第33話 キレてない?
ルークの変幻自在の足捌きによる高速の移動攻撃。並の冒険者や剣士ならば誰も勝てないだろう。
だが、バッケンはその動きに対応し、負けず劣らずの高速の足捌きで対抗してみせた。
バッケン「やはり間違いない、ルークよ、お前の剣は私と同じ、レインクラッド流だな!」
ルーク「そんなの知らないよ、森を走り回って魔物と戦うための技だ」
バッケン「まだ惚けるのか?! お前に剣を教えた師匠は、レインクラッド流を修めた者だろう?!」
ルーク 「知らないってば。……でも、オジサンも速いね、この動きについてこれるなんて。魔物相手でこれほど苦戦したことはないよ。でも、そろそろ本気出していくよ」
バッケン 「強がりを言うな、これ以上の本気など……
…何!?」
さらにルークの速度が上がり、バッケンが驚く。
正直、バッケンのフットワークのスピードはもう限界に近かった。だが、ルークがさらにスピードアップしたため、対応するために無理をして速度を上げていく。こうなると、もはや卑怯・老獪な戦術など使う余裕はない。
だが、やがてルークの動きにバッケンが遅れ始め、
バッケン「バカな……これは……!!」
さらにバッケンの驚愕は続く。単に速度が上がっただけではない、バッケンの知らない足捌きと剣技をルークが繰り出し始めたのである。
ルークの猛攻。知らない攻撃が読めず後手後手にまわるしかないバッケン。
そして……ついにバッケンが尻餅をついた。
ルークに斬り飛ばされたバッケンの片腕が宙を飛んでいた…。
バッケン「ぐぉぉぉっ……。こんな、馬鹿な……」
冒険者A「まさか! バッケンの旦那が負けるなんて……!」
バッケンの腕からは大量の血が流れている。手当せずに放っておけば出血多量でそのうち死ぬだろう。
だがそれを見たルークは、徐に近づいて手を翳すと【ドライ】を掛け出血を止めた。切断面の表面部分だけに強力な【ドライ】を掛ける事で、血を固めたのだ。
バッカス「くっ、殺せ!」
ルーク「もう勝負はついた。無駄に人を殺したくないよ…」
バッカス「甘いな! うっ」
バッカスが痛みに呻いた。動くと【ドライ】で強制的にカサブタにされた傷の断面に痛みが走る。傷口から血が少し吹き出ていたが、大部分はカサブタになって止まっているので、残りの出血もすぐにとまるだろう。
ルーク「痛い? ごめんね。でも、オジサンが悪いんだよ……」
バッケン「……悪い事をしているのは俺の方だろう? お前が気にする事じゃない。それより……
お前の剣技は、荒削りだったが確かにレインクラッド流だった。だが、最期のはなんだ? あんな技は俺は知らない。まさか、俺の教わっていない奥技がまだあって、それをお前は教わったというのか?」
ルーク「そのレインなんとか流とか知らないし。奥技とか何の事だか分からないってば。確かに、ある人に森の中の走り方や剣を使って魔物を倒す方法は教わったけど。
最後のは、教わった技を自分で色々アレンジしたり工夫したりして改良していっただけだよ」
バッケン「……ははっ、そうか、自分で工夫して改良したか……どうりで俺が知らん技ばかりだったわけだ……」
ルーク「ポーリン、大丈夫かい?」
ルークは縛られて捕らえられていたポーリンのほうに近づこうとしたが、冒険者が叫んだ。
冒険者A「近づくな!」
冒険者はポーリンの首に剣をつきつけていた。
バッケン「ゴリキン、もういい、解放してやれ。俺の負けだ」
ゴリキン「そうは行かねぇ、これまでずっとバッケンの旦那に従ってきたが、旦那も片腕失くして冒険者家業もおしまいだろう? これからは好き勝手させてもらうぜ!」
ルーク「何をする気?」
ゴリキン「ポーリン…前から好きだったんだ。ずっと高嶺の花だった憧れの
その発言にポーリンも周りの冒険者も呆れ顔になったのだが、ゴリキンは気付いていない様子である。
ゴリキンは押さえつけている手を、ポーリンの胸に掛かるような位置にわざとズラした。
ポーリン「ちょっと! さわらな……!」
叫ぼうとしたが剣を首に強く押し付けられ黙るしかないポーリン。少し首の皮が切れ血が流れている。
ポーリン「ちょっと……キレてない? 首キレてない?」
冒険者達「キレてるね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます