第7話 飛竜討伐
「まさか、狂乱状態の大型飛竜が王国に向かってくるとはな。報告によると、飛竜は傷を負って怒り狂った状態らしい。どこかの馬鹿が中途半端に手を出して、そいつを追って来たのかもしれん」
騎士団長のレックスが兵舎の会議室で、地図を確認しながら言う。
「進路は逸れそうにない。飛竜は人が好物だからな。すでに魔術師団の精鋭を王都南の見張り塔に配備してある。飛竜が射程距離に入れば魔術を行使する」
魔術師団長のカーギスはいつものように冷静な態度だ。
「ああ。騎士団の方も配備は済んでいる。やつを発見できたのが早かったのが、せめてもってところだな」
レックスは頷いて、部屋に控えている部隊長たちに向けて言った。
「よし。では最終確認だ。飛竜が射程範囲に入ったら、まず魔術で動きを封じ、翼に傷をつけて地に落とす。落ちたところで待機している騎士達が弩で飛竜が再び飛び上がらないよう地に固定し、攻撃を行う。その際には魔術師は騎士を援護。万一想定外の動きがあれば、一時撤退すること」
「はっ!!」
カーギスが、部隊長たちに伝令を指示すると、皆即座に部屋を出ていった。
王国南の見張り塔には松明が焚かれ、ユアンとフィンリーは、他の魔術師達と共に地上の騎士団の後ろに待機していた。
塔の上で飛竜を落とす魔術を行使する面々は、勤続年数も長く経験豊かな者たちだ。
入団してあまり年数の経っていないユアンやフィンリーたちは、騎士たちの後方に控えながら、騎士団の攻撃が始まったら支援魔術を放ち、援護することになっている。
前衛の騎士団の面々のなかに、ユアンはトレミアの姿を見つけた。
トレミアはユアンよりも半年遅い入団だ。だがギフト持ちで能力も高いため、団長のレックスの側に控えている。
近くにはあのマイロもいた。
苦いものを感じるが、今はそんなことを考えている暇はない。
ユアンは油断なく、警戒を怠らなかった。
その時、
ピーーーーーー!
と警笛が吹き鳴らされる。
上空に巨大な質量の生き物の気配が現れると同時に風が巻き起こり、暗闇に魔術の光が炸裂した。
「ギャオオオオウ!」
松明の光に、ゴツゴツした硬質な皮膚に、鋭く尖った牙が並んだ巨大な口、蝙蝠に似た被膜の翼、長く筋肉質な尾を持つ、飛竜が照らし出される。
動きを縛るバインドの魔術は効かなかった。
すぐに、風を鋭く真空にして飛ばす魔術に切り替えられたが、飛竜の体表よりは翼の被膜の方が薄いと云えど、飛竜の動きが激しく、なかなか被膜を破ることが出来ずにいた。
飛竜は猛り狂っており、魔術を逃れて空へ舞い上がったかと思えば、急降下して塔の魔術師を食らおうと襲ってくる。
あらかじめ塔の上部に配置されていた何人かの騎士が、合間に火矢を射かけるが、なかなか決定的なダメージが入らない。
飛竜も警戒を強めたのか、上空に舞い上がりぐるぐると旋回していた。
「……面倒だな」
カーギスが眉を顰めて言うと、部隊長を振り返って指示を出す。
「雷撃の魔術を使ってヤツの動きを止める。その隙に一斉に翼を狙うように皆に伝えろ。伝達が終わったら警笛を鳴らせ」
「ハッ!」
カーギスは意識を集中し詠唱を始めた。レベル7の雷撃の魔術だ。詠唱時間とかなりの魔力を必要とするため、隙をカバーしてくれる者がいる時にしか使えないが、その分威力は大きい。
大気が震え、この場にいる皆の肌を、ぴりぴりとした刺激が這う。
ピーーーと警笛が聴こえ、カーギスは詠唱の終わりを口にする。
「――――ヨルズの鉄槌よ標的を撃ち抜け―――ライトニング」
暗闇に眩い光が爆発し、身体を震わせる轟音が轟いた。
上空を飛んでいた飛竜を紫の雷が打ち抜くと、飛竜は身体を硬直させて落ちてきた。
すかさず風の魔術が降り注ぎ、翼をボロボロにする。
それでも飛竜の生命は尽きていなかった。硬直から解けて翼を羽ばたかせようとするが、高度は上がらず逆にどんどん落ちて行く。
「撃て!」
地上の弩の射程範囲に入ったところで、レックスの号令で四方から一斉にワイヤー付きの弩が発射され、強力な矢じりが飛竜の肉に食い込むや、ワイヤーが巻き取られ、飛竜を地に這わせた。
「グルルアアア!」
飛竜は威嚇の声を上げながら暴れるが、起き上がれずにいる。
その間に騎士たちが飛竜の急所に剣を突き刺し、息の根を止めようとするが、飛竜も死に物狂いでもがく。
一つ一つが大剣ほどもある脚の爪や丸太のような尻尾が襲い掛かってくるため、おいそれと近づけなかった。
その様子を後方のユアンたち魔術師は、神経を研ぎ澄ましながら見守っていた。
すでに、騎士たちには『プロテクション』や『剛腕』の魔術を行使し、出来る限りの支援を行っている。
塔の上で戦った魔術師たちは先ほどの魔術でかなり魔力を消費し、マジックポーションは飲んでいるが、回復するまで待機するしかない。
自分たちはまだ魔力に余裕はあるが、戦況を見極めて臨機応変に対応しなければならない。
ユアンは地上で戦闘が始まってから、ずっとトレミアを目で追っていたが、その動きを見て訝しんだ。
「おかしい……どうしたんだ、トレミア?」
トレミアの動きはいつもに比べてまったく精彩を欠いていた。何度かヒヤっとする場面もあり、ユアンは気が気ではなかった。
その危うさにはもちろんレックスも気付いたらしく、レックスがトレミアを後ろに下がらせようとした時、飛竜を地面に張り付けていたワイヤーがびぃん、と音を立てて千切れた。
「下がれッ!」
レックスの大声で騎士団員たちが下がっていくなか、ワンテンポ遅れたトレミアに、他のワイヤーも引きちぎりながら立ち上がった飛竜が噛みつこうとするのが見えた瞬間、ユアンの血は一気に逆流し、走り出していた。
***********
あとがき:バトル描写、難しい(´ ω` )
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます