第10話 積もる話
思わず駆け寄ってルークを抱きしめるアマリア。
アマリア「ルーク、ああルーク、生きていたのね! ごめんなさい、ずっとあなたに謝りたかった! あの日からあなたの事を忘れた事はなかった!」
バル「なんだ? 生き別れの家族の再会か?」
ルーク「……シスター・アマリア?」
すっかりベテランの女冒険者の風貌となっていたが、よく見ればその顔は、そしてその声は、間違いなくシスター・アマリアであった。
ルークはアマリアに捕まってしまい、そのまま引きずられ、酒場の席に座らされた。アマリアの勢いに少し困惑気味のルークであったが、あれから十年、話し始めればたしかに二人には色々と積もる話もあるのであった。
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ルーク「てっきり僕の事なんてもう忘れられてるだろうと思って来たのに…」
アマリア「たとえ他の皆が忘れても、私だけは忘れたことはなかったわ! アナタを探すために、私は冒険者になったのよ」
ルーク「ああ、それでその格好? とてもシスターには見えない、歴戦の女冒険者って感じだね」
アマリア「シスターでは街の外の捜索が許されなかったからね。冒険者として活動しながら、アナタをずっと探してたの。ねぇそれより今どこに住んでいるの? 今まで、一体どこでどうしていたの?!」
ルーク「家は……街の外の森の中に住んでるよ、十年前からずっと変わらず、ね」
アマリア「十年前から? ずっと? ずっと探していたのよ? 森の中も随分探したけれど、みつからなかった」
ルーク「かなり森の奥のほうだし、隠蔽魔法が掛かっているらしいから、普通に行ったのでは見つからないようになってるんだ」
アマリア「隠蔽魔法? あなたが掛けたの? あなたそんな魔法使えたの?」
ルーク「僕は使えないけど、一緒に住んでる人がね」
アマリア「一緒に住んでる?! 誰と?! 誰なのそれは?! まさか、恋人とか?! そんな歳のはずないわね、じゃぁその人があなたを連れ去ったの?! あなたは自分から出て行ったわけじゃなくて、もしかして攫われたの?! 相手は盗賊かなにか?!」
ルーク「ちょ、落ち着いて! 別に攫われたわけじゃないし、盗賊でもないよ。森の中でオークに襲われていたところを、その人が助けてくれたんだ」
アマリア「オークに襲われた!? 大丈夫だったの?」
ルーク「死にかけたけどね、まぁなんとか生きてるから、今ここに居る」
* * * * *
あの日、ルークはオークの群れに襲われ、剣で身体を貫かれた。
ルーク自身も、自分は死んだと思った。
だがその直後、ルークを刺したオークの首は宙を飛んでいた。
薄れゆく意識の中でルークが見たのは、剣を振るう一人の老人の姿であった。
突然現れたその老人は、一撃でオークの首を切り飛ばした。だが、一歩遅く、助けようとした少年は剣で身体を貫かれてしまっていた。
老人「くそっ、間に合わなかったか!」
即座にルークの身体から剣を引き抜き、老人はルークに治癒魔法を掛けた。
幸いにも剣は急所を外れており即死は免れていたため、
ルークが咄嗟にクリーンを掛けていた事も奏効していた。オークの剣は錆びてボロボロで非常に汚れておりバイ菌が大量についていた。しかも、強力な毒まで塗られていた。もし【クリーン】をルークが掛けていなかったら、老人のヒールだけでは回復できなかったかも知れない。
仲間が首を切り落とされ、一瞬怯んだ周囲のオーク達。
だが、相手が一人と分かるとすぐに怒りの表情に変わり、老人とルークを取り囲んだ。それでもすぐに攻撃してこないのは、仲間を瞬殺した老人を警戒しての事なのだろう。
だが、興奮するオーク達は遠からず襲いかかってくるだろう。
老人はルークをそっと地面に寝かせると、オーク達のほうを向き、剣の柄に手を掛けた。
老人が剣を抜き、そして着いた血を払い再び鞘に納めるまでは、ほんの刹那の時間でしかなかった。瞬く間に周囲のオークはすべて斬り殺されてしまった。恐ろしい腕である。
オークに襲われてしまった事は不運であったが、たまたま通りかかった者がいた事、その人間がオークの群れを瞬殺できるほど強かった事、オークの剣が急所を外れていた事、たまたまクリーンを使った事で毒に侵される事もなかった事など、不運よりはるかに多い幸運が積み重なっていた。これまでのルークの道程を振り返ってみれば、常に幸運の連続であった。もしかしたら、ルークは生まれながらにして強運を持っているのかも知れない。
老戦士の
弱っている少年を放置していく事もできず、老人はルークを自分の隠れ家に運んで手当する事にした。
森の奥深くにある老人の家で養生する事になったルークは、その後、その老人の家で十年を過ごす事になったのだ。
* * * * *
アマリア「六歳の子供が一人で森の中で魔物に襲われるなんて…怖かったでしょう……ゴメンナサイ、私のせいで……」
ルーク「別にシスター・アマリアのせいじゃないよ。森で生きようと決めたのは僕だ」
アマリア「いいえ、私のせいよ、私がちゃんとアナタを信じていれば……
…私の目は欺瞞で曇っていた、そのせいで真実が見えなかった。
あの後すぐ、あなたが犯人じゃないって分かったのよ! お金も出てきたし、毒は市場で間違って毒キノコが売られていたせいだったの!」
ルーク「え?」
アマリア「だから、あなたは逃げなくても良かったのよ……」
ルーク「なんだ、そうだったんだ……そうか、僕の無実は証明されたんだね。
だったら、森の中に隠れて街に来ないようにしてた意味はなかったね」
アマリア「ルーク……! ゴメンナサイ、辛い生活をさせてしまったわね。もう大丈夫よ、孤児院に戻りましょう!」
ルーク「いや、もう戻る気はないよ。もう孤児院で保護されるような歳じゃないしね。それに、辛い生活でもなかった。フィル爺ちゃんはとても優しくしてくれる、本当の爺ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁって思う。辛くも寂しくもない、幸せな生活だよ」
アマリア「そう、そうだったのね。本当の家族のように接してくれる人に出会えたのね……ほんとにゴメンね、私達があなたの家族にならなければいけなかったのに」
ルーク「もういいって。それより、もう帰らなきゃ。爺ちゃんが待ってる」
アマリア「そう……、また話せるわよね? あなたの無実は証明されているのだから、堂々と街に来て―――住んでもいいのよ? そうだ、そのお爺さんも一緒に、街で住まない? 森の中の生活は不便だし、危険でしょう?」
ルーク「いや、僕もフィル爺ちゃんも、森の中が好きなんだ、塀で囲われた街の中は好きじゃない。それに、危険もないし、不便でもないしね」
ルークはまた食材を売りに来るので、その時にまた会えると言ったのだが、『それはいつなのか?』と社交辞令を許してくれないアマリア。
結局、一週間後の同じ時間にまた来ると約束して、ルークはやっと開放されたのであった。
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