第75話 姫様の計略
この場にいる全員に、わたしの出自(秘密?)を明らかにした後、話題は自然とアリス様の物へと変わっていきました。
ちなみにわたしの出自に対する皆さんの反応は様々でしたが、一応全員好意的な反応でした。
特に姫様なんかは『うーん、なんとかこの人を手駒に出来ないかなぁ……そしたら政権ぶんどって、勇者く、クロなんとかを国から追い出してお姉様と結婚できるように法を改正するのに』という感じに、なにやら思案してましたし(王族の問題に巻き込まれるなんて絶対に嫌だ!)。
リベアはというと、『うーん、この超優良物件なうちの師匠をどうやったら手籠め、もとい堕とす事ができますかねぇ……えへへ』なんてふしだらな妄想にふけていたので魔法で軽くお仕置きしてやりました。
フィアとソフィーはまともな反応でした。
「ティルラ様も幼少期から大変な目に遭っていたのですね。フィアも口減らしで村を追い出されて以降、シャルティア様に仕事を斡旋させてもらえるまでは一人で生活していましたから孤独の辛さはよく分かります」
目を閉じ、胸に手を置いたフィアは一呼吸置いた後、彼女は笑顔を見せました。
――だから今の生活にはとても満足しているんです。
わたしとソフィーの方を見てそう言いました。幸せそうでなによりです。
「あなたとシャルティア様って、出会った時からそんな関係だったのね……まあでも今の話を聞いて、二人が互いの事をどう思ってたのかはよく分かったわ。それにしても不器用ね、あの人は。分かってた事だけど。私があなたを拾った時だって、最初から素直に言ってればそこまで拗れなかったでしょうに」
「仕方ありません。あの人はそういう人だったんですから……まぁそういう不器用だけど本当はすごく優しい所が、わたしの好感度をちょっとだけ上げてたわけですけど」
わたしの言葉はドンドン尻すぼみになっていって、最後まで彼女に声が届いたのか自信がありません。
あ、彼女というのは天に召された師匠であって、ソフィーじゃありませんよ? 自分から親友にそんな恥ずかしい事を進んで言うわけがないじゃないですか? 馬鹿なんですか? ネタにされてからかわれてしまうだけですよ。
「んんっ? なに、今何か言った? よく聞こえなかったわ。もう一度言って」
ほら、こいつ絶対聞こえてて言ってやがりますね。やっぱり嫌いです。家から追い出してやりましょうかね?
「いえ、なんでも。というかソフィーは師匠が隠れてお酒を呑んでいた事を知っていたなら止めるか、わたしに知らせるかして欲しかったですよ。医者から控えるように言われていたのはソフィーも知っていた筈ですよね?」
ぐいぐいと壁際まで彼女を追い立てると、ソフィーはばつが悪そうに顔を背けます。
「ええ、知ってはいたけど本人があまりにも元気そうにしていたから……あと口止め料が良かった」
……さては今のが本音だな?
◇◇◇
何やかんやあって、姫様の興味はわたし(と師匠)が造った魔族対策の
これはあの噴水型魔道具を造る過程で、どうせなら国から命令された大賢者としての研究も終わらせておくか〜的な軽いノリで、元々の巨大な石碑のような設計から極限まで小型化した、携帯型と、小さな本棚くらいの大きさの物を完成品として作り上げていました。
これは魔族が襲ってきた際、自動的に結界を張り魔族から身を守ることが出来る代物です。まあ、小さい分、耐久力も大きいのに比べれば下がっちゃいますが。
ちなみに魔導機器と魔道具の定義の違いは、人の手によって動いているのかいないのかの違いです。
動かすために人の手を必要とし続けるのが魔道具。
一度起動すれば、後は人の手を必要とせず、寿命が尽きるまで動き続けるのが魔導機器です。
あとはこれをどう市場で捌こうか、ソフィーと悪巧み中でした。やり方を間違えれば、今のご時世売れませんからね。
本当はアリス様にも秘密にしておくつもりだったんですが、自分の発明が褒められてちょっと調子に乗っちゃいました。てへっ。
「ふぅん。それなら私にいい考えがあります」
「ほうほう。それは是非聞きたいですね。ね、ソフィー?」
「ええ、そうね。アリスさんの知恵を貸して欲しいわ」
「こほん。それじゃあここは一つ取引といきましょう。ティルラさんは私の義理の両親を見つける。又は有力な情報を手に入れる。その見返りに私は貴方の発明した魔道具をお父様に紹介する。どう? 悪い話じゃないでしょ? ソフィーさんは情報通だし、どうせ量産して売るつもりだったんだろうし。特殊な香りつき、機能付きの
そういえばすっかり忘れていました。この人がこの村に来たのは、自分の義理の両親に会うためです。そしてアリス様が出した条件は中々のもの……。
「おおっ、アリスちゃん。さすが王族って感じでカッコいい!!」
「ふふん。リベアちゃん、これが全ての国民の上に立つ王族としての風格よッ!」
腰に手を当て不敵な笑みを浮かべるアリス様。
この方は一体わたし達のどこまでを知っている、いや調べてきているのでしょう?
まだ少女だからと侮ってはなりません。彼女は立派な王族です。
王族は独自の諜報機関を持っていると噂されています。目の前にいる少女もその全てを動かせるわけではないにしても、少なからず動かせる人員が居るはず。
そして彼らはその道のエリートです。素人であるわたし達の情報を集めることなど彼等にとっては容易いでしょう。
ふむ。しかしよくよく考えないでもこれは良い条件です。
わたし達にとっても、わたしと師匠の研究が無駄にならない点にしても。
アリス様の言葉を噛み砕くと、ようはソフィーにとって王家が推薦する魔道具を独占して販売できる権利を得ることが出来、市場に自分の土台を作るチャンスなのです。
それに国が援助してくくれば、材料費には困りません。なんなら設計書を渡せば誰でも作れるでしょう。わたし一人がやる場合に比べて効率は下がりますが。
(国王陛下の推薦を賜れば、きっと貴族達の間で飛ぶように売れる……それにもしかしたら民の安全を守るために国が買ってくれる可能性だって出てくるわね)
((この商談は絶対に乗るべきだ))
ソフィーとわたしは不敵に笑い、互いに拳を握ります。
二人の意見は出揃いました。
「姫さまー!! どこにいらっしゃいますかー? 近くにいるのは分かっていますよー!! 姫様の魔力反応がありますから」
その時、どこからか声が聞こえてきます。どうやら第二王女の脱走に城の者が気付き、ここまで近衛兵を派遣したようでした。
「予想よりちょっと早い。お父様も私がどこに向かったのか、最初から分かっていたのね」
そう言いつつも特に驚いてはいない様子。アリス様以外のみんなはわたし含めてビクビクなんですが。
「もう
この人はずるいですね。
たとえわたし達が白だとしても、姫様が叫べばわたし達の立場は悪くなります。一旦は拘束される可能性だってあります。
そうなれば村に迷惑をかける事になるのは間違いありません。
事を荒立てたくないのは同じ。つまり初めからわたし達に断る選択肢はなかったわけです。
わたし達はまんまと姫様の計略に嵌ってしまった訳です。
「ふう。分かりました。その条件を呑みます。期限は?」
「では3ヶ月後ということに。王都ではお姉様と勇者様の結婚を祝う祭が開かれますから。そこで成果報告を。私から貴方宛に招待状を送りますので」
「わたしに王宮まで来いという事ですか?」
「ふふ。面白い事を言うね。もちろん貴方が来るの。これはお願いに近い命令。姫である私が王都から用もなしに離れるわけにはいかないからね」
「今まさに来てるでしょうに……」
「じゃあそういう事だからよろしくねティルラさん。リベアちゃんもまったねー!」
「また会いましょう! アリスちゃん!!」
手をぶんぶん振った後、アリス様は玄関からではなく窓から出てきました。まあ、家を出る所を他人に見られても不味いですからね。
「はぁ、頼まれた仕事はやるしかありませんね。幸い時間はあります……三人とも明日から忙しくなりますよ」
「ええ何としてでも姫様の育ての親を見つけるわよ」
「フィアも微力ながら手伝わせて頂きます!」
「私は早速両親に、アリスちゃんの親の事を聞いてきますね!!」
とにもかくにも、わたし達で姫様の義両親を捜さなくてはいけなくなりましたとさ。
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