第11話 魔術師はドキドキする ☆

マイロにはいまだに多少のわだかまりがあるにせよ、思わぬ相手に知りたかった事を聞けて、ユアンは複雑だった。


が、せっかくの知識を無駄にはしたくない。

ユアンは翌日、トレミアと夕食を食べに行く約束を取り付けた。もちろん、しっかり宿の下調べもしたのは言うまでもない。



「んー、これ美味しいね!」



「そうだな」



いつものように満面の笑みで料理を口に運ぶトレミアを見て、ユアンは微笑んだが、正直料理の味など分からなかった。



(はああ……我ながら頭の中、そればっかりかよ……)



自分でも呆れたが、仕方ない。これまでずっと好きだった子と、やっと両想いになれたのだ。



「ほら、ユアンも食べてみて。このデザートすごく美味しいの」



気が付けば、メイン料理を食べ終わったトレミアが、氷菓子をスプーンですくってユアンの口元に差し出していた。


「えっ!?」


びっくりした拍子に開いた口に冷たい塊を押し込まれて、思わず呑み込んでしまう。



「ねっ、美味しいでしょ?」


「……うん」


味など感じる暇もなかったが、嬉しそうに笑うトレミアにつられて笑ってしまった。


鬱屈した想いに囚われていた頃、街で愛し合う男女がやっていたのを見て馬鹿らしいと思っていたが、それを今自分もやっているのだと思うと、気恥ずかしい。

が、皆がやりたくなる気持ちも分かる気がした。



「ふー。お腹いっぱいになったね!」


満足そうなトレミアに、にわかに緊張して来る。


(い、いよいよだ……でも、いきなり宿に連れ込むなんて駄目だよな。そうだ)



「トレミア、少し散歩……しないか?あの、ほら、前に行った公園の花、夜でも魔法光で照らされて綺麗らしいんだ」



少し前にフィンリーに教えて貰っていたのを思い出してそう言うと、



「うん、いいよ。夜のお散歩も楽しいね」



トレミアは機嫌よく笑って手を繋いでくれ、ユアンは半分上の空で歩いた。



「うわー!ほんとに綺麗だね!すごく幻想的ですてき」



「そうだね」



公園に着くと、蛍の光のように魔法光があちこちに浮かんでおり、ぼんやりと花を照らしていた。ユアン達のような恋人同士の姿もちらほらと見えたが数は多くなく、二人は手をつないだまま隅のベンチに座り、ユアンはトレミアをちらりと盗み見た。



トレミアの緑色の瞳に月の光が映っていて、ユアンには花よりも月よりも素晴らしく見える。



「綺麗だな……」



思わず心の声が漏れてしまったのを、トレミアは景色の事だと思ったらしい。



「うん、ほんと綺麗だね」


「いやっ、そうじゃなくて、景色も綺麗だけど、俺にはその景色よりもトレミアの方が綺麗に見えるっていうかっ……」



慌ててまくし立てると、さすがのトレミアも頬を赤く染めて慌てふためいた。



「えっ、あ、ありがとう。でも、ユアンだって綺麗だよ?夜空みたいな髪とか、目とか、私いつもユアンの事綺麗だなって思ってるよ」


「ぷっ。そんな一生懸命お返ししてくれなくてもいいのに」



可笑しくなってユアンが笑うと、トレミアも気が抜けたように笑ったあと、おずおずと言った。



「……ごめんね。こういう雰囲気、私慣れてなくて。どうしたらいいか分からなくて。ユアンだってもっと色気のある子の方が好きだよね?」



「えっ!?何言ってるんだよ。俺はそのままのトレミアが好きだよ。色気なんて別にトレミアに求めてない、じゃなくて!ごめん、そういう意味じゃなくて、色気があるから好きになるとかじゃなくて、俺はトレミアだから好きなんであって、だからあの、色気があろうがなかろうが、俺はトレミアが好きだよ」



ユアンが焦って言い募るのを聞いていたトレミアは、ほっとした顔になってユアンにぎゅっと抱き着いた。



「そっか。良かった!私もそのままのユアンが好きだよ」



「トレミア……」



ユアンはトレミアの背中に手を回して抱き締めながら、ゆっくり唇に触れるキスをした。


トレミアもうっとりと体を預けて来てくれている。



ここまでは、何度かした事がある。



だけど今日はどうしても先に進みたくて、ユアンは唇を合わせながらトレミアの唇の隙間から中へ舌をそっと差し入れてみた。


ぴく、と体が動いたが、トレミアもおずおずと舌を絡め返して来た。



(う……気持ちいい)



ユアンの口付けはどんどん深くなり、漏れる吐息も荒くなる。



「んっ、んん、っふ」



息継ぎのタイミングが分からないらしく、トレミアが苦しそうに息を漏らしたので一旦唇を離したら、トレミアは赤く染まった頬ではあはあ息をしながら、ユアンを恥ずかしそうに見上げていた。



その顔に理性の糸が切れそうになるのを感じながら、ユアンは口を開いた。



「トレミア……大好きだよ。ーーー俺、トレミアとこの先に進みたい……。あのさ、そういうことのための宿があるんだって。そこに行かない……?」



恥ずかしいが、はっきり言ってみると、トレミアも顔を真っ赤にしながらも黙って頷いた。



ユアンは内心飛び上がらんばかりだったが、それを抑えて、落ち着いてみえるよう最大限努力した。

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