【完結】ねこかんふりーく

わごいずむ

プロローグ

「ふむ。これでわらわも完璧な女子高生じゃ」

 居間の姿見の前で、少女はご満悦な笑みを浮かべた。

 初めて着た高校の制服。

 胸元に結ばれた学校指定の赤いリボン。

 腰まで届く美しい黒髪。

 陶磁器のように透き通る白い肌。

 加えてしなやかに伸びる細い足。

 残念なのは胸がないだけで、それ以外は文句の付けどころのない美少女だった。

 もっとも、それが普通の地球人ならではの話だが。

「これでスカートに穴が空いておれば完璧なのじゃがのぉ」

 少女がお尻のあたりを気にしていると、台所のほうから声がした。

「くれぐれも言っておきますけどぉ、人前で尻尾なんか出さないでくださいねぇ」

「長年、地球でビジネスをしておるわらわじゃぞ。そんなこと言われんでも百も承知じゃ」

「ならぁ、いいんですけどぉ」

 と、のれんを押して台所からメイド服を着た異国美女が現れ、丸ちゃぶ台の上に朝食を配膳しながらジト目を少女に向けた。

「そのわりにはしっかりとぉ、頭からネコ耳が生えてますけどぉ」

「あっ、いかん! わらわとしたことが、うっかりしとったわ」

 慌てて頭の上を押さえる少女に女性が笑う。その失態を誤魔化すように少女は咳払いをし、ちゃぶ台の前へと腰掛けた。

「まぁ、それはともかく……クレアよ。あやつの記憶改変は完璧なのじゃろうな?」

 あぐらをかいて食事を始める少女に、女性も座ってワカメが浮かぶコーヒーをすすり始めた。

「ご心配なくですよぉ」

「本当じゃろうな?」

 左手に持つ箸の先を振って自信満々に答える女性の言葉を聞きながら、少女はきつね色に焼き上がったアジのひらきにかじりついた。

「先日もご説明しましたけどぉ、記憶はもちろん、当社が用意した義体を装着している限りぃ、被害者さまが気づくことは一切ありません」

「くどいようじゃが、本当に事故のことはバレぬのじゃな?」

「お嬢さまがネコ耳や尻尾を出さない限りぃ、バレることは絶対にありえませんのでぇ、大船に乗ったつもりでいてください」

 大きな胸が絶対的な自信を主張していた。

「ふむ。まぁ、保険屋のプロであるおぬしが言うのじゃから、間違いはないのじゃろ」

 そう言って、少女はホカホカご飯の上にキャットフードをふりかけ、上機嫌に頷いた。

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