第12話 冒険者の少女が森に落ちてたよ
森の中でたった一人で暮らしているフィル老人だったが、全く誰も来ないというわけでもなかった。
ごくまれにだが、訪ねてくる者があったのだ。それは、驚くほど美しい顔のエルフであった。
フィルの古い友人だと言うそのエルフは、若い頃にフィルに森での生き方を教えてくれた師匠でもあるのだという。
魔物が闊歩するこの世界で、人間は城郭都市を作り閉じこもって生きるようになったが、エルフは森の奥深くに集落を作って住み、【森の守人】【森の妖精】などと呼ばれている。
リスティと名乗ったそのエルフは、最初は気まぐれに姿を見せてはすぐに去っていくだけだったのだが、近年、フィルが高齢であまり自由に動けなくなると、フィルの世話をするためにずっと留まってくれるようになった。
その美しい
さらに驚いたのは、リスティは見た目は二十代の若者にしか見えなかったが、実はフィルよりもずっと歳上だと言うのだ。
エルフは非常に長命なのだそうだ。それに比べると人間はすぐに死んでしまう。エルフが人間と友情を育んでも、すぐに別れの時が来てしまう。それが悲しいので、エルフはあまり人間族とは関わりを持ちたがらない者が多いのだそうだ。
だが、リスティとフィルは、
リスティもまた、ルークが知らない事をたくさん教えてくれた。それはフィル爺が知っている知識とはまた違ったものであった。
エルフは弓が得意で、また魔法についても非常に詳しかった。ルークは弓の使い方や投げナイフを覚え、苦手だったクリーン系以外の魔法も少しだけだが上達する事ができたのであった。
また、リスティがフィルについていてくれるようになったので、ルークは街に商売に出かける事ができるようになった。
フィルと一緒に開発した色々な干物や燻製は街でも人気で、持っていけばすぐに売り切れてしまう。(ルークの【クリーン】と【ドライ】のおかげで、時間の掛かる干物もすぐに作れてしまうので、試行錯誤も捗ったのである。)
もっとたくさん持ってきてくれ、どうせなら街に住んで干物をたくさん作って売ってくれと頼まれる事も多かったが、相変わらずルークは街に住みたいとは思わず、気まぐれに干物を売りに来るだけなのであった。
* * * * *
ラハールの街でアマリアと再会した数日後、ルークは今度はラハールの隣町、カビタの街に干物を売りに行った。(今まではずっとこの街でルークは干物を売っていた。)
得意先に納品を終え、フィルとリスティに土産の酒を買って帰路についたルークは、途中、森の中で倒れている少女を発見した。
しかも、一匹のオークがその少女に近づこうとしている。オークは少女に気をとられ興奮しているようで、ルークには気付いていない。
ルークは腰に佩いた刀の鯉口を切るとすばやくオークに近づく。木の根が入り組んだ凸凹のある地形の上とは思えない素早いフットワークで、足音もさせずに風のようにオークの死角からルークは接近する。
抜刀一閃。
残心。
オークの首が地に落ちる。
切り口から吹き出す血を浴びないよう、オークが倒れる角度まで計算に入れた位置取り。周囲に他に敵が居ないか確認し、血払いから納刀。
一般的な剣ではなく、片刃で少し弓なりにそっているルークの刀は、フィル老の愛刀だった鬼斬丸を受け継いだものである。フィル老はもう昔のようには動けないので、愛刀をルークに託したのだ。
罠かも知れないので警戒しつつ、ルークは少女に慎重に近づいた。
美しい顔をした少女であった、服装からどうやら冒険者のようである。だが、息はあるようだがほとんど反応もなく、顔面蒼白である。どうやらオークにやられたわけではなさそうだが、これは放っておくと死ぬやつだとルークでも分かった。
とりあえず、【ヒール】を掛けてみた。ルークの【ヒール】も今ではかなり上達していたのだが……その少女には効果がなかった。
困ったルークは、仕方なく【クリーン】を掛けてみた。それくらいしかルークにできる事はなかったのだ。
すると、反応があった。真っ白だった肌に徐々に赤みが差してきた。
もう一度【ヒール】を掛けてみると、今度は効果があったようだ。
やがてその少女冒険者は目を覚ました。
ルークは水筒を差し出す。
少女は
少女「お……」
ルーク「お?」
少女「美味しい!! 何この水?!」
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