第62話 お姉さん、元気そうね

 ピンポーン。


 夕方。目を覚ました死神さんと話をしていると、突然、インターフォンが鳴り響きました。


「珍しいね。お客さんなんて」


「そうですね。ちょっと行ってきます」


 僕は、足早に玄関扉の前へ行き、ドアスコープから外を見ました。目に入った光景に、思わず「……え」と漏れる声。


「先輩!?」


 ドアスコープから顔を離し、扉を開けます。そこにいたのは、ビニール袋を手に提げた先輩。


「あれ? 元気そうじゃない」


「先輩、どうしてここに?」


「どうしてって……。決まってるでしょ、あんたのお見舞いよ」


 そう言って、ビニール袋を前に突き出す先輩。受け取って中を見ると、スポーツドリンクやゼリー、リンゴなどが入っていました。


「僕のお見舞い……僕の……あ」


 一瞬、先輩が何を言っているのか理解できなかった僕。少しの間をおいてその意味に思い至りました。今日、僕が学校に行かなかったのは、風邪をひいた死神さんを看病するためです。ですが、学校には、僕が風邪をひいてしまったと伝えているのです。


 僕は、急いで先輩に事情を説明しました。


「そうだったのね……」


「そういえば、先輩は、どうやって僕が風邪だって知ったんですか?」


「ん? ああ。今日、あんたとお昼一緒に食べようと思って教室に行ったんだけどね。その時に、クラスの子から、あんたが風邪で休んでるって言われたのよ」


 先輩とは、時たま一緒にお昼ご飯を食べています。先輩いわく、「部員同士のコミュニケーションよ」だそうです。


「なるほど……。あ、先輩。しに……姉さんに会っていきますよね。中にどうぞ」


「ありがとう。お邪魔するわね」


 僕は、先輩と一緒に部屋の中へ入りました。


「先輩ちゃんとお昼……ねえ。…………むう」


 ベッドの上で僕たちを迎えた死神さん。その唇は尖り、ジトリとした目線を僕に送っています。おそらく、玄関先での僕と先輩との会話を聞いていたのでしょう。


「お姉さん、元気そうね」


 死神さんの様子を見て、先輩は、クックックと声を漏らしながら笑っていました。

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