第86話 ……将棋、楽しかったですか?
「むう……中盤のミスが……あそこは別の手を……じゃあ、こっちなら……」
死神さんは、盤上をじっと見つめながら、腕組みをしています。おそらく、今、死神さんの頭の中には、中盤でミスをした時の局面が浮かんでいるに違いありません。
そんな死神さんに気付かれないように、僕は小さく深呼吸をしました。トクトクと速度を増す心臓の鼓動。「大丈夫」と自分に言い聞かせ、乾いた唇を開きます。
「……死神さん」
「おろ? 君、いつになく真剣な顔だね。どうしたの?」
「……将棋、楽しかったですか?」
「…………へ?」
僕の言葉に、目を丸くする死神さん。まさか、いきなりそんなことを聞かれるなんて思ってもみなかったのでしょう。
僕は、どうしても知りたかったのです。死神さんが、僕との将棋を本当に楽しんでくれているのかどうかを。負けた将棋ですら、楽しかったと思ってくれているのかどうかを。
もし、僕の質問に死神さんが「はい」と言ってくれたのなら、僕はこれからも死神さんの大切な人でいられる、そんな気がするのです。でも、「いいえ」なら……。
「…………」
「…………」
驚きの表情で僕を見つめ続ける死神さん。そんな死神さんからの返答を、僕はただ黙って待っていました。
「…………」
「……えっと……君……」
死神さんは、首を傾げながらこう答えました。
「どうしてそんな当然のこと聞くの?」
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