216:ローエングリン家の一悶着~①~

 「・・・ふむ、どうしたものかな。出産が7年の月日を要するのであれば、当然今言うわけにはいかないからな・・・」


 「うーん。」


 カイエルを除く三人が考えこんでいた。



 今日は自分の実家であるローエングリン家に、カイエルと共に妊娠の報告に訪れていた。


 父セスと兄ディーンはセレスティアの懐妊報告に、満面の笑みでとても喜んでいた。


 「でかしたぞ、セレスティア!」


 「結婚なんてしなくてもいいって話していたセレスがついに母親になるのか!」


 だが、出産は7年後だと話すと、二人ともわかり易いくらい意気消沈してしまった。


 「・・・そうか、そうだな。言われてみればカイエルく・・殿は『竜の祖』だ。」 

 

 「・・・人間の型には収められるものではなないのだろうな。」


 そして、セレスティアは『竜の祖』の子供が本来ならばなかなかできないこと。懐妊した場合は自分に子から加護が付与されることを説明した。


 「ふむ、そんなに稀で深刻なものだったのだな。私としては孫ができるのは手放しで喜ばしいことなんだが・・・・」


 「それでね。さすがに子供ができたとなると、いつまでも同棲という訳にはいかないから、カイエルと籍を入れようと思っているのよ。」


 「あぁ、それは勿論だが、実際のところはどうなるんだい?カイエル殿は戸籍があるわけではないだろうしな。」


 ディーンも今はもう自身も子を持つ親という立場になっていたので、余計に妹の行く末が気になっていた。


 「その辺りは、フェルディナント様が、手配してくれることになっているの。一応爵位はあったほうがいいだろうってことで、カイエルには騎士爵が与えられるわ。そうしたら、私が嫁ぎやすいだろうって。」


 平民としてでも良かったが、竜騎士は平民でも騎士爵が与えられるため、それならば同等の爵位をという話になったのだ。騎士爵ならば、実力で爵位を手に入れられるものなので、不自然さはないだろうとの、フェルディナントの考えだった。騎士爵位は一代限りだが、もちろん、武勲を立てれば、さらに上の爵位を与えられることもあるのだ。


 「ふむ、確かにそれなら怪しまれないだろうな。」


 セスも妥当なところだろうと、納得した。


 「・・・それでね、お義母様とソフィアにはどう説明したらいいかなって・・・」


 実は今回の話し合いはむしろこちらがメインだった。セスとディーンに懐妊の報告をすることは何ら問題ないと思っていた。しかし義母であるジョアンナとソフィアについては、正直に事実を話す訳にはいかないことから、表向きの口実を作るため、、セスとディーンの元に相談に来たのだ。


 「「あー・・・」」


 セスとディーンは、考え込んでいた。そこで、冒頭に戻る訳である。


 「・・・ふむ、どうしたものかな。出産が7年の月日を要するのであれば、当然今いう訳にはいかないからな・・・」


 「うーん。」

  

 カイエルを除く三人が考えこんでいるところへ、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 「どうした?」


 「旦那様、それがソフィア様が急にお越しになられまして・・・」


 執事の報告にセレスティアは驚いた。ソフィアは既に結婚して嫁ぎ先にいるはずであったからである。それが何の前触れもなく、突然帰ってきたらしいと。


 「?なんだ。いきなりなんて、」


 ディーンも怪訝な表情だった。


 セレスティアが今日訪れたのは、義母がいない日だとわかっていたからだ。正確には、家にいて欲しくなかったので、ジョアンナはディーンの奥方と一緒に出かけてもらっていた。大事な話をするので、余計な茶々が入るのを恐れたためである。それがまさかのソフィアの奇襲というイレギュラーが発生してしまったのだ。

 (せっかく、お義母様の留守を見計らったんだけどな・・・)

 だが、そんな思いはソフィアの傍若無人な様子で、吹き飛んでしまった。ドアの外から、話し声が聞こえる。


 「ソ、ソフィアお嬢様、今は旦那様とディーン様はセレスティア様と大事なお話をされていますので、ご遠慮・・・」


 「何よ?!嫁いだ娘は大事じゃないっていうの?!いいから入るわよ!」


 ソフィアは執事の制止もきかずにセレスティア達がいるサロンに入ってきてしまった。


 「お父様!お兄さま聞いて!!ひどいのよ!あの人た・・・」


 だが、ソフィアは部屋に入るなり、固まってしまった。

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