193:イリスの陰謀~後編~

 「残念ながら『魔王の欠片』は竜の番以外が持って生まれることはありえない。だけど一度『魔王の欠片』というフィルターにかけることは可能だからね。だから『魔王の欠片』を持つ君たち『龍の祖』の番が必要不可欠だったのさ。」


 「フィルターにかけるってどういう意味なの?」


 セレスティアはフィルターと言われ、何のことだかわからなかった。それについてはハインツもフェルディナントも踊りを中断したエメリーネも訳がわからなかった。


 「そうだね、理解できないと、こちらの話が通じないだろうから、説明してあげるよ。『魔王の欠片』は、太古の昔に魔王が分断されたものなのは、番の君たちも周知のことだろう。そしてそれが時に竜の番の中で稀にだけども魔王化することも。」


 「「「「「??!!」」」」」

 

 番ではないイリスがそこまで事情を知っていたことに、セレスティア達は驚いていた。


 「ふふ、どうして知ってるのか?っていうのが、顔に出てるね。まぁ今はそれは置いて先に話を進めるけど、『魔王の欠片』は先程いう通り、番でしか持ちえないものだ。そして、ほとんど番が魔王になることはなく、眠らせているのが今までの現状だ。」 


 イリスはもったい付けるように間をわざと開けた。


 「だけどね、『魔王の欠片』を持つ君たちの体に過剰な力を入れて、その力を取り出すと話は変わってくるんだよ。」


 「まさか・・・?!」


 セレスティアもそこまで言われてやっと意味がわかった。


 「飲み込みの良い女性は好ましいね。番である者は、全員ではないが不幸な境遇に陥りやすい。その過程にちょっとエッセンスを加えてより境遇をハードにすれば、魔王になる確率は上がるからね。そしてその後は力を促進するために、龍脈のエネルギーを吸収してもらったんだ。そして感情がネガティブになればなるほど闇にも飲まれやすいから、より魔王に近くなる。そして当然『竜の祖』たちは番の魔王化を阻止するだろうから『竜炎浄化』を使うのはわかっていたし、それを利用させてもらったってわけさ。」


 イリスは、『魔王の欠片』を持つヒルダに故意に近づき、故意に魔王にさせるために絶望させたと自白したのだ。ヴェリエルは今にも噛みつきそなくらい怒りをあらわにしていた。


 「・・・つまり『魔王の欠片』を持つ私達が吸収した力は『魔王の欠片』に触れている。そして『竜炎浄化』で、抽出された力はただの龍脈のエネルギーではなくなっていることなのね?」


 セレスティアは射るような目でイリスを見ていた。


 「ご名答。さすがだね。」


 イリスはセレスティアに「よくできました」と言わんばかりの笑顔を向けていた。


 「で、ここまで種明かしをして、それを一体どうするつもりなんだ?」


 ハインツは冷静に言ってはいたものの、彼もまた静かに怒っていた。自分の前世をわざわざ見せられたことと、そしてまだ想像の範囲ではあるが、恐らくヒルダは自分の前世と近い経験をしたのだろうということが、ハインツには確信めいたものがあったからだ。


 「???」


 エメリーネは情報量の多さにまだ頭の中で整理ができていなかった。フェルディナントは厳しい目でずっとイリスの話を黙って聞いていた。


「なぜわざわざ種明かしをしたのだって?それは伝えないと理解してもらえないと、つまらないし、それに・・・」


 イリスは歪んだ笑みでさらに続けた。


 「太古から恐れられている『竜の祖』を出し抜いただなんて気分がいいじゃないか!君たちの悔しそうな顔をみることができて、快感だよ。実に爽快な気分だ!」


 確かにイリスのいう通り、『竜の祖』たちは、イリスに向けて怒りをむき出しにしていた。・・・ただ一人を除いて。


 「悪趣味ね。」


 セレスティアは吐き捨てるように言った。


 「ふふ、なんとでも。」


 そんな時、アンティエルは皆より前に出て、イリスの顔をジッと見ていた。


 「白金の竜、他に何か質問でも?」


 イリスは余裕の顔で、アンティエルを挑発的に聞くも、それは次のセリフまでのことだった。


 「ふむ・・・なるほどな・・・お主ハーフじゃな?」


 「?!」

 

 アンティエルの思ってもいなかったセリフに、イリスの顔色は瞬時に変わった。

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