192:イリスの陰謀~前編~

 「あははは、いやぁ、本当にありがとう。やっと成就する時が来たよ。」


 イリスは本当に嬉しそうだった。そしてよく見ればイリスの傍には、神妙な顔で控えていたディアナがいた。


 「ディアナ・・・?!」


 ダンフィールは驚いていた。この場にディアナがいるとは思ってもいなかったからだ。


 「・・・ふーんそこの彼女に手引きしてもらったってわけかな?」


 ラーファイルにしては珍しい低い声で、ディアナを見ながらイリスに確認した。


 「そうだね。俺一人では中々厳しいから。彼女とは事前に打ち合わせ済みだよ。」


 イリスは悪びれることなくそう言った。


 「・・・てめぇどうやって?・・・筋書き通りってか?だから結界の中で大人しくしていただと?」   


 カイエルは怒りに拳を握りしめていた。イリスを閉じ込めていたのは、カイエルの結界だっただけに、余計に腹が立ち屈辱だったのだ。イリスは笑顔のままで、カイエルの言うことを肯定した。


 「ふふ、お察しの通りだよ。まぁせっかくだからタネは明かしてあげるよ。」


 そう言うと、イリスは意識を失ったヒルダを抱きかかえているヴェリエルに視線を向けた。

 

 「ヒルダ様の、いやもう今は俺のマスターではなくなったな。その番である青玉の竜に俺はあるアイテムを渡したんだよ。いけすかないそこのドラゴンスレイヤーのマスターを弱体化させるための秘蔵のアイテムをね。」


 「・・・それはすでに遺棄したはずだが?」


 ヴェリエルは淡々と話すも彼が発しているそのオーラは怒りに満ちているのは、誰の目にも明らかだった。ヴェリエルはヒルダがイリスに利用されたことがわかり憤りを隠せなかったのだ。


 「そうだね、君は性格的にそうするだろうと思っていた。あれは本当に貴重な物なんだよ。簡単に捨てちゃってくれたけどね。だからね、青玉の竜、君の動向を把握したうえでディアナに拾って来てもらったんだよ。この『氷蝕のペンダント』をね。」


 そう言うとイリスは高々と皆に見せつけるように掲げた。そのペンダントは白と水色の氷の結晶の花であつらえたような、ペンダントであった。


 「・・・なるほどな、ある意味ヴェリエルに合わせた仕様だったというわけじゃな。」


 アンティエルは一目見て、そのアイテムの発揮する効果がわかったのだ。その言葉に、イリスはニヤリと笑い、


 「さすがは『竜の祖』の長、白金の竜。お察しの通り、これを身に付けた者は、狙いを定めた相手の内部を凍らせて動きを封じる、はずだったんだけど・・・。せっかく属性まで合わせて用意してあげたのに、捨てられたんで無駄になってしまったけどね。まぁ代わりに俺が結界を破壊するのに、使わせてもらったからもういいけどね。」


 イリスは、ディアナに『氷蝕のペンダント』を装備させて、自分が閉じ込められている結界の内部を凍らせたのだ。その為に結界は弱体化してしまい、結界はいつ破壊されてもおかしくない状態になっていた。そしてあとは、イリスはひたすらタイミングを伺っていたのだ。


 「・・・だが結局俺がソレを使っていたらどうしたんだ?」


 「ふふ、それならそれで彼のドラゴンスレイヤーを足止めできるから、僥倖だよ。また別の方法に変えるだけさ。事態はいつどう変わるのかわからないだろう。こういうことはいろいろなパターンを想定するのは当然だからね。」


 「で、なんでこんな回りくどい真似をしたんだよ?」


 カイエルの言ったことはもっともな疑問で、その場にいる誰しもが同じことを思っていた。しかし、気付いた者がいた。


 「・・・『魔王の欠片』が目的か。」


 ぼそりとユージィンが答えた。その答えにイリスはユージィンを凝視した。    


 「はは・・・さすがだね。伊達にドラゴンスレイヤーのマスターではないということか。」


 イリスは面白そうにユージィンを見ていた。

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