第67話 魔力譲渡の方法
そうしてユリア様もとい、アリス様は自分が拾われた村に向けて出発し、その両親が住んでいた家のあるこのロフロス村へとやってきたとの事でした。
「ほうほう。随分とまあ強引に抜け出して来たもんですね」
「それ、師匠が言える事ではないと思います。魔法統率協会や賊に対して、力で解決しようとしてたじゃないですか」
「だってその方が早いですし」
魔法統率協会の人達に限って言えば、私、話し合いで済ませようとしましたよ?
途中、キレそうになりましたけど。あれは向こうが悪かったとしか言いようがありません。よって私は悪くない。
むすっと腕を組んだ私に対し、ソフィーがやれやれと言った様子でユリア様に続きを促します。
「――この村に着いてから身分を隠し、色々と聞き込み調査をした結果、私の育ての親である夫婦が住んでた家というのが……」
「この家だったんですかー……」
そう、私が村長さんから貰った空き家というのがユリア様を育てた夫婦が元々住んでいた家だったのです。
「ああ、だからリベアのお母様がご夫妻の話を良く知っていたんですね。納得です」
アルシュン家はうちとお隣ですから、きっと近所付き合いも良好だったんでしょう。
それに二階建て、地下室ありのこの家の持ち主だったご夫婦は結構なお金持ちだったのかもしれません。
「えっと、アリス……様?」
「ここではただのアリス。だからアリスでいいわ。ソフィー・グラトリアさん」
おずおずといった感じで、ソフィーが姫様の名を呼びます。ユリア様は私たちに、ここにいる間は『アリス』と呼ぶようにとおっしゃられました。
「じゃあアリスさんで。アリスさんはここまでの道中何もなかったの? 言い方は変だけど、私とティルラが王都に向かった時は途中で野盗に襲われてたし、魔獣や魔物の目撃例も少なからずあるわ。だからそんなに治安がよいとは言い切れないんだけど……」
「私はなんともないよ。ほら、この通りピンピンしてるもの」
その場でくるっと半回転し、丈短めのスカートと桃色の髪と髪の色とよく合ったピンクの羽織物が一緒になってふわっと浮きます。
小柄な体型の姫様がすると、この上なく可愛いですね。女の子らしいというべきでしょうか。
「ソフィー。魔法を使える人達や魔力を本能的に計れる魔物からすれば姫様は怪物ですよ。余程の理由がなければ近付こうとはしない筈です。まあ私たちを襲ったような野盗達からすれば、姫様は格好の獲物に映るのでしょうが、あの逃げてしまった薄緑色の髪をした魔法使いの女の子も私をみて怯えていたでしょう。それと同じです」
「ふーん……魔法使い同士はそういうのが分かるのね。へぇーそう、魔法の使えない私には縁のない話ね」
不機嫌そうな顔をして、ソフィーはぷいっとそっぽを向いてしまいました。ありゃりゃ。
「勘違いしないで下さい。ソフィーにだってそのくらいは訓練すれば出来るようになります。歴戦の戦士なんかは対峙しただけで相手の力量が分かると言いますし、国の騎士の鍛錬メニューにも魔力を感知する練習が含まれていますから」
「……あなたからみて、アリスさんはどのくらい強いの?」
ツンデレソフィーちゃんを宥めていると、彼女は興味深そうにそう尋ねてきました。
「うーん。そうですねぇー……」
決していやらしい意味ではなく、私は上から下へとアリス様のお身体に視線を這わせます。
……ちっちゃい。私の勝ちです。どこがとは言いませんが。
「……ティルラさん? なんか私のこと変な目でみてない?」
そんな事を思っていたら、姫様に勘付かれそうになってしまったので「ひゃい! 決して小さいなどとは思っていません!」と言って誤魔化しました。彼女は「ならいいけど……」と若干疑いの眼差しを私に向けながら、傍にいたリベアを愛おしく抱き寄せました。
おい、コラ! 人の弟子に手を出してんじゃねぇーですよ。
「リベア、私の所に来ない? この新任の大賢者様と一緒にいると将来碌な事にならない気がするの」
「えへへ。アリスちゃんの誘いはとっても嬉しいですけど、ごめんなさい。どんなに辛い事があっても、私は師匠の傍にいるって決めてるので」
「そう。リベアがそれでいいならいいけど、でも嫌なことがあったらすぐ私の事を頼っていいからね」
「はい! ありがとうございますアリスちゃん!」
この子達、いつの間にこんなに距離を縮めたんでしょう? あ、リベアクッキーですか。そうですか。
「それで? どうなのよ?」
「え、あ、はい。流石は王族だなーって感じですね」
「は? 全然分からないんだけど。私が今すぐ見る方法とかないの?」
「えっと一応ありますよ。魔法使いの魔力の一部を一時的に譲渡する事で、普段魔法を使わない人でも魔力を感じる事が出来ます」
「手軽な方法があるじゃない。それなのになんでそんな難しそうな顔してるのよ」
「えっとそれは……」
言ったら絶対嫌な顔されます。というか私が言ったら確実に終わる。
「ん、ティルラさんが言いにくそうにしているから、それは私から説明するね」
下を向いてゴニョゴニョしていた私に代わって、アリス様がご説明して下さいました。助かります。
「ソフィーさん。魔力というのはその人自身の物であり、それは血や肉と変わりません。魔力を譲渡するという事はその人の一部が自分の中に入るという事。それには相性というものがあり、相性が良い人がいれば反対に相性が悪い人もいます。それは試してみないと分かりません」
ソフィーもフィアもまだちょっとよく分からないといった顔でしたので、続けて私が補足します。
「えっと要約すると、ソフィーの中に私の一部が入るって事になるんですけど……平気?」
「そ、それくらいなら大丈夫よ。別にあなたの事が嫌いなわけではないんだから」
「それは良かったです。では魔力の譲渡方法は互いの――」
耳がちょっと赤くなったものの、なんとか平常心を保ち、魔力譲渡に前向きなようでしたので私がその方法を遠回しに伝えようとしました。ですが……。
「――接吻、ですよね師匠!! 大人の口付けってやつです!! 本に書いてありました!! でも師匠の初めては私のものです。いくらソフィーさんでもそこは譲れません。なので練習としてひとまず私とやりま――」
「リベアっ、直球過ぎるのはよくありません」
「そうです。お嬢様には刺激が強過ぎます!」
一人で先走っちゃった子がいました。私の弟子です。あとフィアも中々言っちゃいますね。
「え、は? せ、接吻……。それってつまり……」
私は静かに頷きます。
「はい。私とソフィーがキスをするということです」
「―キっ、!?」
「師匠っ!!」
言い切った。言い切っちゃいました。弟子の方を見るのが怖い!
「私と、ティルラが、その、き、キスを……うそでしょ……へにゃ――」
今度こそソフィーの顔は真っ赤っかになり、熱々になったお顔からぷしゅっーと力が抜けたかと思うと、彼女は頭を抑えてその場にへたり込んでしまいました。
「ソフィーっ!」
「お嬢様ー!!」
「ソフィーさん!?」
わたし達は急いで駆け寄り、その華奢な身体を支えてあげるのでした。
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