あの夏の日に……私たちは。

縛那

第1話 8月17日……(真央)

「んっ……」


 ジリリという目覚ましの音で目が覚める。


 止めるのが面倒で、そのまま払いのける。


 地面に振り落としてもまだ、変わらずにやかましい音を鳴り響かせている。


「8時……」


 薄目を開け、時計の時間を確認する。


 まだ眠たい……。


 いや、本当は眠気なんてなかった……。


 ただ、現実から目を背けたくて……。


 寒くもないのに、薄毛布を頭から被る。


 目を瞑り、再び夢の中へと……。


 目覚ましに重なるように、スマフォのアラームが鳴り響く。


 昔、大好きだったバンドの曲……。


 あの頃……私たちは……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよ」

「おはよっ! 真央っち!!」

「もはほ〜」

「……佐奈……食べてからしゃべる」


 私が部室に入り、挨拶をすれば、3人がいつも通り挨拶を返してくれる。


 過ごし方は、それぞれ違うが、同じ部の部員ということは変わらない。


 一番、元気がよく、おしゃれなのが美咲。私たちの中で唯一派手に髪を染め、携帯もデコっている。所謂、ギャル。


 幸せそうに笑っているのが佐奈。ちっちゃくて可愛い私たちのマスコット的存在。小動物みたいに今も大好きなお菓子を口いっぱいに頬張っている。可愛い。


 一番、物静かなのが静葉。本を読むのが好きで、今も一人!何かを読んでる。私たちの中で一番頭の良い子。メガネのかっこいいみんなのお母さん。


「……真央? さっきから。誰に話してるの?」

「気にしないで静葉。佐奈、私もお菓子もらっていい?」

「いいよ〜」


 机に広がっているお菓子たちから、ポテチを一枚口へと運ぶ。


 コンソメの旨味が口に入れた瞬間すぐに広がる。


「真央っち〜奈々っちは?」

「わかんない。まーた何か考えてーー」

「バンド、やろっ!!」


 部室の扉を勢いよく開け、瞳をキラキラさせながら、噂の人物が姿を現す。


 奈々は、いつも何か唐突に、思いついては、私たちを巻き込んでいく。嵐みたいな子。いつもどこか楽しそうに笑っていて、それがすごく良い笑顔で、私たちも釣られていつも笑顔になる。


 まぁ、本人にはそのことは内緒だけど。


「バンド?」

「……また……唐突ね……。」

「良いじゃん良いじゃん!! やろうよー」

「佐奈もいいよ〜」

「じゃあ…あたしがギター、静葉がキーボードで、佐奈はドラム、美咲がベースで……真央、ボーカルね」


 ニッと何かを含ませた笑いを私に向ける。


「えっ? ちょっと! 奈々がボーカルじゃないの? なっ、なんで私?」

「真央が1番、歌、上手いから」

「そんなことーー」

「たしかに! 真央っち歌、激ウマだもんね!!」

「真央ちゃんの歌、佐奈好きー。」

「……まぁ……真央が適任でしょ……」

「えっ!? 満場一致!?」

「決まり、リーダーはあたし、でも、バンドの中心は任せたよ、真央」


 そう言って、私に笑いかけた奈々のあの眩しい笑顔が私は、今も忘れられない。

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