173:セレスティアの『竜紋』~後編~

 セレスティアとカイエルは服と甲冑に身を包んでいた。


 「本当はゆっくりしたいけど、そうもいかねぇしな。」


 「えぇ。このいかにも怪しい紫水晶をどうにかしないとね。」


 二人は、龍脈のエネルギーを吸収している紫水晶を見た。パッと見にはただ大きな美しい水晶が地面に刺さってるかのようにしか見えないが、草むらに隠れているため、本来であれば見つかることはなかったであろう代物だ。


 「じゃ力も戻ったことだし、結界を破壊しよっかなっと。」


 カイエルは準備体操と言わんばかりに片方の腕を肩からぐるっと回していた。


 「ね、それって結界を破壊して、次は紫水晶を破壊するってことでいいのね?」


 「あぁ、こういった使い方するなんざ、どうせ碌なことに使ってる訳がないからな。俺の見立てでは似たようなものが何個かあると思うぞ。」


 カイエルの中では、紫水晶に龍脈のエネルギーを集約していることにかなり違和感があったのだ。


 「でも、善行に使用するかもしれないとは考えないの?」


 「ふん、こんな強力な結界がそんなわけねぇって。それに俺は悪意には敏感だって言ったろ?これを取り付けたやつの悪意の残照が俺にはわかるんだよ。」


 「あ・・・そういうことね。わかったわ。」


 カイエルとイシュタルは悪意を感じることができることをセレスティアは思い出したのだ。


 「ってことで、結界を壊す。」


カイエルはハーフチェンジをして、腕を竜化させた。カイエルは紫水晶に手をかざし、何か呪文を唱えていた。すると、


 パァアアアアン!!

弾かれた音と共に、紫水晶の周りにあった結界はカイエルによって瞬時に破壊された。


 「さてと、あとはこいつを・・・」


むき出しになった紫水晶もカイエルは破壊しようとしたが、セレスティアが待ったをかけた。


 「どした?」


 「待って、なんか様子がおかしい?!」


 「え?」


 結界を無くした紫水晶は突如光出したのだ。


 「なるほどな、結界が無くなったから、自己防衛しはじめたな。ちゃんとトラップを用意してるってか。」


 光が収まったかと思ったがそこにいたのは、大型の4本足の獣だった。モチーフはまるでライオンのようで、たてがみは紫水晶でできており、四肢の関節のところにも紫水晶が突出し、尻尾の先も紫水晶であることから、紫水晶でできた魔獣であることは一目瞭然であった。


 『ガァアアアアアア!!!』


 そして、それは当然襲ってきた。ただしカイエルではなくセレスティアに。


 「てめ!俺の女に手を出すなんて・・「カイエル!!」」


 すぐさまカイエルは前に出ようとしたが、セレスティアに止められた。


 「なんで?」


 カイエルは驚いたが、それより先にセレスティアは動いていた。


 「私は竜騎士なの!守ってもらうばかりなのは・・・!」


 セレスティアは紫水晶の獣の攻撃を寸前で躱した。だがその躱された一瞬で紫水晶の獣は、セレスティアを見失ってしまった。しかし次の瞬間、


 「性に合わないのよ。」


 セレスティアの声が上から聞こえたと同時に、剣を紫水晶の獣の脳天に剣を突き刺した。上から降下した勢いもあり、剣はほぼ紫水晶の脳天から顎まで貫通したのだ。そして剣を差したまま、くるりと身体をひねり地面に着地した。


 「カイエル、『竜紋』ってすごいのね。確かに私、身体能力が上がったみたい。体が思った以上に動けるわ。」


 セレスティアの後ろでは、紫水晶の獣は脳天からひびが入りそれは全体に広がって粉々になってしまった。そしてそれらは霧散したのだ。

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