第120話 落ちていく大賢者
グラトリア家に帰ったわたし達は、リーナさん達を交えて、今後についての話し合いを重ねました。
その過程で必要な書類の提出など、色々とやる事が出来てしまったのでロフロス村へ帰るのが延期となり、両親と会えない日々が続くリベアは少し寂しそうにしていました。
でもその分、わたしに甘えてくる回数が増えたので、ちょっぴり嬉しかったりもします。
「ん、んぅ……」
今もこうやって、わたしの腕の中で眠る弟子は、ちょっと苦しそうにして身を捩らせます。そんな彼女を抱きしめながら、わたしはそっと微笑みました。
――夜中、まだ起きて書類の整理をしていたわたしの元にやってきた彼女は「今日、一緒に寝ませんか?」と、か細い声で言いました。
最初は断ろうと思ったのですが、彼女の目を見てすぐに考えを改めたわたしは即座にベッドの準備をして、彼女と二人、横になりました。
するとどうでしょう。彼女からわたしに抱きついてきたではありませんか! その時の事を思い出せば、今でも胸がドキドキしてしまいます。
(……村にいた頃は、家が近かったので一日に一度は会えていましたからね)
明日は久しぶりの帰省となります。向こうに着くまで数日かかりますが、もうすぐ両親に会えると思うと、余計寂しくなってしまったのかもしれません。
(この子の拠り所は、わたしが来る前までは両親だけだったみたいですからね)
そういうわたしも、数ヶ月村から離れていただけなのに、なんだか懐かしい気持ちを憶えていました。
わたしにとってロフロス村は、本当の故郷のような場所になりつつあるのかもしれません。まあわたし、自分がどこで生まれたかとか知らないんですけど。
「今日まで、大変でしたねー……わたしも明日に備えて寝ないと……ですね」
もう寝てしまった弟子に「おやすみ」と告げ、その額に気付かれぬようキスをします。
これはおまじないです。いい夢を見れるようにという。
決して下心ありありの魔法使いが考えた言い訳とかじゃありませんからね?
わたしは弟子の事を想う、聡明で素晴らしい師匠なんですから。えっへん!…………自分で言っていて悲しくなってきました。
まぁ、それはさておき。
「ふわぁ〜……わたしも眠くなってきちゃいました……明日はまた忙しい日になるんでしょうし、しっかり休まないといけませんよね〜」
頭の中で、恋人でもない弟子へのキスを正当化するには……という事ばかり考えていたら瞼が重くなってきました。
リベアの体温が心地よく、思考が鈍っていきます。
(そういえば……シャルティアもわたしが眠れない時、こうやって一緒に寝てくれて、優しく頭を撫でてくれたり、記憶にはないけど額にキスもしてくれたと思います……。でしたらなんの問題もないですね。仮に問題があってもあの人のせいですから、ふぁ〜)
起きたら誰かがそばに居る。それはとても幸せな事で、好きな人だったら尚更幸せです。だからきっと、明日も良い日になると思います。
“おやすみなさい”
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