生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
序章
第1話 お前が犯人だな!
トール爺「ルーク、正直に言え! 毒をスープに混ぜたのはオマエだな?!」
ルーク「違う! そんな事してない!」
* * * * *
教会の孤児院で食中毒が発生した。
シスターも孤児達も全員が倒れて苦しんでいた。
唯一元気だったルークが、教会の隣の花屋のおじさんに知らせ、事態を確認したおじさんが医者を呼んでくれたのだった。
駆けつけて来た隠居の老医師、トール爺さんが煎じた毒消しを飲んで、皆、なんとか持ち直したのだった。
その後、シスター達に原因を訊いたトール爺。だが、シスター達は食中毒を起こすような食材は(今日は)使っていないと言うのであった。
するとトール爺さんが、ならばこれは食材が傷んでいたのではなく、毒が混入されたのだろうと言い出したのだ。トール爺の処方した毒消しが効いた事がその根拠だという。
近所で【鑑定】を使える者が呼ばれ、スープを鑑定してもらうと、トール爺の言ったとおり、スープの中から毒の成分が検出されたのである。
そこで、トール爺さんが、唯一元気だったルークが犯人だろうと決めつけたのである。
だがルークには覚えのない事であった。
ルークは必死で否定するのだが……
トール爺「では何故お前だけ無事だったのだ?」
ルーク「そんなの……知らない」
トール爺「自分のスープにだけは毒を入れなかったんだろう?! やはりコイツが犯人だ!」
ルーク「違う!」
シスター・アマリア「でも、この子はまだ六歳ですよ? 毒なんて……」
トール爺「いいや、年齢は関係ない。悪いヤツは幼い頃から性根が悪いもんなんじゃ」
アマリア「そんな……それはいくらなんでも暴言では? そもそも、何故ルークがみんなが食べるスープに毒なんか入れる必要があるのです?」
トール爺「理由なんかないさ、きっと面白がってやっただけじゃろう、こういうクソガキはそういう事をすんじゃ!」
アマリア「そんなこと……」
シスター・プーリア「あのう……もしかして、一週間前の盗難事件と関係しているんじゃ……?」
アマリア「シスター・プーリア? それはどういう意味ですか?」
一週間ほど前、孤児院でお金がなくなるという事件が起きていた。孤児院の食料を買うための金であったが、シスターの部屋に置いてあったその金がなくなっていたのである。
預かっていたのはシスター・アマリア。お金は机の上に置きっぱなしにしていたと言うのである。そして、さぁ買い出しに行こうとしたところで金が失くなっている事に気付き、騒ぎになったのであった。
確かに、机の上にお金を出しっぱなしというのは迂闊であったが、そもそも教会の中での事。部外者もおらず、警戒心が多少薄らいでいても仕方がないところはあるだろう。
その時、孤児の一人、ヒボルが、ルークが盗んだのを見たと言い出したのだ。
ヒボルは何故かルークの事を毛嫌いし、いつも意地悪してくるいじめっ子であった。
ただ、ヒボルの話をよくよく聞けば、ルークが盗んだのを直接見たわけではなく、シスター・アマリアの部屋に入っていくのを見たというだけの話であったのだが。
ルークがアマリアの部屋に行ったのは事実である。それは、子供達に賛美歌を教えるため、部屋にある楽譜を取ってきてくれとアマリアに頼まれたからである。
だが、その時、机の上に置いてあったお金を盗んだのだとヒボルが言い張ったのだ。
もちろんルークはそんな事はしていない。
だが、皆がルークを疑っていた。少し変わり者であったルークは、皆に気味悪がられていたのであった。明るく面倒見の良いシスター・アマリアでさえ、ルークを疑い詰問し始めた。
実はアマリアは、自分が机の上に出しっぱなしにしておいた事の後ろめたさがあり、とにかく犯人を見つけなければと必死で、ついルークをキツイ口調で責めてしまったのだ。
アマリアは快活でとても元気のよいシスターであった。やや破天荒でシスター長にはよく怒られているが、子供達と一緒によく遊ぶので面倒見が良いと評価されており、子供達に人気のシスターであった。だが、裏を返せば、かなり子供っぽく、また粗忽と言える性格であった。
ルークがアマリアの部屋に行ったのは事実である。それはルークも認めている。そして、他には誰もアマリアの部屋に入った者は居ないという。(盗んだ者が自ら名乗りをあげるはずがないのだが。)
ルークは、持ち物や寝具、着ている服まですべて脱がされて調べられたが、結局お金は出てこなかった。ルークも頑として罪を認めなかった。
結局、神父様が証拠不十分と言う裁定を下した。神父様はルークをこれ以上責めないようにと皆に言ったのだが……
それ以降、大人も子供もみなルークの事を半信半疑で、よそよそしく接するようになったのだ。
プーリア「その時の事を恨みに思って? あるいは盗んだ金が見つかるのを恐れて、食中毒騒ぎを起こした……とか?」
シスター・ブルケ「実は、お金はどこかにやっぱり隠してあって、騒ぎに乗じてそれを取りに行くつもりだったとか……?」
ルーク「そんな事しない!」
ルークは首を振り、否定した。
だが、責められても涙もみせず睨みつける強情な態度が子供らしくない、それも怪しいとシスターの一人、タエが言いだした。
そのシスターを睨みつけるルーク。
タエ「おおこわ。なんて目つきでしょう、まるで犯罪者の目よ、あれは」
* * * * *
六年ほど前、教会の前に赤ん坊が捨てられていた。その子は教会に引き取られ、ルークと名付けられて育てられた。(この世界では、ほとんどの街で教会が孤児院を兼ねている。)
だが、赤子の時のルークは身体が弱く、すぐにお腹を壊したり風邪を引いたりしていた。そのため、この子は長くは生きられないだろうと思われていた。
神父様はそんなルークを気の毒に思い、教会に連れて行き、ルークのために祈った。もちろん、ルークの健康を祈ったのだが、実は神父様も内心では諦めており、すぐに死んでしまうであろうルークが天に召される時に苦しまないよう、そして死後は天国へ行けるように祈ったのであった。
だが、不思議な事に、その時を境にルークは一切身体を壊さなくなった。神父様は神のご加護があったのだと喜んだが……
実は、ルークはその頃、【クリーン】の魔法を無意識の内に覚えたのだった。
【クリーン】は色々なものを浄化しキレイにする、所謂生活魔法である。あまり使える者は多くはないが、日常生活には大変便利な魔法ではある。まだ赤子であったルークは、大人がそれを使ったのを見て、無意識の内に見様見真似でそれを覚えたのであった。(神父様が神に祈ってくれた効果があったのかどうかは定かではない……)
ルークの身体が弱かったのは、生まれつき、感染症に弱い体質であったからである。この世界は細菌についての知識などなく、あまり衛生的ではない。それに、教会や孤児院は常に金欠であり、食材を無駄にする事はできないので、傷みかけの食べ物なども出される事が当たり前であった。健康な者なら大丈夫な程度の傷み方であっても、ルークはすぐにお腹を壊したり病気になったりしていた。
そんな事を繰り返す中で、無意識のうちにルークは「食事の中に目に見えない小さな悪いモノが入っている」となんとなく気付き、ある時、大人が【クリーン】を使っていたのを見て、必死で真似て見たのであった。
赤子なりに必死だったからなのか、才能があったのか、【クリーン】を習得できたルークは、それ以降、口に入るもの身体に触れるもの全てにクリーンを掛けるようになったのだ。
今回の毒の入ったスープを同じように食べたのにルークだけが大丈夫だったのは、もちろんスープを食べる前にクリーンで毒を浄化してしまっていたからである。
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