第一章 再会

第9話 ルーク見つかる

ラハールの街


ここは、かつてルークという少年が居た街である。


だが、その幼い少年はある日、世話になっていた孤児院から姿を消した。


その後、誰も少年の行方を知る事はなかった。


時は流れ、そんな少年が居た事も人々の記憶からやがて忘れ去られた。





そんなある日の夕方、街の冒険者ギルドに、一人の少年がやってきた。


ギルドの受付には、依頼クエストを終えた冒険者達が報告のために列を作っている。


だが少年は受付には向かわず、そのままギルド併設の酒場のほうへ進む。


少年は冒険者ではなかった。冒険者として登録しにきたわけでもない。では何をしに来たのか……


少年「マスター? 食材を買って欲しいんだけど」


バル(酒場のマスター)「何があるんだ? 見せてみろ」


少年「色々あるよ。まずは干し肉。オークの肉だよ、オリジナルレシピで美味いよ。試食してみてよ」


小さな干し肉の切り身を出してマスターに食べてもらう少年。


バル「ほう! これは美味いな! 酒のサカナにもピッタリだ! よし、買ってやろう」


少年「他にも色々あるよ、試食してみて、気に入ったら買ってよ。これは同じオークの干し肉だけど燻製にしてある。こっちは、海辺の街で仕入れたサカナの卵を干して保存食にしたものだよ。海辺の街ではカラスメって呼ばれてる」


バル「燻製ってなんだ?」


少年「良い香りのする木くずを燃やしてその煙を使って燻す調理法だよ」


バル「煙で調理した? 煙を掛けたのか? そんな事したら灰の味になってしまわないか?」


少年「まぁ食べてみてよ!」


バル「ほう、これは香ばしくて美味いな! でこっちはサカナの卵? おう、これも濃厚な味で美味いな!」


少年「そのまま食べてもいいけど、すりおろしたりスライスしたりして料理に入れると美味いよ」


バル「よし、買った! いくらだ?」


少年「干し肉は一袋銀貨四枚。燻製は一袋で銀貨六枚。カラスメは一個で金貨一枚だよ」


バル「カラスメは高いな、もう少し安くならんか? それだと料理として出すにもかなり高くなってしまう」


少年「海のモノは貴重だからね、まけるくらいなら自分で食べるよ。その代わり、全部買ってくれたらサービスでこっちの干しキノコをつけてあげるよ。これを煮込んでスープのダシを取ると美味いよ?」


バル「ダシってなんだ?」


少年「こうやって使うのさ」


バーの調理器具を借り、実演してみせる少年。


少年が作ったスープの濃厚で優しい旨味にノックアウトされた酒場のマスターは、干しキノコや海藻の干物など、すべて買ってしまうのであった。


聞けば、少年は街の外の森の中に住んでいるという。


主に干し肉や燻製肉、干し野菜などを作って生活しているのだそうだ。


それを聞いてバルは、少年から食材を定期的に買う約束をしてくれた。


少年「いつもは隣町のほうに行くんだけどね、ちょっと新しい取引先を開拓しようかと思って。…実は、僕はこの街に昔住んでた事があるんだ、来たのは随分久しぶりなんだけどね」


その時、酒場で酒を飲んでいた冒険者の中から一人の女が立ち上がった。


女「う…そ……いや、でも……」


呆然とした表情で立ち上がった女はシスター・アマリアであった。


酒場のマスターと話している少年の顔をじっと見つめるアマリア。


背が伸び、日焼けし、逞しくなっていたが、その顔にはあの日と変わらない面影が残っていた。


……間違いない!


アマリア「ルーク!!」


ルークが孤児院を飛び出してから十年の歳月が流れていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る