第8話:ランダムマッチ、憂さ晴らし

『くそっ、ったれがぁ!!!』


 敵が自在に操る魔力弾によるオールレンジ攻撃を私のスキルによって、そのことごとくを両断していく。ただ作業的に、自分が勝つためのプランニング。

 練度が低い。ランダムマッチというのは得てして闇鍋である。

 私以外全滅したプレイヤーたちも、私ごとき1人に壊滅させられる敵陣営も。その全ての練度が低い。

 ベディーライトなら、個人ランキング2位の考えを伝えるのであれば、弱さは罪である。故にこのゲームをやめることをお勧めする、と口にするだろう。

 幸いにも、私にはVRの才能があったし、こうやって努力しただけである程度の相手であれば、無双するだけのパワーを生み出すことができる。

 だけど、強さはどこまで行っても。いや、ある一定のラインから行けば、むなしいだけだ。


 指先から生み出されている5本のラインが目の前にいるプレイヤーを捉える。

 彼は避けることができず、そのまま糸に絡めとられ、データの破片へと消滅していった。


『YOU WIN!』


 これで何戦目だっただろうか。

 もうどうでもいいや。今の試合も、これまでの試合もすべて私の憂さ晴らしのようなものなのだから。


 受付ロビーへと戻って来ても、歓迎してくれる人はいない。

 それもそうだ。アステにも何も教えていないのだから。


「もう1戦やろ」


 そうだ。これはただの憂さ晴らしだ。

 百合営業だの、アステとの仲だの、いろいろとかき回された私の。

 だいたい何が女性同士の同性愛だ。私は異性との関係すら持ったことないっての。

 思い返せば普通に真面目な人生を歩んできたし、大した恋愛話を上がったこともない。だから配信者になっても鳴かず飛ばずなのだろう。


「ステージは宇宙でいいか」


 誰にも負けたくない。その一心が途中から芽生えて、すべてが歪んだ。

 幼馴染はどこかに行って、私の居場所だったクランが見るも無残な状態になり、もうどうでもよくなって逃げてきた。

 逃げた先で配信者になっても、不器用なことに誰にも負けたくないって気持ちが芽生えている。

 私は結局、何がしたいんだか。


「頑張ろうな!」

「そうだね、うん」

「どうかしたか?」


 何も知らない。それだけで心が少しだけ軽くなる。

 首を横に振って、それで無理やり張り付いた笑みを浮かべる。こういうことだけは配信者やってて相手を騙すようで悪いがよかったと思ってしまう。


「勝とう」


 私のようなアーミー型は基本的に銃撃戦か格闘戦のどちらかとなる。

 マジクラでは魔法の力で宇宙での活動も可能となっており、無重力特有の地に足がつかないふわりとした感覚を纏いながら戦う。

 魔法の力でロボットのスラスターのようにブースターを点火することができるスキルや、魔力の壁を作って、それを足場に動く方法など、宇宙での様々な移動方法があるが、総じて格闘戦では何かスキルを併用させながら戦うことになってしまう。

 だからいつものようにスキル《飛翔》を応用しながら、ナイフを手に宇宙を駆け始める。


「砲撃戦は任せろ!」


 とあるプレイヤーが魔法の槍で魔力弾を展開させ、直後にオールレンジ攻撃を開始する。

 クラフター型プレイヤーはガジェットを使い、周囲を探知。

 1人は光の柱を杖から放てば宇宙に黄色い花が咲く。どうやら誰かにヒットしたみたいだ。


「よし! あいつを狙えば……っ! ぐわああああ!」


 直後、一筋の閃光が突撃したプレイヤーの胴を貫いた。

 《プロテクション》というバリアスキルはあれど、それを展開していなかった一撃。電子の塊へと変容したプレイヤーを刺す言葉は1つ。相手にスナイパーがいると言うことだ。


「まずは厄介な砂からかな」


 幸いにもクラフター型プレイヤーの手によって、周囲の探知情報力が上がっている。

 そして光線の道筋をたどれば、おのずと答えは導き出せる。


「この付近にスナイパーがいる。私が処理するから、みんなは他をお願い」

「いや、だけどお前1人じゃ……」

「そうよ。いくら私のスキルで探知能力あがってても!」

「なんとかする」


 魔法のブーストを使用して、スナイパーと思しきプレイヤーがいる宙域へと接近する。

 時々飛んでくる思考誘導弾や魔法砲撃などはすべて回避。見えるものを躱せというのは何度もやってきた。

 そして相手も迂闊だ。こちらにマッパーがいることを理解していない。

 その上で攻撃してきているんだ。その末路は手に取るように見えている。


「よし、1人撃破!」

「そっから右手に砲撃手!」

「油断しないで。まだ砂はいる」


 多分私の方に注意が引かれていると思うけど。

 このスナイパー、たまたま初撃がヒットしたから興奮しているんだ。

 だから先ほどから私の意識の範疇から狙ってきて、避けられる。やはり先ほどと一緒で練度が低い。

 それがいいか悪いかで言ったら、別にどちらとも言えないのが本音だ。

 その人にはその人のプレイスタイルがある。あのクランなら話は違うけれど、私は私。練度が高くても低くても、楽しめればそれでいいのだ。

 だけど、決定的なものもある。上下がハッキリしていて、埋めようのない才能の差があって、追っても追っても追いつけない努力の差があって。


 ――それを人はこう呼ぶ。


『ここからなら』


 至近から飛んできたライフルの弾丸は確実に頭部へと被弾するものだった。

 ただし、私が予測していなければ、という条件付きに限る。

 身体を側面に回転させ、頭部への被弾を無意味な空振りへと変質させた。


『今の避け……っ!』


 瞬間。首元に突き立てたコンバットナイフがぐさりと相手のHPバーへと突き刺さる。

 赤いデータの奔流なんてものは存在しない。

 ただそこにあるのは体力バーがそのままゼロになり消滅する様だけである。


「実力だよ、悲しいくらいのね」


 ――実力。


 決定的な事実であり、それが覆らないから人は悩み苦しむ。

 消滅前に略奪したスナイパーライフルを手に、スコープを覗く。敵影は残り1つ。バレていないと特大魔法。おそらく必殺技を使用する直前だろう。

 今回は運がよかった。何せマッパーがいたのだから。

 敵は運が悪かった。何せ私がいたのだから。


「じゃあね」


 トリガーに指をかけて、躊躇なく引く。

 もしもこれがゲームや遊びでなかったなら戸惑いはするだろう。

 だがこれはゲームで遊びだ。だから実力差で悔しがったり、もっと強くなりたいと奮起する。

 次会うときがあったら、その時はもっと努力するといい。少なくとも、私の不意打ちから逃れられるような実力を身につけてね。


 寸分たがわず頭部に着弾した敵プレイヤーはデータの屑へと姿を変える。それで決着した。

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