第31話 卑怯者! ルーク逃げて!
ポーリンとバッケンの勝負はバッケンの圧勝に終わった。
ポーリンは倒れ、剣を持つ腕を踏みつけられ剣を喉に突きつけられている。
ポーリン「くっ卑怯よ、アンタの戦い方……正々堂々戦いなさいよ」
最初は普通に戦っていたバッケンだったが、戦場で培われた戦法であろうか、バッケンは徐々に変則的な戦い方を始めたのである。その戦い方は、土を足で蹴り上げる、投擲用の隠し武器を投げるなど、正統派剣術とは言えない泥臭い戦い方でもあった。
ポーリンはあまり経験した事のない変則的な攻撃に翻弄され、今ひとつ実力を出しきれず。移動先に撒菱を撒かれ、それは咄嗟にジャンプして躱したのだが、その着地点を狙われ腹に蹴りを食らい、転がったところを押さえつけられてしまったのだ。
バッケン「卑怯か……戦争で敵国の兵と殺し合ってる時、そんな甘い事など言ってられんさ。言ったろ? ギルドの訓練場か、魔物や動物相手にしか戦ったことのない冒険者の剣法など、
卑怯とは言ったものの、ポーリンも戦ってみてすぐにバッケンの地力を感じ取っていた。最初は一見互角に斬り結んでいるように見えたが、バッケンは全然本気を出していなかったのだ。お互い様子見で、ポーリンもまだ100%の力は出していない状態ではあったのだが……果たして、お互いに本気の力を出して戦ったら…? ポーリンも、勝てるとはいい切れない底知れない力をバッケンから感じとっていた。
バッケンも、力を抑えていたのは決してポーリンを舐めていたわけではない。相手がどれだけの
バッケン「動くな!」
思わずルークが助けに走り出そうとするが、切っ先をポーリンの喉に突きつけながらバッケンが牽制した。
バッケン「おい!」
バッケンの合図で周囲の冒険者が駆け寄りポーリンを縛り上げる。
ポーリン「ちょっ、どこ触ってるのよいやらしい!!」
バッケン「おい、今はまだ手荒には扱うな。どうしても吐かなかったら、その時は仕方がないが、それまでは待て」
ポーリンの身体を見ながらいやらしい目つきをしている冒険者も居たのだが、バッケンの言葉と睨みで大人しくなった。
ルークのほうに向き直るバッケン。
バッケン「さて、どうする? 一人で逃げてもいいのだぞ? ポーリンに隠れ家の場所を吐かせるだけだ」
ポーリン「ルーク、私の事は構わず逃げて!」
ルーク「ポーリンを置いては逃げられるわけないだろ……」
バッケン「では、話して、いや、案内してくれるかな? お前の師匠のところへ」
ルーク「……それも断る」
バッケン「わがままを言うな、ならばどうする?」
ルーク「オジサン……あんたがやってる事は立派な犯罪だよね? 殺されても文句言えないくらいの?」
バッケン「正直、なりふり構わんところまで追い詰められているのだ。悪いことは言わない、大人しく言うことをきいてくれ、できれば俺だって手荒な真似はしたくないのだ」
だが、ルークは剣に手を掛けた。
バッケン「やめておけ、多少は腕に自信があるのかも知れんが、ポーリンも敵わなかったのを今見ていただろう? というかお前……逃げてばかりだが、本当は剣など使えないんじゃないのか?」
ルーク「…確かに、僕は人を斬ったことはない。人間相手に剣を振るった事はないよ。爺ちゃんが人は斬るな殺すなって言ってたから我慢してきた……
けど、オッサンしつこいし、関係ない人間巻き込むし、女の子に乱暴するし、いい加減……キレた。
ポーリンを離せ、さもないと、もう手加減はしない。爺ちゃんだってきっと許してくれる」
バッケン「仕方がない、痛い目を見せて考え直してもらうしかないか」
バッケンは剣を構えた。
ルークは柄を握り鯉口は切っているが、剣を抜かずにそのままバッケンに向かって走り出す。
真正面から突っ込むルーク。
バッケン「正面と見せかけて…右か!」
一瞬、バッケンはルークが目前で横に飛び、右から攻撃を仕掛けてくる……ように見えたのだが、実際にはルークは横には移動せずに真正面から攻撃をしかけていた。
高度なフェイントで横に翔ぶかのように相手に錯覚させてしまう技「ファントムフリック」である。……ルークは正式な技の名前など知らないのだが。ルークはこの技を突進してくる猪型や牛型の魔物を躱すのにしか使った事がないが、人間にも効果があるのは冒険者から逃げる時に実証済みである。
間合いに入りながら、ルークの鞘から高速で撃ち出された刀がそのまま水平に振られバッケンを襲う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます