第23話:行け、最速の彼方へ

 クラウンレース。それは最速のウィッチを競う祭典。

 クラウンレース。それは最も速いウィッチの座を奪い合う戦争。

 クラウンレース。それは――。


『レディースエーーーーーーン! ジェントルメーーーーン!!!!』


 沸き立つ歓声。盛り上がる視聴者。燃え立つ走者。

 そのどれが欠けても決して成立しない三位一体の絆。

 人は呼ぶ。それをクラウンレースだと!


『さぁ! 始まったぜぇ! クラウンに相応しい最速を決める祭典がよぉ!!』

『高まってんじゃーん! みんな頑張ってー!』

『ということで実況はワタシ。三度の飯よりレースが好き。レースならもちろんクラウンレースなブルーノと、解説は通称ギャルクラフターで有名なここあさんにお越しいただいております!』

『うぃー!』


 というか、あなたがレースの解説するんかい。

 まぁいいけどさ。むしろ見届け人としては最適解な場所にいるんだ。これ見よがしに見せつけてやるとしようじゃない。


『ではそれぞれの走者の紹介をさせてもらうぜぇ! 一番! 一番速いのはこの俺しかありえない! 浪速のスピードスター、ドートンくん!』


 紹介された順番で言えば私たちはラストだ。箒の最後のメンテナンスも兼ねて、持ち手の調子。毛の具合などを念入りに調整していく。


「……わたしたち、やれるんでしょうか?」

「やれるんじゃない、やるの。私のケジメのためにも頑張ってよ」

「はい!」


 背中をパシンと叩いてカツを入れる。

 ダメージが入らない程度にはしてるけど、思いのほかいい音が鳴って少し焦った。


「師匠、力強いです」

「あ、ごめん」

「いえ。師匠の熱、ちゃんと伝わりましたから!」

「……うん」


 アステが頭を差し出してくるので、少しつま先を立てて、彼女の頭を撫でる。

 まったく。こういうのは身長が高い人から低い人へとやるものだろうに。

 アステは何故か私のこれが気に入っているらしく、ちょこちょこ頭を差し出してくる。その都度付き合っている私の身にもなってほしい。主に身長差による惨めさとか、そういうの。


 でも気分的には悪くない。アステを撫でていると、昔のことを少し思いだすから。

 ノスタルジーに浸る、というやつかな。いたなー、小さい頃私についてくる気弱な女の子。

 言われてみればどことなくアステにも似ているような……。いや、あの子は私より小さかった。ちびだった。だからアステに似てたとしても、それだけは絶対に認めたくない。


「師匠?」

「え? なに?!」

「紹介次ですよ」

「あ、そうだっけ」


 撫でていた手をそのまま自分の首元において、照れ隠し。

 いや、そんなことやってる場合じゃない。ちゃんとキャラを変えて。今のは私はアイドルのカナタだ。


『それじゃー最後の走者はこいつらだ! 最近人気がうなぎ上りのこの2人! チームアスカナからアステとカナタだー!』


 ロケットが打ちあがるように爆発的な歓声がスタジオ内を響き渡らせる。

 やっぱり表舞台のこの感じ、未だに慣れないな。


『今回は2人での参戦となりますが、これはどういった意図があるのでしょうか、ここあさん?』

『まー、オーソドックスなのは片方がエンジン、片方がハンドルっつー感じ? っても人の数だけ速度も落ちっから、1人よりもやべーことには変わりないっすね』

『兎にも角にも、全員が乗り物に搭乗していきます!』


 車やバイクはもちろんのことながら、魔法のステッキで空を飛ぶもの、なんかとんでもな木製飛行機に乗ったクラフター。その中でも私たちは箒に乗っているのだと言うのだから、少し面白い。これがクラウンレースの醍醐味と言えよう。


『全車そろいました! さぁ、カウントダウンが始まります……』


 赤い星が1つ。2つ。そして3つ点灯。

 緊迫の時。箒の持ち手を握る手が強まる。大丈夫だよ、アステ。私とあなたなら、きっと1位を取れる。

 静寂。エンジン音だけが響き、そして――。青に変わる。


『スタート!! おーっと! 初めに飛び出したのは浪速のスピードスター、ドートンくんだー!』


 まずは直線コース。先にコーナーを取った方が先行なんてルールはないものの、調子が良くなるのは間違いない。だから私たちも、同じ作戦でこのレースを制する!


「アステ、作戦通りいくよ!」

「はい! 練習の成果、出します!!」

「《アクセラレー・ト・リューヌ》!!!」


 瞬間、瞬くのは緑色の閃光。

 私の手から伝わって、箒が緑彗の流星となり、ドートンくんの後を追う。


『おーっと?! チームアスカナ! いきなりトップギアだァ!!』

『カナカナ、ユニーク使ったっぽい!』

『カナタ選手のユニークスキルは速度の上昇。それを乗り物に使ったということは!』

『この試合のゲームメーカーはカナカナかもね』


 焦ったマジカル型が《マジック・ロケット》を用いて私たちの独占状態を防ごうとする。

 だけど、その程度の弾幕じゃ、アステは止まらないし、そもそも触れさせないし!


 指先から出した《ヘブンズストリングス》の糸で襲い掛かる誘導弾をすべて起爆させる。

 こういう時に重量が低い糸が役に立つんだよ!


『チームアスカナ! ドートンくんに徐々に接敵する!』


 とはいえ戦闘は未だにドートンくん。

 おそらくトップギアのままレースの勝利をかっさらっていくつもりなのだろう。

 思ったよりもノリに乗っている。同タイプは想定していたけれど、それよりも速い特化型。スピードだけを考えた脳筋仕様ってことか。


「どうします、師匠!」

「さすがに最有力候補は伊達じゃないか」

「俺たちもな!」


 飛び出すのはバイク。グアルンと名付けられたウィッチネームが、バイクに装着されたミサイルを2門こちらに向ける。

 確かにクラフト型ならこのぐらいの武器は扱えるか。


「キサラギ! 那珂! まずは先頭の2人を潰すぞ!」

「退きなさい! 私が、1位なのよ!」

「まずい、回避しろ!」


 飛沢と名前が書かれたマジカル型から超高エネルギー反応を検知する。

 ヤバい。完全に足止めてるけど、その攻撃は流石にヤバいって!


「アステ左!」

「はい!」


「すべての魔力の塵を束ねて、集めて、収束して。1本の光の柱となれ! ユニークスキル《シャイニング・ブラスター》!!!」


 瞬間、まばゆい光が視界を支配する。

 飛び出すのは1本の柱。それがコースを横倒しに伸びていく。

 絶滅の光はその進行方向にいるすべてのウィッチを蒸発させる。キサラギや那珂、グアルンと呼ばれたウィッチをことごとくを巻き込んで、その滅亡の光は細く細く、自分の役目を終えた。

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