217:ローエングリン家の一悶着~②~
固まったソフィアの様子に、セレスティアもセスもディーンも拍子抜けだった。というのも、部屋に入ってくる勢いから、何を言い出すのかと身構えていたからだ。だが、そのソフィアが見つめている視線をたどれば、そこにはカイエルがいた。ソフィアはカイエルを見つめたまま呟いた。
「うそ・・・そんなどうして、貴方が・・・」
セレスティアは、ソフィアの独り言を聞き逃さなかった。(あ!そういえばこの子!)セレスティアは思い出したのだ。ソフィアはカイエルに懸想していたことを。そしてディーンも気が付いていた。カイエルが以前初めてローエングリン邸に来ていたとき、ソフィアがカイエルを見る眼差しから、ディーンはなんとなく気が付いていたのだ。カイエルは部屋の侵入者をさほど気にする様子はなく、マイペースにお茶を啜っていた。
「ソフィア!客人の前で失礼だぞ!」
セスが叱咤すると、ソフィアは我に返り、すぐに謝罪した。
「あ、す、すみません。てっきりセレスティアお姉さまだけだと思っていたので・・・」
(大事な話をしてるって言ってるのに、それもどうなのよ。)セレスティアはソフィアの自分への相変わらずなぞんざいな扱いに、心の中で突っ込んでいた。
「まぁ、とはいえ、もうすぐ身内になるが・・・」
セスは、セレスティアの妊娠報告に気分を良くしていたので、うっかり喋ってしまった。セスの言葉にセレスティアは不味いと思い、
「お、お父様、今はその話は・・・」
何とか話題を逸らそうとしたのだが、既にソフィアはセスの言葉に反応していた。
「え?身内って?」
セスは嬉しそうにソフィアに続きを話した。
「実は、ここにいるお方は、カイエル殿と言ってな。セレスティアと結婚することになったんだ。それで結婚の挨拶に来られたんだよ。」
「な、なんですって!!」
ソフィアは思わず大きな声が出てしまい、そして動揺していた。その様子を見ていたセレスティアは、片手で頭を抱えていた。
「だから、ソフィアも、挨拶を「なんでよ・・・」」
セスが挨拶をするように促そうとしたが、地を這ったような低い声でそれを遮った。
「ソフィア?」
セスは話を遮られるとは思わなかったので驚いたが、ソフィアはセレスティアに向かって問い詰めた。
「なんで、貴方ががこの人と!ううんカイエルさんとなんで貴方が結婚するのよ!!」
ソフィアは怒りの形相でセレスティアに詰め寄った。いつもであればセスやディーンの前で、セレスティアのことを「貴方」呼ばわりなどはしたことはなかった。今はそんなことも頭の中で吹っ飛んでしまったようで、ぞんざいな口のきき方になっていた。
「えーと、それはまぁ思い合っているから?」
さすがに『竜の祖』の番ということは伏せなければいけないので、素直に両想いだからと伝えた。だがそれはソフィアにとって、火に油を注ぐ結果となってしまった。
「!!両想いですって?!!」
ソフィアは怒りのあまり、身体が震えていた。
「私だって・・・」
「え?」
「私だって、カイエルさんのことずっと好きだったのよ?!一目惚れだったのに!あれから全然お見かけすることなくて!だから諦めて結婚したのに!なんで貴方がカイエルさんと結婚するとか、言ってんのよ!!」
まさかの告白だった。
そしてこの告白で、セスは合点がいった。ソフィアがなかなか結婚しようとしなかったのは、そのせいだったのかと納得したのだ。ディーンはなんとなく感づいていたが。
「そうだったのね。ソフィア。だけど、さっきも言った通りなの。私とカイエルは愛し合ってるからよ。」
セレスティアは以前ソフィアが、竜騎士団支部までカイエルに会うために訪問したことで、ソフィアのカイエルに対する気持ちについては気が付いていたが、敢えて今知ったように振る舞った。
「くっ、!何よ!貴方はどうせ、仕事とかで一緒の機会があったから、そんなことになったんでしょ!貴方があの時、カイエルさんに会わせてくれていたら、本当だったら私がカイエルさんと結婚したかもしれないのに!なによなによ!貴方が邪魔したんだわ!!」
ソフィアは目に涙を溜めながら主張したが、残念ながらそれは有り得なかった。例えあの時に会えていたとしても、セレスティアとカイエルの仲は覆ることはないからだ。セレスティアは諭そうとしたが、横槍が入った。
「・・・あー悪いけど、それはねぇから。」
件のカイエルであった。そしてきっぱりと否定した。
※次回は5/23の更新になります。
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