異世界奇譚Ⅰ 冷徹な竜に恋をしたのは悪と謳われた女王でした

雪村 亞麻斗

第1話 プロローグ

 今から数千年も昔、数多の種族がこの星で共存していた。


 闇に身を潜める怪異、時には災難を起こす獣や妖精、海に潜む海洋獣。これらは動物の姿をしているものが殆どだが中にはヒトと同じ姿になるものもいる。狼人、魚人などの他にもある種族では怪しい力でヒトに化けることもある。


 人間という種族は繁殖力が高く異種族の中で一番数が多かったため世界の創りは人間に片寄っていった。だが、そんな世界密度の半分を占める人間と、その他の種族で共通する天敵も存在していた。


 この星で最も冷酷で冷徹と言われた竜人族の暗黒竜は、全ての種族が恐れた。人間の世界で起こる大雨や嵐、地震などの天災は全て暗黒竜の怒りが影響して引き起こしていると伝えられ、神の化身とまで語られていた。

 

 





 時は戻ること現代、アシュタル王国の港近くに広大な山が並び草原が広がる場所に大きな屋敷が建っている。その屋敷には多くの異種族が共に暮らしていた。


 現代に至るまで人間の驚くべき進化と進歩により住む場所が失くなった種族は、環境の変化による影響で死にゆく者や、人間との争いの末狩られる者とで数が激減していった。そうして人間社会が広がる世界で異種族は影に身を潜めて生活することを余儀無くされた。

 

 そんな生き場所を失った者たちに救いの手を伸ばしたのが屋敷の現代当主であり、国王と条約を結び手を取り合って共にアシュタル王国を担っているニサ・クラエルの父だった。


 ニサの両親は海を統べる海王神と狼族の間で産まれた父のシザー・クラエルと、戦の女神と人間の間で産まれた母のリリアン・テザーだ。この二人の継ぐ神の血はニサにもしっかりと流れており、血筋は薄いが彼女もまた神の子供である。

 

 シザーはアシュタル王国ができるずっと前から旅をしていた。


 人間が陣地を奪おうと暴動を起こした後、世界は一変した。


 荒れ果てた土地ではその場所を守っていた土地神も留まることが出来なくなり、悪くなっていくばかりの環境に耐えきれず死んでしまう者が出てきだした時、一番に行動を起こしたのがシザーだった。生き場所を失った者を助け、また皆が共存していたあの時代を取り戻すため広い土地に拠点を作りあちこちを飛び回った。そして次第にその数は増えていった。


 人間が人間同士で争い国を作っていく中でシザーも仲間が増えていき、何人か手伝いで一緒に旅へ出るようになっていった。そんな時立ち寄っていた国で体を休めていたところ、別の国から兵が奇襲をかけ襲撃してきた。そこでは非常に快い人々にもてなしてもらっていたこともあり少しだけ裏で手助けをしたところ無事に敵を追い返すことに成功し、そしてそれを見られていたことに気づかず国王に報告されたことから莫大な謝礼を持ち掛けられた。


 だがシザーはそれを断り、その代わりに話し合いをし、承諾されたことでアシュタル王国との条約が締結された。その後、その国で人と紛れて暮らしていた女性、リリアンと出会い二人は想い合う仲になりやがて二人の間にニサが産まれた。

 


 数年後のある日、新たに一人の男が仲間に加わった。


 その男はノアといい、着ている服はボロボロで身体中泥で汚れていた。そして男は何もかもを凍てつかせるような空気を漂わせ、憎悪を相手に感じさせる程の赤い眼をしていた。


 ノアは数少ない暗黒竜の生き残りだ。


 誰に対しても近づけない冷たいオーラを漂わせていたが様々な境遇を持つ仲間と共に過ごすうち少しずつ打ち解けていき、シザー亡き今では当主として跡を継いだニサに忠誠を誓っている。


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