第26話 アタシが相手になるわ!

二人の間の緊張が高まっていく。


バッケンは、恐らくルークは高速の抜き斬りを仕掛けてくるはずだと読んでいた。実はルークの持っている剣は、居合に特化した剣なのである、それをバッケンは知っていたのだ。


片刃で弓なりに反りが入っている、この国では珍しい “刀” という遠い異国の剣である。それを使って “居合” という、抜き切りに特化した独特の剣技を使うはず、それはその構えからも明らかだ。


湾曲した剣ならばこの国にも色々とあるが、地味だが特徴的な意匠のその鞘を見れば、バッケンが捜している男が持っていた剣だとひと目で分かる。


少年は、抜くタイミングを図っているのだろう、居合は距離とタイミングが重要である。だが、高速の抜き斬りであろうと、それを上回る速度の斬り込みで抜く前に・・・・斬ってしまえば問題ない。“居合” は抜かせない・・・・・か、抜かせてしまう・・・・・・・か、どちらかの状態に持ち込めればそれほど恐れるものでもないのである。


バッケンは、抜く前に処断する事に決めた。目で捉える事ができないほどの神速の斬撃で、少年の腕を落とす! 少々乱暴なやり方だが……


バッケンは実は、上級ポーションを用意していた。これならば、斬り落とした腕も接合する事ができる。


素直に話してくれれば、その後、斬った腕も治療してやるつもりだ。自分の復讐のために未来ある少年の人生を棒に振らせるのは忍びない。


相当に値の張るポーション(冒険者の年収1~2年分)であるが、自分の人生は復讐のために費やすと決めたバッケンは、金に執着はなかったし、やっと見つけた手掛かりなのだ、逃がす事はできない。


覚悟を決めたバッケン。刹那、バッケンの身体が歪む。


バッケンの踏み込みが速すぎて姿がブレたように見えたのである。


だが、バッケンの振り下ろした剣がルークの小手を捉えたかに見えた瞬間、ルークの身体もブレた。


慌てて消えた・・・少年の行方を追うバッケン。ルークは道の脇の雑木林の中に居た。バッケンの踏み込みより一瞬早く、 “神速の逃げ足” で逃げ込んだのだ。


バッケン「……最初から、剣で戦う素振りはフェイクだったわけか……だがその逃げ足の速さ、どこで身につけた? やはりあの男から……?」


ルーク「…っ、僕は森の中で育ったんで、こういう場所の方が得意なだけだよ。追いかけっこなら負けないよ?」


バッケン「ふん、舐めるな。レインクラッド流は走法も優れていている。たとえ森の中に逃げ込んだとて、逃しはせん」


『あなた達、何をしてるの!?』


だがその時、通りがかった者が居た。


見れば、家に帰ったはずのポーリンである。


ポーリンは、パーティの拠点であるアパートに帰って、またジャックと顔を合わせるのが嫌で、やはり宿に泊まろうと戻ってきたのだった。


ポーリン「ルーク…バッケン?」


剣を抜いているバッケンを見て、ポーリンも即座に反応して剣を抜いた。


ポーリン「ルーク、大丈夫? バッケン、ルークに何をしようというの? やる気なら私が相手になるわよ?!」



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