第117話 …………でも、一つだけ

「…………」


「…………」


 気まずい空気が、僕たちの間を漂っています。お義母さんの言葉、そして、表情。それは、死神さんが元気ではないということをありありと表していました。


「……お義母さん、お願いがあります」


「……何かしら?」


「僕を……死神世界に連れていってください!」


 僕の叫びに、お義母さんの目が大きく見開かれました。


「……死神世界に行って、どうするのかしら?」


「死神さんに会うんです!」


「……それで?」


「会って、それから……それから……」


「…………」


「……僕に何ができるのかはわかりませんけど。とにかく、会いたいんです。死神さんに」


 死神さんの元気がない。それを知って、何もしないなんて選択肢を僕は持ち合わせていないのです。


「…………」


「お願いします! 死神さんに会うためなら、僕はどんなことでもします!」


 僕は、お義母さんに向かって深々と頭を下げました。


 しんと静まり返る室内。頭を下げ続けている僕の目に、お義母さんの顔は映っていません。今、お義母さんは、どんな表情をしているのでしょうか。何を考えているのでしょうか。僕は、ただ黙って、お義母さんの言葉を待っていました。


「……今、死神世界にあなたを連れていくことはできないわ。死神世界の決まりで、生きた人間を許可なしに連れてきちゃいけないってことになってるの。ちゃんと手続きをすれば大丈夫だけど、許可が下りるのはいつになるか……」


「そんな……」


「…………でも、一つだけ、今すぐ死神世界に行ける方法があるわ」


 僕の心臓がドクンと大きく跳ねるのが分かりました。頭を勢いよく上げると、そこには、ほんの少しだけ口角を上げて僕を見つめるお義母さん。


「何ですか!? 教えてください!?」







「あなたが死ぬことよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る