第2話 ルーク、出奔する
ヒボルはルークより後に孤児院に引き取られた少年であった。その時ヒボルは四歳、ルークは二歳であった。
親が死んでしまい、荒んだ生活をしばらくしていたヒボルはみすぼらしい格好をしていた。それに比べて、ルークは清潔な衣服を着ていた。
その後、孤児院で暮らすようになってからも、ルークはいつも清潔な服を着ている。
元気に遊んでいれば子供の服などすぐに汚れる。孤児院では、着替えが豊富にあるわけではない。少し汚れたくらいでいちいち服を替えてはくれない。だが、なぜかルークはいつもきれいな服を着ているのである。
それを見て、ルークがシスターや神父様に “えこひいき” されていると思ったヒボルはルークに意地悪するようになったのであった。
もちろん本当は、キレイ好き(感染症に弱い)なルークが自分の衣服が汚れる度に自分で
最初のうちは、ルークは魔法を使っているという自覚はなく、誰でもみんな【クリーン】を使えるものだと思っていた。
ある時、ヒボルの服が汚れているのを見て、ルークは(クリーンを使って)キレイにしないの? とヒボルに言ってしまったのだ。
だが、自分の服が汚れている事を馬鹿にされたと思ったヒボルは、その後、ルークが魔法を使えると言っても信じず、逆にイジメが酷くなったのであった。(そのため、ルークは自分がクリーンを使えると言う事を隠して言わなくなったのであった。)
* * * * *
ルークがどこで毒を手に入れたのかも不明だし、ルークが毒を入れたのを見た者も居ない。冷静に考えれば、今回もルークを犯人と断定するのには証拠が不十分なのだが……
一週間前の盗難事件の時は、証拠不十分と言う事で、ルークの罪は不問と言う事になったが、今回はそういう雰囲気にはならなかった。
今日は、いつも公明正大でルークにも優しかった神父様が出張で不在だったのである。
日頃から少々変わり者であったルークである。おかしなヤツだと思っていた者も多かった。そうなると、金を盗んだのもルークの可能性があると思えてくる。そして、先週の盗難事件から続けての事である。毒を入れたのもルークじゃないかと疑念を抱く者が多かったのだ。
その空気を敏感に読んだいじめっ子のヒボルがさらに追い打ちを掛ける。
ヒボル「俺は見た! ルークが何かをスープに入れてた!」
ルークは皆の皿にスープを注ぐのを手伝っていた。その時に入れたのだろうとヒボルは言う。自分の分だけは、毒を入れる前に先にとりわけて置き、その後入れたのだろうと。
単なる稚拙な推測に過ぎないのだが、「なるほど」と呟いた者が居た事で、皆筋は通っているような気になってしまう。
何にせよ、全員が同じスープを食べていたのにルークだけが平気だったのは事実なのである。
状況証拠しかない状態ではあるが、トール爺とヒボルの発言がダメ押しとなり、誰も彼もがルークが犯人だろうと思い始めていた。
トール爺「覚悟しておくのじゃな、明日になったら街の警備隊に突き出して、牢屋に入れてやる! 毒をどこで手に入れたのかも警備兵が聞き出してくれるじゃろう……まったく、クソガキは痛い目を見んと正直になれんのだから
それを聞いたルークは、朝が来る前に孤児院を抜け出した。
誰も自分を信じてくれない。このままではトール爺さんの言う通り、警備兵に捕まってしまう。そうなれば、きっと、乱暴な取り調べで罪を無理やり認めさせられてしまうだろう。
以前、教会を訪れた旅の者が、自分は冤罪で牢屋に入れられたと話していたのだ。その人物は、本当は無罪だったが、取り調べて酷く殴られ、罪を無理やり認めさせられたのだと言っていた。自分は無実だったのに、神はどうして救ってくれなかったのかと責めるような事を言われ、神父様を困らせていた。それをルークは聞いてしまったのである。
警備兵に捕まれば、身に覚えのない罪でも無理やり認めさせられるとルークは思い込んでしまった。
無実の罪で拷問を受けたり牢屋に入れられるのまっぴらだと思ったルークは、孤児院を抜け出し、街から逃げ出す事にしたのであった。
* * * * *
門の近くに隠れていたルーク。やがて朝になり、街の門が開く。
※この世界では、街の外には魔獣が闊歩しており、街は高い塀で囲われた城郭都市となっている。
このタールの街も、高い壁で囲われた狭い街であり、夜の間は門が閉じられているため、街の外に出る事はできない。だが、狭い街である、街の中にいれば、いずれ捕まってしまうだろう。
門の前には、朝一番で出発したい商人のキャラバンが門が開くのをまっていた。
ルークはその商人の馬車の荷台に素早く潜り込む。
時間となり、門番の警備兵が門を開くと同時に馬車は出発した。荷台を調べられる事もなく、ルークは無事街を出る事に成功したのであった。
街からある程度離れたところでルークは荷台から飛び降りた。
馬車はルークには気づかずそのまま行ってしまう。
街道に一人取り残されるルーク。
だが、ルークは後悔はしていなかった。むしろ、これから始まる自由な世界に心を踊らせていた。
ルークの直感が囁いていたのだ、今こそ旅立つ時だと。
六歳という年齢は、一人で旅に出るのには少し早すぎる気はするが、ルークは自分の直感を信じたのだ。このまま孤児院にいてはいけないと、魂の奥から囁く何かがあったのである。
* * * * *
翌朝になり、トール爺さんが予告通り警備兵を連れて孤児院にやってきた。
そこでルークが居ない事が発覚する。
だが、その時点では、まさかルークが孤児院を抜け出したとは思わず、孤児院の中に隠れているのだろうと皆でまずは孤児院の中と教会の中を捜しまわったのであった。だが、どこにもルークは居ない。そこでやっと、ルークが孤児院を抜け出したのではないかという話になった。
警備兵「だけど、本当にそのルークって子供が犯人なのか?」
トール爺の連れてきた警備兵は半信半疑であった。
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