227:ルッツの失恋~後編~

 「もしかして、人のカイエルも飛竜のカイエルと同じようにヤキモチやきだったりしてね。」


 同一人物だから当然なのだが、テオは何気なく核心をついていた。


 「あー・・・そうではあるわね。」


 セレスティアも ついうっかり正直に答えてしまった。


 「うわ、そんなところまで同じなんだねー」


 テオは何気なく言ったことが、まさかそうだったとは思わず笑っていた。


 「ほう。凄いな、やっぱり運命を感じる。」

 

 ケヴィンは再度、運命というものを認識したようだった。

 

 その後は馴れ初めなど聞かれたが、まさか『竜の御目通り』で会ったとはいえないので、セレスティアはごまかすのがちょっと大変だった。(う~~もっと設定を詰めて来るんだった。あとでカイエルとすり合わせしなくっちゃ!)などと、少し大変ではあったが、終始お祝いムードで終わった。だが、セレスティアは気が付いていた。気のせいかルッツが元気がない事に。


 「ルッツ、少し元気がないようだけど、もしかして酔っちゃったとか?大丈夫?」


 セレスティアはルッツの気持ちについては気付いていないので、ただ体調が悪いのかと思ったのだ。 


 「あ、あぁそうみたいだ。」


 ルッツもまさかセレスティアに気付かれるとは思っていなかったので、とっさに酔ったと繕った。


 「そうなのね。じゃあとはお水の方がいいわ。はい。」


 セレスティアは、コップに入ったお水をルッツに渡した。


 「・・・ありがとう。セレスティア。」


 セレスティアの気遣いは嬉しかったが、それはあくまで友人として何だなと思ったら、やりきれない思いがルッツの中にあった。そしてその水を一気に飲み干した。



 その後は解散となり、それぞれが帰路についたのだが、


 「じゃ、行くか。」


 ノアベルトはルッツを放っておくことはできず、そのまま二人で別の酒場で二人で二次会をする流れとなったのだ。







 「・・・まぁ、けどお似合いなんじゃねえの?」


 「・・・美男美女だからな。」


  ルッツは持っていたグラスを見つめていた。


 「ほら、俺がずっと前に食堂で言ってたこと覚えてる?」


 「え?」


 「見守ってやることも愛だって。」


 「・・・あー覚えてるよ。」


 思えば、あの時からあの男カイエルはセレスティアに執着していて、そしてまんまと成就させてしまったのだろうなと、ルッツは納得したのだ。


 「まぁ玉砕するまでもなかったけど、惚れた女の幸せを一番に考えられるのがかっこいいと、俺は思うぞ。」


 「ふっ、確かにな。」


 結婚報告の時、セレスティアは幸せそうな顔をしていた。いけ好かないがあの男は彼女にそんな表情をさせることができるのだと思ったら、ルッツはなんだか諦めがついてきたのだ。


 「セレスティア、幸せに。」


 ルッツとノアベルトは、セレスティアの結婚とルッツのセレスティアへの恋心と決別することに乾杯したのだ。


 「ま、次は新たな恋を探すといいさ。」


 「簡単に言うなよ・・・」


 「意外と身近にあるかもな?」


 「?」


 ノアベルトのその言葉の意味を、ルッツはそう遠くない未来で知ることになるのだ。








 ミュラー侯爵邸__


 ノアベルトはあることを、報告するために、実家の侯爵家に帰省していた。



 カーテローゼの部屋にて___


 「・・・・とまぁ、そういうことだ。」


 ノアベルトは妹のカーテローゼにルッツが失恋したことを教える為に実家に戻ってきたのだ。


 「この時を待っていたんですわ!!」


 高らかに宣言するこの美少女は、カーテローゼ・ミュラー、ノアベルトの妹で侯爵令嬢である。歳はノアベルトより5つ下で、ノアベルトと同じシルバーブロンドの髪に琥珀の瞳の色彩を持つ、巷では美しいと評判の令嬢なのだ。 


 「ルッツ様が、失恋の傷心の中、弱っている今こそ付け入る隙があるというもの!!」


 カーテローゼは拳を作って、力を込めた。


 「うわ~~我が妹ながら、ゲスいことを堂々と言うなぁ・・・・」

 

 カーテローゼは、兄のノアベルトを睨みつけ、


 「何を仰ってますのお兄さま?!私はこれでもずーーーーーーっっと我慢してきたのですわよ?」


 その言葉は実際その通りで、カーテローゼは幼い頃からずっとルッツが好きだったのだ。

ノアベルトとルッツは幼馴染であることから、ルッツはカーテローゼとも仲は良かった。だが、ルッツが竜騎士を目指していることを知っていたカーテローゼは5年縛りが終わるまでは仕事の邪魔はしてはいけないと、ずっと思いを秘めていたのだ。だが、その途中、騎士学校でルッツがセレスティアを好きになったことを知って、かなり落ち込んでいた時期もあったのだ。だが、それでも彼女は諦めずにずっとルッツのことを思い続けていたのだ。

 

 ノアベルトは基本当人たちの気持ちを重視するので、あえて妹の気持ちについては、ルッツには何も言っていなかった。ルッツもカーテローゼのことは幼馴染で親友の妹という位置付けでしかなかったので、異性として特に意識していなかったのだ。


 「おーっほっほっほっほっほっ!!5年縛りも終わってることですし、私、これからは遠慮なくガンガン攻めますわよ!覚悟してくださいませ!ルッツ様!」

 

 カーテローゼは窓の方に向かって、またもや高らかに宣言するのであった。

 

 「うわ・・・」


 妹の高笑いにげんなりするノアベルトだが、それでも妹には頑張って欲しいと思っていた。かなりクセはあるものの、ルッツが竜騎士の5年縛りが終わるまで、邪魔してはいけないと、ずっと思い続けていた子だ。根は優しいことを知っていたからである。


 「ま、あいつが俺の弟になるのも悪くないだろうしな。」


 勿論妹カーテローゼの手腕にかかっているが、なんだかんだ一途にルッツを思い続けているカーテローゼには幸せになって欲しいと思う、ノアベルトであった。




 ※次回の投稿は6/6になります。

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