第72話 桁違いの魔力量

◇◆◇◆◇


「ソフィー。リベアから魔力を貰って、もう見えるようになっている筈です。時間で効果が切れちゃいますから、ちゃちゃっと見て下さい」

「あ、そうね。キス云々ですっかり忘れていたわ」


「元々の目的を忘れるほどキスに夢中だったんですか。なるほどなるほど」


「なっ、そんな事言ってないから!」


「はいはい。はよう見てください」


 やれやれと肩をすくめ、わたしはサッと手鏡を取り出し前髪の調整、ニコッと笑顔の練習をします。


「わぁ……」


 バッチリです。今日も可愛く決まってます! ほら弟子だってほっぺに手をあてながら、恍惚とした表情でこっちを見ています。……あれは発情してるだけですね。


「え、なにしてるのよ」


「いや、見られると思うと恥ずかしくなって。準備するからちょっとだけ待っててください」


「魔力を見るのに容姿は関係ないでしょう」


「わたしの気分の問題です。先に他の人の魔力を見てて下さい。やり方は相手をよく見て、目を凝らせばゆらーっと陽炎みたいにだんだん見えてきます」


「分かったわ。それにしても不思議なものね。今私の身体にリベアちゃんの魔力が混ざってるっていうのは。なんかあったかいわ」

「ふふっお嬢様。ずいぶん卑猥な言い方をなさいますね」

「フィア、あなたのその考え方の方が卑猥でしょうが……」


「お嬢様のえっち」

「あんたねぇー」


 なにやら変な会話が聞こえてきた気はしますが、聞かなかった事にしましょう。二人の仲が良いことは別に悪い事ではありませんから。


 ソフィーはまず最初にフィアを見て、『魔力のゆらめき? みたいなものは見えるけど殆どないに等しいわね』とコメント。次にリベアを見て『あ、すごい。リベアちゃんらしいっていうのかしら、とっても明るくて、弾けるようなオレンジ色の魔力ね』とコメント。


 ついでに頭を撫で撫でしやがりました。リベアも嬉しそうに目を細めちゃって、ああもう、かわいいなうちの弟子は。後でたっぷり可愛がってあげましょう。


 次にアリス様を見て、びくりと肩を震わせた後、『これが王族のオーラっていうの? 金色の光がアリスさん……アリス様の全身を包み込んでいて、なんだか神秘的な光景だわ』とコメント。


 魔法を扱える貴族の人からみれば、アリス様の凄さは一目瞭然でしょう。しかしソフィーのように魔力を視覚で感じ取れない人からしたら、か弱い女の子に映って見えます。


 貴族の中でも王族派に対し、反王族派が一定数存在するのはここら辺の事情が関係しているのでしょう。


「ふーん。他の人から見たら私はそんな感じに見えるんだ」


 アリス様が自分の身体を見て、ふんふんと頷きます。自分の魔力の揺らぎがどういう物なのかは、本人には見えないので分かりません。人に言われて、へぇーそうなんだ〜となるのです。


「最後はティルラだけど……――え、はっ?」


 最後にわたしの方を向いて目を凝らしたソフィーが、何度か目を擦り、信じられないといった顔を向けました。



『――魔力の揺らぎがのに、魔力がよく分からない私でも圧倒的な差、生命が脅かされるような感覚を覚えるんだけど……私がおかしいのかしら?』



 ソフィーが困惑するのも当然でしょう。わたしの場合、魔力のが高すぎるため、魔力をある程度抑えておかないと耐性のない人に悪影響が出てしまいかねません。


 子供の頃はそれが原因で師匠にも迷惑かけていましたし、ソフィーと満足に遊べるようになったのも魔力をコントロール出来る様になってからでした。


 アリス様はソフィーの発言に対し、フィルレスム第二王女として言葉を述べました。


「ソフィーさんは何もおかしくないよ。おかしいのはそこに立っている大賢者様の方だから。技術云々は置いといて、おそらく魔力量では前任の大賢者、シャルティア様を遥かに凌駕している。一応この国で今現在魔力量が最も高いとされているユリアから見ても、底が全く見えない気持ち悪さを感じるんだもん。魔法使い至上主義のオルドスが嫌悪するのも当然だね。オルドスクラスの魔法使いなら抑えてる状態でもティルラさんの魔力量を測れるけど、一般クラスの魔法使いじゃ、ティルラさんがどれだけ強いか分からないだろうね。あはは、シャルティア様やオルドスが言っていた通り、やっぱり化け物だよティルラさんは」


「比喩だと分かっていても、面と向かって化け物と言われると少し堪えますね。まあ幼い頃から劣等髪、不幸を呼ぶ魔族の髪色をしていた為に化け物呼ばわりされていた事がありましたから今更気にしませんけど。それでソフィー、何か言いたそうな顔してるけど?」

「ええ、あるわ……」


 幼馴染はごくりと生唾を飲んだ後、わたしとしっかり目を合わせて言いました。


「シャルティア様はあなたの出自に関して、赤子だったあなたをその辺で拾ってきたーなんて言っていたけれど、実際の所?」


 その確固たる意志の込められた碧色の瞳は、わたしに逃げる事を許しませんでした。

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