188:ヒルダの暴走~後編~

 ヒルダの目は、やがて白目が真っ赤になり、瞳が桃色から赤、そして黒へと変色していった。そして目は焦点があっておらず、ずっと独り言をぶつぶつと呟いていた。誰の目にも彼女の身に異変が起きているのは明らかであった。


 「どうし・・てヴェリエル・・・私一人は・・・いや・・・あぁいらない、こんな世界、滅びてしまえばいい・・・どうせ、誰も・・・ヴェり・・エル・・・貴方だけは違う・・・と・・・」


 ヒルダを纏う黒いオーラは段々と大きくなっていた。ユージィンと『竜の祖』はこのままだとヒルダが魔王になりそこなってしまい自滅することがわかっていた。


      

 「うわぁ〜末期状態だな。お前なんで番の言うこととはいえ、一番やっちゃいけないやつってわかってただろ?」

 ダンフィールも一時、竜騎士達相手に誘拐騒ぎを起こしたことがあるのに、どの口が言うんだといった目を、イシュタルから向けられていることに気が付いていなかった。


 「・・・・・」


 ダンフィールが問うもヴェリエルはしばし無言であった。


 「僕は・・・ヴェリエルの気持ち、わかるよ。」


 「あーラーファイルもそういや経験者だったな。」


 ダンフィールは、ラーファイルの言葉に少しバツが悪くなっていた。


 「・・・頭ではわかっていた。番がヒルダが魔王化しそうなら止めなければいけないことも、殺してでも成し遂げなければいけなかったことも。だが・・・」


 ヴェリエルはラーファイルの言葉にやっと口を開いたが、詰まってしまった。


 「うん、わかるよ。番が一番辛かった時に、自分が傍にいなくて、助けてあげられなくて自分を責めたんだよね、ヴェリエルは。僕が以前そうだったらからよくわかるよ。」


 ラーファイルは優しい言葉で語りかけた。ヴェリエルはラーファイルの言葉に、自分の気持ちをわかってもらえたことに泣きそうになるも、次の言葉を続けた。   


 「・・・元より、無理だろうと思ってはいた・・・だが・・・」 


 「・・・それでも、番が望むなら適えてあげようと思ったのね。」


イシュタルがそう言うと、ヴェリエルは俯いたまま頷いた。 

 

 「その通りだ。そして破滅するなら一人ではなく、二人だったら構わないと思ったんだ。」


 ヴェリエルは涙をこぼすまいと、拳に力を込めていた。


 「だから、イリスに渡されたとかいうアイテムもユージィンに使わなかったのね?」


 「あぁそうだ!!竜を屠れるやつなど、そうはいない!だから自らドラゴンスレイヤーのマスターの元に出向いたんだ!」


 ヴェリエルは、自分の不甲斐なさから番の言うことに逆らうことができなかった。だが『竜の祖』として魔王化を見過ごすこともできず、苦渋の選択で共に滅びるために、わざわざユージィンの元に出向いたのだ。


 「愚かなことを・・・ヴェリエルお主の気持ちはわかった。だが今ならば、何とかお前の番を元に戻すことはできる。全員で力を合わせるのじゃ!!」


 「大姉君・・・」 

 

 「うん、僕はあの時は完全にみんなと敵対していたし、あの時の番はもう魔王化しちゃってたから、仕方なかったけど・・・・今は全員いるからきっと間に合う。カイエルも封印が解けているしね!」 


 「大兄君・・・」


 「ちょっと!今僕は女性寄りだから、兄貴っていうのやめてよ。」


 と、ラーファイルが怒るも、カイエルは相変わらずで


 「んなもん、どっちでもいいじゃねぇか。んなことより、とっととやろうぜ。」

  

 「うむ、では初めようぞ!」


 六人揃った『竜の祖』達は円陣を組み、それぞれ詠唱を始めた。





 「あっあっ、あぁあああああああ!!!」


 ヒルダの叫びと共に一気に黒いオーラが放出された。そしてそれは生き物のように、近くにいたユージィン、ハインツ、セレスティアに襲い掛かった。

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