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「尾形君、勿論だよ。ただ、セクサロイドとの恋愛を禁ずる為の良い案が思い浮かばないんだ。対策としては男性型のセクサロイドは製造禁止といったところか。男性型なんてあるから益々子供を産まなくなるんだよ」
「ですが、それは女性型でも同様では? 」
「確かに男女平等だよ。でもそれは表向きだろ?違うもんは違うんだ。脳も身体も。
例えば女性の下着一枚盗む為に人生を賭ける男達の気持ちは女性には断じて理解出来ないだろう。男の妄想力だよ。男の快感はほぼぺニス一本に集約されているが、その一本を奮い立たせる妄想力こそが男の原動力なんだ。パンティ一枚から女体や匂いまで脳内で再現する。パンティを前にして理想の女性を思い描き、射精というフィニッシュに漕ぎ着けるんだ。女性は全身でセックスを楽しむが、男がセックスを楽しむ為には9割の幻想が必要なんだよ。相手が処女だとかJKだとかいう起爆剤がね。それが無かったら自慰と変わらんだろう。女達が自ら股を開くようになってしまったから処女の価値が大暴落して男達の性欲が衰えてしまったんだろう。勃起する為には幻想が必要なんだよ。男は種まき。女は産み育てる。男の性欲を制御したらダメなんだ。愛なんかなくても子供は作れるよ。だけど女性が産もうとしなけりゃ産まれないんだ。いっそ堕胎も避妊も取り締まった方がいいんじゃないかな」
園田の発言には異常に説得力がある部分と全く説得力がない部分とが混在していた。
「女性下着を盗む為に危険を犯す奴等の気持ちは男の私にも理解出来ません。──本人の望まない妊娠などによる場合は無理に産ませたところで──」
「レイプだろうが貧困だろうが、ともかく先ずは産んでくれだよ。我が国も養子縁組制度を見直し、もっと宣伝しないとな。近くの大国の女の子は西の大国に需要が未だにあるらしいじゃないか。勿論、国際養子縁組なんて逆に取り締まるべきだがね」
尾形は余りにも人間感情を無視した発言に呆然となった。
園田が一瞬アンドロイドに見えた。
何の反論もせずに同じような笑いを貼り付けている閣僚達も。
いや、ひょっとして今目の前に鏡を置かれたら自分も同じ表情をしているのか。
「尾形君、心配してるのはお嬢さんの事か?君のお嬢さんは対象外に決まってるだろう。君は上級国民なんだから」
「では実行するとして対象外は設ける訳ですね? 」
「当然だ。特に厳しくするのは出産可能年齢でありながら結婚する意欲もなく幼児型アンドロイドをペット代りとして『癒されるぅーー』などと言っている女達だ。もっと国に貢献する意識を高めさせないとな。癒されてる場合じゃないと思い知らせねば」
「全国民を敵に回してしまいかねません」
「だから段階的に取り上げるんだ。先ずは若い独身男女をターゲットにし、逆らう者は処罰或いは投獄という鞭を与える。独身男性の中には幼児型相手に猥褻な行為に耽っているのもいるだろうから一石二鳥だろ?その為の法も作らないと。高齢化社会だからね。少数の若者の反発を封じるなんて容易いと思わないかね?所詮人とは自分に禍が降りかからなければ大きな力には逆らわないものだよ。特にこの国の人間はね」
「ですが、今は個人が発言する場は広がり世界に向けて発信出来ます。良い事も……悪い事も……」
「掲示板のカキコメで吠えるのが関の山だろう!次は自分達だと怯えさせるんだよ。アメと鞭を上手く使い分け、スケープゴートを常に用意するんだ。後は洗脳だよ。取り上げられるのは自分が悪いんだと思い込ませる。カキコメにサクラを仕込んでもいい。マスコミも利用して追い込むんだ」
「幼児型は妙な奴等の犠牲にならないように厳しい購入規制を設け──寧ろ……寧ろ……幼児型よりもセクサロイドの齎す弊害の方が遥かにこの先──この国の倫理が風紀が──」
頭の構造がおかしい園田をどうしたら説得出来るかと、尾形はしどろもどろに訴えた。
「尾形君、逆だよ。禁止事項を設けないとは言ってないだろう。風俗と同じだよ。完全に取り締まったらどうなる?性犯罪が増えてしまうだけだ」
「ですが風俗がこれだけあって、セクサロイドまでいるのに性犯罪は減っていません。AVを売る為に脅迫までして女性を出演させる輩は性犯罪者ですよ。需要があるからあるのか?寧ろ需要を途切れさせない為に過激化しているのが現状でしょう。寧ろ単純な性欲処理の補助ではなく性産業を繁栄させる為に好奇心を掻き立てているようにしか思えません。挙げ句の果ては幼児まで……人は刺激に慣れて行きます。刺激に慣れた人間の行き着く先は何処なんでしょうか?手軽に目にし手軽に入る性は人の心に何を生み出すと? 」
「尾形君は若いなあ。沢山の穴が必要なんだよ。犠牲となる代わりの穴がね。レイプされたくなけりゃ穴を塞ぎ肌を隠せばいいじゃないか。でも皆の穴を塞いでしまったら幼女に向かうんだよ。無力な幼女にね」
「レイプとは人間に対する圧倒的な尊厳の破壊行為です。相手に対する尊敬の念があればそんな行為が出来る筈がありません」
「コミュニケーション、尊敬なんて面倒なものは脇に置いておきたい時もある。君も男なら分かるだろう。ひたすら下半身の処理をしたい時もあるんだ。
ぐっと尾形は返答に詰まった。
但し風俗に行った経験を恥じての事ではない。
確かに風俗には行った事はある。
ネットに氾濫する無料のエロ画像を閲覧した事も。
だが所詮は好奇心だ。
当たり前にある好奇心に過ぎない。
男としての性欲を切実に処理する為でない事は確かだ。
結局ハマる事も無かった。
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