっと! 何してるんですか平澤先生!」
教頭先生らしき人物が止めに入っているが彼女は気にしていない。
馬鹿なのかあの先生は……。
俺は過去に何度もお世話になっているにもかかわらず呆れ顔でそっちを見た。
「お前主人公になるんじゃないのか? そんなつまらない優等生みたいな挨拶でなれると思ってんのかー?」
平澤先生の後ろにドス黒いオーラが見えた気がした。
そもそも挨拶あんたと考えただろっ!
てかそんなんで俺が対抗心燃やすとでも思ってんのか?
まぁ燃やしてますけどね!
「しょうがないなー。やってやるかー」
俺は一人でボソッと呟いてから再び前を見た。
平澤先生はすっごいニヤニヤしてる。
うっっっっっっざ。
みんなつまらなそうな顔してんな。
俺が面白くしてやるよ。
「えーと、一つ。言い忘れてました〜」
俺が口を開くと生徒たちはどよめいた。
「何話すの」
「まだ終んねえの」
うんうん、わかるぞぉ。
つまんないもんな。
けど今からはつまらないなんて言わせない。
「俺がこの学校に来たからには学校行事でも勉強でも部活でも恋愛でも一番楽しんで一番成績を残す!」
当たり前。
「だから一番になりたい奴、俺のことがムカつく奴、いつでもみんなかかってこい!」
だってそっちのが楽しいだろ。
「勝てるもんなら勝ってみろ!」
勝てないだろうけどね。
「俺は絶対に負けないけどな」
負けたら主人公になれないだろ。
「じゃ、これで終わりです。あざしたー」
ふう、これで終わり!
完璧だぜ!
「ふざけんなー!」
「イケメンだからって調子に乗んなー!」
「厨二病くそやろー!」
まさに罵詈雑言の嵐。
俺は軽くお辞儀してノリノリのルンルンで舞台袖に戻っていった。
「うわっ、ナルシストだ。ナルシストがいるー」
「うっせ、あんたがさせたんだろ」
先生は軽く笑った。
「そうだったな。でも面白いだろ?」
「まあな」
俺と先生は互いにやったことを楽しんで笑っていた。
そんな時。
「ちょっと二人とも」
今にも噴火しそうなくらい真っ赤な教頭が後ろにいた。
「いい加減にしなさーーーーい!」
あ、噴火した。
その後、俺と平澤先生はたっぷりと怒られた。
あんたのせいだぞこんちきしょー。
そんなんだから結婚できないんだよ!
俺は怒られながらそう心の中で愚痴ったんだが平澤先生に睨まれた件。
もしかして心読める?!
まぁ気のせい……でしょ……。
気のせいに決まってる。
だいたい人間に人の心を読むなんてできるわけが……いや、あの人なら
できそうだな。
とことん怒られた後、俺と平澤先生は自分たちの教室へと向かっていた。
二人でなかったことにしたい……なんて言いながら。
そして歩いてる途中、ふと窓から空を覗いた。
その空はどこまでも青く、澄んでいた。
どこかの誰かに嫌われ、どこかの誰かを惚れさせる。
自ら壁を作り、それに立ち向かう。
そんな俺が主人公の物語は、今日もつつがなく平和なエンドロールへと進むらしい。
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