226:ルッツの失恋~前編~
「・・・はぁ~・・・」
ルッツは盛大に溜息を付いていた。
「お前何回目だよ!」
ノアベルトの指摘通りで、ルッツは既に5回以上は溜息を付いていた。酒場にきて、わずか1時間も経っていないのにも関わらず、である。
「ごめん、意識してないからわかんないね。そんなにしてた?」
「初めは数えてねぇけど、5回以上はしてるな。」
「そっか・・・」
「ま、気持ちはわからないでもないがな。」
「はぁ~・・・」
そして舌の根が乾かないうちに、またもやルッツは溜息をついた。
「だから!」
「なんだよ!溜息ぐらいいいだろ!」
そしてキレてきた。
「・・・まあ言われてみたらそうだな。」
現在、ノアベルトとルッツはニ次会?で二人で酒場に来ていた。先程までは同期のメンバーと一緒に月の兎亭で、飲み食いしていたのだ。そこでルッツは溜息を何度もついてしまうような出来事にあったのだ。
遡ること『月の兎亭』にて__
「「「「「「かんぱーーい!」」」」」」
この日は、久しぶりに同期で集まろうということで、飲み会となっていた。新人であった頃から今は別々の部隊へと配属となり、同期全員で集まるのは久しぶりであったが、相変わらず仲は良かった。始まってしばらくは、皆それぞれの自分の配属部署の近況報告や情報交換などを交わしていた。話が途切れた頃、セレスティアが切り出した。
「・・・えっとね、みんなには先に報告しておこうと思って・・・」
珍しくというか、らしくない様子でセレスティアはもじもじしていた。何となくルッツはその様子に嫌な予感を覚えた。
「へーなんだかセレスティアにしては珍しいね。」
テオもいつもと様子の違うセレスティアに興味深々で、皆がセレスティアに注目していた。
「・・・私ね、結婚することになったの。」
この瞬間、ノアベルトは口に含んでいたお酒を吐き出しそうになり、ルッツは真っ青になって固まっている。
「セレスティアおめでとう!!この中じゃ真っ先だね!」
テオは嬉しそうに祝辞を述べた。
「そうか・・・めでたいな。」
ケヴィンは相変わらず寡黙な様子で、喜びが全面に出ているわけではなかったが、その顔は優しい表情になっていた。
「おめでとう。セレスティア。」
当然ハインツは知っていたが、敢えて知らないふりをしている。
「ふふ、皆ありがとう。」
セレスティアは以前『氷の人形』と、言われていたのが嘘のように、はにかみながら頬を真っ赤にして、照れ笑いをしていた。
「お、おめでとう。」
ルッツはぎこちないながらも、なんとかお祝いの言葉を紡いだ。
「ありがとう。」
ノアベルトはルッツのセレスティアへの思いは知っていたが、当然言えるわけもなく、
「そ、そっか!まさにいつの間にって感じだな!でも、まぁ目出度い事だからな!おし、じゃもう一回乾杯しようぜ!」
何とか必死にその場を取り繕い、皆に乾杯を促した。
「「「「「セレスティアの結婚に!かんぱーい!」」」」」
「みんなありがとう。」
「でさ、相手って誰なの?竜騎士団きっての紅一点を競り落とした強者さ?」
テオは興味深々で聞いてきた。
それについては、皆も興味があった。もちろんハインツは例外である。
「えっとね、」
「カイエル・リューベルクというのよ。」
カイエルはフェルディナントの取り計らいにより、騎士爵を賜り、リューベルクという姓を名乗ることになったのだ。
「カイエル?ってあれ?」
ルッツは思い出した。魔物の騒動の時に、メルシャ村で会った男のことだと。
「もしかして、メルシャ村で会った、あの時の?」
セレスティアはルッツに指摘されて驚いた。(あーそういえばあの時会ったんだったわ。)
「ええ、そうよ。」
「やっぱり!」
ルッツはカイエルを思い出していた。
「え?まじか?ルッツ、知ってる野郎なのか?」
まさかルッツが知っている男だったとは思わず、ノアベルトは驚いていた。
「いや、知り合いってわけじゃないけど、ほら前に、5年ほど前だったかな。踊り子の上演会があったの覚えてる?その時にVIP席に座ってた黒髪の男だよ。」
「!あーあのやたら人目の引いた美形の集団のかよ!」
あの光景を見た者は、相当インパクトがあったらしく、いまだに覚えていたのだ。
「でも面白いね。セレスティアの飛竜と同じ名前だし。」
テオは感心していた。
「あぁ、すごいな。なんていうか運命を感じるな・・・」
ケヴィンの運命という言葉に、セレスティアは少しドキっとした。(実は番なんです。って言えるわけもないし。)
「ふふ、そうなの。偶然にも同じだったのよ。」
当然のことながら、カイエル・リューベルクと飛竜のカイエルが同一人物?であることは内緒であった。
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